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78.薬師、幽霊に襲われる

 謁見の服を準備した俺達は、平民街に行き串焼きを買いに行くことにした。


「兄ちゃん達、また来たのか!?」

「リシアがどうしても串焼きが食べたいって言うので……」


 いつのまにか常連になり、顔を覚えられるようになった。

 王都に来てから、すでに何度もこの串焼きを買いに来ているからな。

 毎食リシアのために食事に出していたら、覚えられるのは仕方ない。


「ははは、兄ちゃんは神様みたいだな!」

「そうです! メディスン様は歴とした神様なんです!」


 ルーカスは串焼きの店主に俺のことについて熱く語り始めた。

 正直、恥ずかしいからやめてほしい。


「兄ちゃん達に会ってから孤児も減って、街のみんなは内心ホッとしているからな。本当に神様かもな」

「ぐふふふ、これで信仰者が増えたか」


 ニヤリと笑うルーカスに、どこか危険性を感じるが俺は神でもないし、世間から認められるような存在ではない。

 さっきもラグナ悪徳紹介の店主に、物理的に距離を置かれたぐらいだからな。

 店を出る時まで、どことなく距離感があった。

 そんなやつが神のはずはない。

 むしろあの距離の取り方はゴキ◯リに近いだろう。


 それにしても、クレイディーが貧民街での救済活動という名の未来投資が上手くいっているようだ。

 良い人材がルクシード辺境伯家の領地にどんな影響を与えてくれるのだろうか。


「ただ、最近怪しいやつが彷徨っていてな……」

「怪しいやつですか?」

「ああ、呻き声のような……金切り声っていうのか……」


 俺は周囲を見渡す。

 ルーカス達が屋敷になってから、毎晩金縛りと視線を感じるようになった。

 それも平民街に行ってから起きるようになった出来事だ。

 ひょっとしたら、平民街にいる幽霊が取り憑いたのだろうか。


「兄さん、大丈夫?」

「おにいしゃま、ふるえてりゅ」

「だだだ、大丈夫だ!」


 俺が怖がっていると思ったのか、ノクスとステラが心配そうに見つめてくる。

 二人は夜中の視線にも気づかないし、金縛りを感じたことがないと言っていた。

 この世界に転生してきた俺だけ、霊感が強いのだろうか。

 死んだ者にだけ感じる何かが……。


「早く帰ろうか!」


 怖くなった俺はノクスとステラを抱きしめる。

 串焼きを買えば特に用事はない。

 俺達は再び馬車に乗ろうとしたら、刺さるような視線を感じる。


「返せ……返せぇぇッ!! 私の幸せを返せぇぇ!!!」


 喉が裂けるような女性の声が耳に入ってくる。

 ふと、振り返ると後ろは貧民街に繋がる路地裏だった。


「兄さん?」

「おにいしゃま?」


 手を繋いでいたノクスとステラは、俺が立ち止まったから気になったのだろう。


「ああ、何もない――」

「あいつさえ! あいつさえ邪魔しなければ……! 私は……私はッ!!!」


 次第にヒステリックに叫ぶ声が大きく聞こえてくる。

 他の人達は不思議な顔をしているが、俺にしか聞こえないのだろうか。

 これは誰かが俺を呼んでいるのか?

 ゾクゾクと体に残る声が、まるで恐怖が皮膚に染み込んでいくように感じた。


「……返せぇぇ……!」


 今度ははっきりと聞こえた。

 耳元で叫ばれたような、甲高く、引き裂かれるような金切り声。

 思わず肩をすくめるが、周囲の人々は相変わらず何の反応も示さない。

 俺はその場で座り込み耳を抑える。


「兄さん!?」

「メディスン!?」

「誰かが俺を呼んでる……」


 脳内に何度も声が響いてくる。

 まるで耳元でずっと囁かれているようだ。


「精神魔法にかかってるわ!」


 すぐにエレンドラが駆け寄り、呪文を唱えると少しずつ声が遠くなっていく。


「精神魔法はさらに強い魔法で弾き返せば問題ないわ」


 どうやら父のように精神魔法に長い時間支配されていたら性格が変わるが、短期間であれば解呪するまでにはいかないらしい。

 父はよほど長い時間、強い精神魔法をかけ続けられたのだろう。

 あの時、壮絶な戦いをセリオスと共にしてきたんだな。


「あそこに精神魔法の使い手がいるのか」

「私達に任せなさい! 婚約者のお願いなら、目ん玉くり抜いて持ってきてあげるわよ」


 誰も目玉を持ってこいとは頼んでない。

 それでも和ませようとエレンドラが気を使ったのだろう。

 セレオスとエレンドラは、警戒しながら路地裏に入っていく。

 きっと二人に任せたら問題はないだ――。


「いゃあああああああああ!」

「こっちに来ないでエエエエエ!」


 勢いよく二人は走って戻ってきた。

 まるで本当に幽霊に追いかけられて……。


「はぁはぁ……。推しの百合カップルが俺に会いに来てくれだぞ!」


 いや、あれは幽霊というよりは陸上のオリンピック選手だろう。

 まるで100メートル走を9秒台で走っているような速度で近づいてくる。


「死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!」

「身体強化! 身体強化! 魔力が足りないわよおおおお!」

「もう……俺の心のピィーがピィーしちゃうぜ!」


 すぐにノクスとステラを抱きしめて、あいつの声が聞こえないようにする。

 正体がわかれば怖いものではないからな。

 馬車の扉を勢いよく開けた。


「二人ともすぐに馬車に乗れ!」

「「メディスン!」」


 俺の声にセリオスとエレンドラは反応した。


「くそ! またあいつが邪魔を……」


 二人は馬車に乗るかと思いきや、俺の背後にべったりくっつくように隠れた。


「おのれええええええええ! お前はここで死ねエエエエエ!」


 聖女は俺を襲うように飛び込んできた。

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