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70.薬師、金縛りにあう ※一部クレイディー視点

 ルーカスとリシアが元に戻る頃には、熱い抱擁をしていた二人も俺の部屋に来ていた。


「メディスン、今すぐにこの回復薬を売ってくれ!」

「貴族の令嬢達にもすぐに火がつくわよ」

「いや、令嬢達を燃やすのは……」

「「なわけないでしょ!」」


 部屋に入るや否や同時に詰め寄ってきた。

 どうやら渡した中級の回復タブレットを飲んだのだろう。


「この肌を見なさいよ!」

「肌?」


 俺は言われた通りに、エレンドラに近づき頬を見る。

 エレンドラの肌が普段よりも艶々しているような気がする。


「ちちち、近いわよ!?」


 言われた通り近づいただけなのに、突き飛ばされてしまった。

 やはりエレンドラの力は想像以上に強かった。


「肌艶が前より良くなったね!」

「きゅ……急に婚約したいなんて、今頃遅いわ!」


 ん? 俺っていつ婚約したいって言った?

 きっと近づいたことで、勘違いさせてしまったのだろう。

 今まで騎士ばかりにライフタブレットを飲ませていた。

 ひょっとしたら性別によって効果が違うのだろうか。

 男性は色んな意味で元気になるが、女性は美容効果があるのかもしれない。


「でもセリオスも肌艶が良くなった気が……」


 隣にいたセリオスも頬がツルツルしているような気がする。


「私は元からだ」


 確認したら怒られてしまった。

 体は細身だが、セリオスが女性のはずはない。

 だって、男性キャラクター人気一位だからな。


「ルーカスとリシアと言ったかな?」

「「はい!」」

「君達もメディスンと一緒に行動してもらうが、それは問題ないか?」

「兄貴が一緒なら問題ないです!」 

「串焼きは食べられる?」

「ああ、いくらでも用意しよう」


 セリオスはリシアの頭を優しく撫でると、キラキラした瞳で見つめていた。

 やっぱりリシアは串焼きをくれる人を好んでいるようだ。


「じゃあ、彼らのことを頼むぞ」

「私も婚約の準備があるから帰るわ」


 ルーカスとリシアは保護されるまで、俺達と共に過ごすこととなった。

 絶滅危惧種その2とその3ってことだな。

 ちなみにルーカスとリシアは俺達が泊まっている横の部屋を使うことになった。

 昨日までエレンドラがいたが、彼女は婚約の準備をすると言って屋敷を出て行った。

 また断れば問題はないだろう。

 うるさいクレイディーとエレンドラがいなくなって、これからは平和な日々が続きそうだ。



 翌日、体に違和感があり目を覚ました。

 まるで金縛りにあっているような感覚に、戸惑いを隠せない。

 よほど疲れているのだろうか。


「はぁはぁ……」


 ああ、目の前に霊がいるのは間違いない。

 ただ気配がはっきりとしている。

 ここはちゃんと確認しておかないと、今後も恐怖で寝られないかもしれない。

 それにノクスとステラも一緒に寝ているから、二人が安全に生活するために必要になる。

 俺は恐怖を感じながらも、ゆっくりと目を開ける。


「兄貴、お目覚めですか!」

「へっ!?」


 なぜか目の前にはルーカスがいた。

 まだ朝日も上がっていない夜更けだ。

 たしかルーカスとリシアは隣の部屋で寝ていたはずだぞ?


「ルーカス、近くないか? それになぜいる?」


 体を起こそうとするが、まだ金縛りにあっているのか起こせない。

 

