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79.薬師、心の傷は大きい

「兄さんは僕が守る!」

「しゅてらが守るもん!」


 可愛い声と共にノクスとステラが、俺を守るように目の前に立つ。

 聖女の足元に大きな魔法陣が浮かび上がると、瞬時に輝き出す。


「スノーフォール!」

「フレアフォール!」

 

 肌が針に刺されたような魔力を感じる。

 上位の魔法が発動したんだと、すぐにわかった。


「「えっ……エリート魔法おおおおお!?」」


 背後に隠れているセリオスとエレンドラから驚きの声が聞こえてきた。

 エリート魔法は、魔法の中でもかなり上位に存在していたはず。

 魔法はノーマル、アドバンス、エリート、アークの順に分けられ、一般的にアドバンスからは難しいと言われている。

 さすが俺の弟妹達だな。


 空からは氷の結晶と炎の光が混ざり合い、まるで流星群のようにこっちに近づいて……。


「ちょちょ、二人ともさすがに町の中では――」

「どうしよう……」

「まだこんちょろーるできにゃいの」


 空から降ってくる無数の流星群に俺達は戸惑いを隠せなかった。

 ただ、あたふたとしているノクスとステラは可愛い。


「あれってボス前で覚える技じゃねーかよ!」


  聖女も自分に向かってきているとわかったのか、すぐに防御壁を展開させる。

 ただ、大きさ的には俺達を守れるほどではないだろう。


「はぁはぁ……あと二人ぐらいなら入れ――」


 明らかにいやらしい目で俺を……いや、背後にいる二人を見ている。


「「無理!」」


 そんな聖女の言葉を断ち切るかのように、セリオスとエレンドラは拒否する。

 さらによほど気持ち悪かったのか、俺にべったりとくっついていた。


「くああああああ! お前も道連れだあああああ!」


 聖女は防御壁を解除すると、俺の元へ走ってきた。

 俺達も巻き込むつもりだろうか。

 処刑ルートから、弟妹達の魔法による巻き込み事故ルートに変わるなんて、誰も思っていない。

 まさかこんな結末があるとは、思いもしなかっただろう。

 きっと回復タブレットを飲んでも、俺だけは生き残れるが、平民街は破壊されて町の人達は死んでいく。

 頼りになるはずの勇者パーティーの人達も、今はその実力はない。

 それでも俺はまだ生きることを諦めてない。

 俺は中級マナタブレットを口いっぱいに含めて、あいつにかけることにした。


「ウニョ出てこい!」


 毒をこれでもかと製成し、合成を繰り返す。

 体から魔力がごっそり失っていくが、瞬時に回復していく。

 実際に使ってみると、中級マナタブレットの効能の高さを実感する。


『ウニョーン!』


 空に向かって真っ黒な塊が飛んでいく。

 大きく体を広げると、ドーム状に平民街を包み込むように広がる。

 次第に熱々の鉄板で肉を焼くような音が聞こえてくる。


『ウニョォウニョニョニョニョニョ!』


 わずかに見える隙間から、触手がノクスとステラの魔法を吸収しているのが見える。


「やっぱりあいつはラスボスじゃないか……」


 聖女もその姿に、ただ茫然とするしかないようだ。

 俺達はそんなウニョの見惚れていると、ノクスとステラが俺にもたれてくる。


「はぁ……はぁ……」

「きもちわりゅい」


 明らかに様子がおかしい。

 俺が笑っていれば気持ち悪いと思うのは仕方ない。

 しかし、今の俺はどちらかといえば無表情だからな。


「二人ともこれを食べて」


 異変を感じた俺は中級マナタブレットをノクスとステラに食べさせる。

 魔法が止まるまでの間は魔力を消費し続ける。

 きっと魔力が足りなくなってきたのだろう。

 俺達は兄妹揃って魔法が収まるまで、中級マナタブレットを噛み続ける。

 次第に音が収まってくる頃には、夜が明けたように明るくなっていく。


「二人とも大丈夫か?」

「「うん!」」


 疲れてはいるが可愛い笑顔が返ってきた。

 この小さな体で、平民街を一瞬にして破壊できるほどの力を持っていることに驚いた。

 それでも、我が家の弟妹は最高に可愛くて最強だな。


 問題なのは目の前の聖女だ。

 あいつが問題を作った原因だからな。


『ウニョオオオオオオオ!』


 ただ、今の問題はそこではないだろう。

 空から降ってくる黒い塊が俺を目掛けて飛んでくる。


「ちょ……待てまて! 服を溶かす……」


――ジュー!


 やっぱり間に合わなかったか。

 久しぶりに出てきた真っ黒な毒の塊のこと、〝ウニョ〟は触手を体に絡み付けてくる。


「触手プレイか……? ふふふ、メディスンを仲間にするのもいいな」


 聖女はニヤニヤとしながら、俺の方を見てくるが、原因を作ったのはあいつだからな。


「ウニョ、わかったから少し離れようか?」

『ウニョニョニョニョニョウニョオオオオン!』


 よほど寂しかったのか、体をスリスリと擦りつけてくるが、その度に衣服は音を立てて溶けていく。

 俺は強引にウニョを体から離すと、全身が涼しく感じる。


「「きゃああああああ!」」

「あっ……」


 近くにエレンドラがいたのを忘れていた。

 ついでに同じ男であるセリオスも叫んでいたが、同じものがついているじゃないか。

 俺のがそんなに大き……いや、あの哀れなやつを見るような目は小さいのを驚いていたのか。


「おのれエエエエェェェェ! 俺の推しに何してるんだああああ!」


 そんな様子を見ていた聖女が、再び俺に向かってきた。

 だが、傷ついた俺の心はすぐに立ち直らない。


「「無理無理無理無理無理無理無理無理!」」


 ほら、今だって俺のことは無理だと……ん?

 セリオスとエレンドラは俺にちかづいてくる。


「貴様アアアアアア!」

「「いやあああああああ!」」


 勘違いだとわかり俺の心の傷は減った。

 だが、しばらくの間勇者パーティーの仲間に挟まれながら、全裸で立ち尽くすという別の傷を手に入れた。

 ああ、王都の平民街でも〝変態の兄ちゃん〟と呼ばれる日は遠くはないだろう。


「ぐへへ……」

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