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72.薬師、モテ男になる

 俺が嫌われていても、精神魔法の解呪ができれば問題ない。


「あのー、ここでは精神魔法の解呪ってしてもらうことは――」

「できないです。ここは百合の園です」


 俺は来るところを間違えたのだろうか。

 教会だと思ったが、百合の園っていう別の宗教団体に連れてこられた可能性もある。

 解呪ができなければ、ここにいる意味もないからな。


「教会ではないみたいですね。帰ります」


 俺はノクスとステラの手を握り、百合の園から立ち去ることにした。

 本物の教会を探さないといけないからな。


「ままま、待ってください! ここで解呪もできます!」

「でも、さっきはできないと……」

「ここは教会です! まぁ、推しのカップリングを楽しむ百合の園でもありますが……」


 最後の方が聞き取りづらかったが、教会では間違いないようだ。

 だが、本当に聖女を信じても良いのだろうか。

 ますます行動が怪しいと感じてしまう。


「視線が気持ち悪いな」

「私達を舐めますような目でじっとりと見てくるのよ」


 異様にセリオスとエレンドラが怯えて引いているからな。

 二人はまるで変態を見る女性の目つきをしている。

 変態と呼ばれる俺であっても、我が領地であの視線を俺に向けられたことはない。

 きっと俺よりも変態なんだろうな。


「それで精神魔法を解呪するにはどうしたら良いですか?」

「教会では治療費として……いや、百合の園ではあることを奉納していただきます」

「奉納ですか?」


 聖女はセリオスとエレンドラに視線を向けると、ニヤリと微笑む。


「ヒィ!?」

「キモッ!」


 セリオスとエレンドラの反応からして、よほど聖女のことが気持ち悪いのだろう。

 俺の場合は生理的にはまだ(・・)大丈夫だけど気持ち悪いというカテゴリーだが、聖女に至っては生理的に受け付けない気持ち悪いってことだな。


「女性同士の痴話を奉納してください。それが難しいなら濃厚な絡みでも……いや、この際ハグでもなんでもいいぞ。もうねっとりした、心の底からお互いを求めるような――」

「やっぱりここは教会じゃないみたいだな」


 聖女の言葉に耳を傾けたのが間違いだった。

 明らかにノクスやステラに聞かせてはいけない内容だった。


「痴話ってなに? ハグなら兄さんとすればいいのかな?」

「こんにちわ(・・)ってことかな?」

「気にしなくていい。帰ろうか」


 二人を抱えると強く抱きしめ返してくれた。

 時間を無駄にしたが、可愛い弟妹達が抱きついてくれたから帳消しだ。


「ぐへへへへ」


 あまりの可愛さに笑いが止まらない。


「うわあああああ!」

「きもちわりゅいいい!」


 ノクスとステラは俺を押し除けるように、腕から飛び降りてセリオス達のところへ向かう。

 俺と聖女の周囲には誰もいなくなってしまった。

 いや、俺の笑いが全てを帳消しにしていそうだ。


「ふへへへ、メディスン様かっこいいな……」


 いや、俺にはルーカスがいたか。

 笑った顔を見ても俺をぼーっと眺めている。

 ルーカスはクレイディーって同等ってことだな。


――バン!


 突然教会の扉が大きく開いた。


「こぉらあああああ! 聖女のくせに欲望を剥き出しにするではない!」


 視線を向けると、声を上げながらお婆さんが入ってきた。

 この世界のお婆さんって見た目よりも元気なようだ。


「ヒィ!? ばばあが来やがった!」


 聖女は怯えるように俺の後ろに隠れてきた。


「おい、メディスン。俺を隠せ!」


 さっきまで変態だった姿はそこにはいない。


「隠せって流石にもうバレているだろ?」

「大丈夫だ! 隠してくれたら、何でも願いを聞いてやる。このたわわの胸もいくらでも触らせてやるぞ! ほら、キュートでエッチだろ?」


 ん?

 聖女の性格がゲームとかけ離れすぎて頭が追いつかないぞ。

 それに中身がどことなく、俺と近い何かを感じる。

 性別は男性……?

 いや、これは〝二次元が恋人です〟って言っていた大学生時代が蘇ってくる。

 二次元の恋人なら、こんなにエッチな彼女ができると思っていたからな。


「本当にいいのか?」


 何でも願いを聞いてくれるのだろうか?