「くくく、少しでも兄貴に近づきたく、寝顔を観察していました」

「近づきたくて……?」


 クレイディーがいなくなったのに、なぜかルーカスからクレイディーと同じような匂いを感じる。

 きっと薬師として近づきたいということだろう。

 勇者パーティーの薬師なら、すぐに俺を乗り越えそうな気もする。

 それだけ熱心なやつじゃないと勇者パーティーには入れないのだろう。

 この国のためにも、ルーカスを育てるのは重要な課題になりそうだ。

 ただ、それをするのは今ではない。


「ルーカス、一緒に手伝ってやるから今は寝ろ」

「はい!」


 あまりの眠たさに俺はそのまま瞼を閉じる。


「はぁ……はぁ……メディスン様……」


 うん……、瞼は物理的に閉じた。

 閉じただけだが、完全に寝たわけではない。


「ルーカス、なぜ同じベッドに入るんだ?」

「先ほど一緒に手伝ってくださると?」

「うん? 今は寝ろと言ったぞ?」

「はい。だから一緒に寝ようと……それにリシアもいますよ?」


 左右にノクスとステラが抱きついているのは、いつものことだから気づいている。

 ただ、足を動かそうとしたが動かなかった。


「むにゃ……串焼き……」


 声が聞こえたと思ったら、俺の脚をガッチリホールドして、リシアは眠っていた。

 どうやら金縛りだと思っていたが、みんなに抱きつかれて身動きが取れなかっただけのようだ。

 夜に串焼きを食べたのに、リシアはまた食べている夢でも見ているのだろうか。


「それにいきなりこんなところに連れてこられたら寂しいですよ」

「ああ……そうだよな」


 確かに屋敷の一部屋を貸してもらえることになっても、ルーカスとリシアは貧民街に住んでいた子達だ。

 いくら俺と歳が近くても、心細いのだろう。


「俺は眠いから勝手にしろ」

「ふへへへへ」


 ルーカスは静かに布団の中に入り、一緒に寝ることになった。

 ああ、いくら大きなベッドでも5人で寝たら狭いな……。


 ♢


「教主様、孤児はこれで最後だと思います」


 メディスン様から神託を受け取ってから、貧民街の孤児達の救済をすることになった。

 一番初めに声をかけた孤児は、今では私の手下として働いている。

 孤児達は総勢20人を超えただろう。


「君達は今の生き方を変えたくないか?」

「どうせ俺達なんかに誰も見向きしない」

「私達は死ぬだけの――」


 私はそっと少女の口を押さえる。


「それは言ってはならないことです。メディスン様はあなた達を早く助けられず心を痛めております」


 私は袋からパンと回復薬を取り出して分け与える。

 回復薬を途中で挟むことで、胃への負担が少なくなると、メディスン様から教わっている。

 過去に若手騎士達も肉の食べ過ぎで、胃を痛めていたがメディスン様は一瞬で解決した。


「うっ……」

「おいしいよ……」


 泣き出す孤児達をそっと抱きしめる。

 メディスン様は本当に心が深いお方。

 本当は自らの手で救済したいはずなのに、勉学のためにと、私に神託を与えてくださった。


「彼らの保護を頼む」

「はっ! では、みなさんこちらでお祈りを捧げましょう」


 私の手下がメディスン様への祈りの捧げ方を教える。

 今までと違う姿を見て、メディスン教に関わることで人生が変わるかもしれないと期待を与えているのだろう。

 身なりも黒い服に包まれ、見た目も貧民街とは思えないほど艶やかでふっくらとしているからな。


「教主様、私達は何をすればいいのでしょうか?」


 誰も手を差し伸べてくれなかった孤児達にとったら、メディスン様がしたことはすぐに彼らを虜にした。

 他の教徒達もメディスン様の施しを求めて集まってくる。


「ああ、君達には無垢な子どもとして、薬師ギルドに近づいてもらう」

「はぁ!」


 メディスン様は同じ薬師のルーカスを大変気に入っておられた。

 そんな彼らを襲ったのは、薬師ギルドだとわかっていても、今の状況では情報が全くない。

 そのために孤児を使って、情報を集めてもらうように頼んだ。

 それに無実だとしてもメディスン様の邪魔になるものは潰してしまえば問題ない。


「これを先に渡しておこう」

「感謝いたします」


 報酬はもちろんメディスン様から頂いた回復薬だ。

 あの快感にハマってしまえば、もう抜け出せないだろう。

 孤児達は地面に頬をスリスリとして、メディスン様に祈りを捧げてから、すぐに行動に移した。


「私もメディスン様に会いに行こう」


 ルーカスのことも気になり、すぐにルミナス公爵家の屋敷に戻ることにした。



 やはりメディスン様の様子を見にきて良かった。


「あいつメディスン様に近いぞ!」


 私は殺気をルーカスに向ける。

 しかし、ルーカスは気づいているはずなのに、こっちを気にすることもなく、メディスン様の顔を眺めている。

 会った当初から孤児のくせに、メディスン様との距離が近いのは気に食わなかった。

 メディスン様の神託だから、助けたのがいけなかったのか?

 それとも私が気絶した一瞬で何かが起きたのか?

 考えれば考えるほど、ルーカスに殺意が湧く。

 私でもあそこまで、メディスン様と顔を近づけたことはない。

 きっとメディスン様も怒って――。


「ななな、なんで一緒のベッドに入ってるんだ!?」


 メディスン様は怒ることなく、ルーカスをベッドに入れた。

 さらに殺気を向けるとルーカスも気づいたのだろう。

 私と視線が合う。


「ふん!」

「くっ、あいつ笑いやがったぞ!」


 私と目が合うと、ルーカスはニヤリと笑った。

 今すぐに殺せるならあいつを滅多刺しにして殺してやる。

 ただ、そんなことをしてしまったら、メディスン様は私のことが嫌いになるだろう。

 今はメディスン様が襲われないように観察するしかない。

 決して、俺がメディスン様を見たいからではない。

 あいつを観察するためだからな。


 その後も朝までルーカスがメディスン様に害を与えないか観察を続けた。

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