77.薬師、商会に行く
「あっ、そういえば国王に謁見する日が決まったわよ」
「えっ……」
エレンドラの言葉に俺は立ち止まる。
まさか本当に国王に謁見する日が来るとは思いもしなかった。
「ぐふふふふ、ついに捕まえてましたよ」
「それってルーカス達も行くのか?」
「えっ、僕もですか?」
さっきまで怪しい顔をしていたのに、ルーカスは急に大人しくなる。
「ええ、ルーカスとリシアにも来てもらうことになっているわ」
さすがにあれだけのポーションが作れるのに、俺だけが呼ばれるわけがない。
急に国王の謁見が決まり、ルーカスはあたふたとしている。
ああいう姿を見れば、俺よりも年下の可愛い後輩に見える。
普段はちょっとおかしなやつだからな。
「ここは串焼きでも食べて落ち着こう?」
「また食べるのか? 体にも悪いぞ?」
「買ってくれないの?」
「くっ……」
そして、相変わらずリシアの串焼き愛が止まらない。
セリオスは心配そうにリシアを説得するが、お願いされると断れないようだ。
この間、肉ばかり食べていたらダメだと、野菜を串に刺してみたが、串焼きはやっぱり肉じゃないとダメらしい。
「ついでに串焼きも買えるから問題ないわよ」
「ついでに……?」
「ええ、だって国王への謁見は明日ですもん」
「「「ふぅえええええええ!」」」
エレンドラの言葉に俺達は驚く。
まさか明日に謁見が決まったとは誰も思わないだろう。
それにセリオスも日にちまでは聞いていなかったようだ。
「服も用意しないといけないから、外出するついでに買うわよ」
「串焼き!」
薬が効いて花粉症の症状が落ち着いたのか、今すぐに準備を始めるようだ。
基本的に貴族の服はオーダーメイドで作るが、時間もないため、既製服で対応するようだ。
ある程度の商会であれば、貴族向けの服も取り扱っているらしい。
商会がすぐに対応してくれるのも公爵家の特権だろう。
俺達はすぐに商会に向かうことにした。
「謁見……謁見……」
「ルーカス大丈夫か?」
「無理です。メディスン様の天恵がないと無理そうです」
そう言ってルーカスは俺の目の前に手で作った皿を出す。
ルーカスの顔を見ると、嬉しそうにニヤニヤとしている。
「あー、大丈夫そうだな」
そんなことをする余裕があるなら、問題はないだろう。
商会は貴族街にあり、馬車に乗るとすぐについた。
「ようこそ、ラグナ悪徳商会へ」
「ふふふ、今日は貴族向けの服を探しに来たわ」
どこか不気味な笑みを浮かべる店主にエレンドラは臆することなく話しかける。
二人でコソコソと話しているところを見ると、どことなく悪役同士が話しているように感じる。
今のエレンドラってゲームの時とは違い、綺麗で美人系だからな。
「エレンドラ様、今日はどなたの服を準備すればよろしいでしょうか?」
「この二人を頼むわ」
エレンドラは俺とルーカスを引っ張り、店主の前に差し出す。
「ヒィ!?」
悪役は俺のはずなのに、俺よりも悪人面の店主を前に俺とルーカスは捕まった人質みたいだ。
ルーカスはビクビクして、俺に助けを求めようとしてくる。
ちなみに名前が悪徳商会だが、ちゃんとした商会なのは俺も知ってる。
どんな手を使ってでも、良質な物を手に入れる。
それがラグナ悪徳商会だ。
ちなみにゲームの中でも、お金を出せば欲しいアイテムが手に入った。
ただ、その額がかなり高かったから使う人は少なかっただろう。
「こちらのお召し物はどうでしょうか?」
「本当にこれを着るのか?」
「ええ」
俺は用意された服を言われた通りに着替えていく。
少し戸惑いながらも、いつもと違う見た目に違和感を覚える。
きっと俺の姿を見たら、みんな笑うだろう。
着替えた俺は隣の部屋で待っている、みんなの前に姿を出す。
「いつもより煌びやかで良さそうだな」
「さすが私の婚約者ね」
その言葉に俺は安心するが、納得することができない。
この世界で今着ているような服を大事な日にはよく着るのだろう。
「まるでワンピースにタイツだな」
チュニックと呼ばれるシルク生地の短めなワンピースみたいな服に、タイツ風の脚衣を着ている。
世界観が昔のヨーロッパに似ているが、明らかに抵抗感がある。
まるでクラシックバレエの男性ダンサーの衣装だ。
そこに家紋が入っているマントを装着するのが一般的だ。
ただ、今はマントを準備している時間はない。
「別に違う服もありますよね?」
俺は店主に尋ねる、
この世界がゲームの世界と知る俺にとったら、逃げ道があるのを知っている。
「ただ、国王への謁見となるとやはりこの服装が一般的――」
「別のでお願いします」
俺は無理やり意見を通して、別のものを用意してもらった。
ガッチリした体型であれば、あの服装でも似合うかもしれないが、俺はヒョロヒョロや体型をしているからな。
服も白色のため、遠くから見たらエノキにしか見えないだろう。
「こちらでよろしいでしょうか?」
店主が次に持ってきたのはスーツに似た形の服だ。
時代的にスーツは存在していないが、ゲームの世界だからか存在はしている。
執事達の制服もスーツに似たようなものを着ているからな。
きっと執事達に着させるために、用意した設定が役に立つとは思いもしなかった。
「本当にそれを着るのか?」
「メディスンは何を着てもかっこいいからいいのよ!」
セリオスは心配しているが、エレンドラが問題ないと言うのなら、気にしなくても良いのだろう。
「兄さん、かっこいいね!」
「きもちわりゅくない!」
ノクスやステラの印象も悪くはなさそうだ。
これなら俺が笑っても、印象の効果があっても大丈夫だろうか。
「ぐへへ……」
「ヒィ!?」
少しだけ微笑むと、近くにいた悪役顔の店主が驚いて逃げてしまった。
いくら服装が変わっても、俺は笑ってはいけないようだ。
真っ暗な服装も相まって、悪役っぽく気持ち悪さが倍増していそうだな……。
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