 それなら、たわわの胸……いや、俺はもう大人になったんだ。

 まずは父の精神魔法を解呪してもらう方が先だな。


「綺麗なお姉さん達、聖女リアナの邪悪な心を感じたが、やつを知らないかね?」


 近くにいたセリオス達に聞いていた。

 ちなみにセリオスはお姉さんじゃなくて、お兄さんだからな。

 お婆さんは目が悪いのか周囲を見渡している。

 きっとセリオスも綺麗なお姉さんに見えているのだろう。

 まるで何か別のもので、気配を感じ取っているような気がする。


「聖女なら――」


 セリオスとエレンドラは俺の後ろに隠れていると伝えたいのだろう。

 チラッとこっちを見ている。

 ただ、今ここで聖女の場所がバレたら、今後も精神魔法を解呪してもらえるかわからない。

 あまりやりたくはなかったが、この手をつかうしかない。


「ぐへへへへ」


 俺はニヤリと微笑んだ。

 これで少しは離れていくだろう。

 俺の作り笑顔って前は逃げていくほどのダメージがあったはずだからな。


「あれ……?」


 ただ、思ったよりも反応がなかった。

 ノクス達を見てみるが、いつもの逃げるような様子を全く感じない。

 むしろ驚いている。


「メディスンの笑った顔って意外とかっこいいんだな」

「やっぱり私はメディスンと婚約するわ!」


 なぜか俺の作り笑顔が上手くいっているようだ。

 いや、今はうまくいかないほうが良いだろう。


「なんと……世界一の色男なのじゃ!」


 お婆さんが俺に興味を持ったのか近づいてきた。

 久々にした作り笑顔が、まさかこんな効力を発揮するとは思いもしなかった。

 ただ、みんなから好かれているのは心地良かった。


「おい、さっきの気持ち悪い顔をしてくれよ!」

「ははは、俺は今みんなから好かれているんだ」


 好かれるってこんなに心が清々しくなるのか。

 まるで空を飛んでいるような気持ちだ。

 今まで散々気持ち悪いや変態と言った、耳あたりの悪い言葉ばかり聞こえてくることが多かった。

 俺は今日からみんなから好かれるメディスンに生まれ変わるのだろう。

 ああ、空はピンク色だな……。


「メディスン、すまない。俺は百合好きの元男として、この世界を楽しみたいんだ」

「何か言ったか?」


 聖女が何か言葉を発すると、俺の腋に手を差し入れた。

 微かに動く指に俺は耐えられなかった。


「はぁ……ぐへっ……ぐへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへ!」


 俺の笑い声が教会の中に響く。

 聖女は俺を笑わせるために、脇をくすぐってきたのだ。

 だが、その行動がいけなかった。

 次の瞬間、教会が大きく揺れて、女性の絵が描かれているステンドグラスは音を立てて割れていく。


 俺の声に反応しているのかはわからない。

 ただ、まるで地震が起きているようだ。


「ああ……、俺の大事な百合の園が……」


 俺の後ろでは聖女が崩れていく教会に呆然としている。


「みんなすぐに逃げるんだ!」

「このままじゃあぶないわ!」


 セリオス達が弟妹達を連れて教会の外に逃げ出していく。


「おっ、おい! それ以上笑うと俺の百合の園が本当に壊れてしま――」

「ぐへへへへへへへへへへへへへへへ……だめだ。まだ感触が残って笑いが……ぐへへへへ」


 ミシミシと変な音まで聞こえてくる。

 命の危険を感じたのか聖女も一緒になって逃げ出そうとしていた。

 だが、俺が逃すはずがない。

 聖女の腕を俺は必死に捕まえる。


「ぐへっ! これを止めてくれよ! 笑いが止まらぐへへへへへへ」


 まさか笑いすぎて腰が抜けて、動けなくなるとは思いもしなかった。

 思ったよりもこの体はくすぐられるのに弱いようだ。


「知らねーよ! やっぱりお前裏ボスじゃねーかよ!」


 裏ボス?

 俺はどちらかと言えばチュートリアルの説明の段階で死ぬ悪役だ。

 だが、その前に今死ぬかもしれないな。

 音を立てて教会の天上が倒れてくる。


「メディスン様、やはりあなたの笑顔を世界一。いや……神一番素敵です」

お読み頂き、ありがとうございます。

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