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7.薬師、町に出かける

 雪の病魔が落ち着くまで、俺は実験を繰り返していた。


「ぐへへへ、魔力粉は一回しか取り出せないのか」


 再びスライムゼリーを分解してみた。

 出てきたのはゼラチンのみで、魔力粉はあの時の一回しか出なかった。

 大事な成分のような気がして、容器に入れてちゃんと保存している。


 ――トントン!


「メディスン様、御食事を置いておきます」


 扉を開けて食事を受け取ろうと思った時には、静かな屋敷のままだった。

 時折メイドのラナが食事を運びに来ているが、直接お礼を言う前にいなくなってしまう。

 雪の病魔が俺に感染しないようにしているのか、それともまだ嫌われているのかはわからない。

 メディスンの体の中に入ったとしても、簡単に今までのことが変わるわけではないからな。


「ここの領地って貧乏なのか?」


 今日も運ばれた食事はスープとパンだけ。

 メディスンの記憶からしても、同じようなものばかり食べている。

 ただ、特に好んでいるわけではない。


 もちろんいくら動いていなくても、お腹は空いてしまう。

 それに体はメディスンだとしても、美味しいものが溢れていた時代を生きていた俺が満足できるはずがない。


 俺の記憶の中では、意識がなくなる寸前まで働いていた。

 特に家族がいるわけでもないため、そこだけはよかったと心から思う。

 メディスンになる前も、なってからも家族の良い思い出がないのは変わらないな。


「あの時ゲームで言っていた見捨てられたって食料不足だったりもあるのか?」


 王族からの支援がなかったのが問題だと言っていたのは雪の病魔が原因だと思っていた。

 アセトアミノフェンにより病気の被害は減ると思い安心していた。

 だが、今の食料不足なところを見ると、別の問題のような気もする。


 りんごゼリーを作った時に厨房に行ったけど、食べ物は確かに少なかった。

 ゲームで言っていたセリフについても、そこまでは説明はされていない。

 だから、何が原因でメディスンだけが生き残ったかまではわからない。


 食事を終えた俺は現状の確認をするために、町に向かうことにした。

 まだ、雪の病魔が流行っている段階だろう。

 ついでに薬を届けられるようにアセトアミノフェンを鞄に詰めて持っていく。


「うっ……やっぱり外は寒いな」


 いくら雪が降っていなくても気温は低く、息を吐くと真っ白な靄が出てくる。

 まだ本館の屋敷は静かで、雪の病魔と戦っているのがわかる。


 屋敷から領地まではすぐ近くに接している。

 田舎の辺境地だからこそ、その辺の距離感は近いのだろう。

 ただ、町に向かっても声は全く聞こえてこない。


「これだけ寒ければ人がいないのは仕方ないか」


 お店がやっているわけでもなく、静まり返る町に今の現状を知る術もなかった。


――ドンドン!


 そんな中、扉を勢いよく叩いている少女がいた。

 看板を見ると様々な物を売っている商会が経営するお店のようだ。


「こんな時になんだ……」


 店主が店の扉を開けるが、どこか気怠そうな顔をしている。

 ぼーっとしており、焦点が定まらない目をしている。

 明らかに体調が悪いのだろう。

 彼も雪の病魔に感染しているのかもしれない。


「お母さんを助けてください!」

「こんな時に……」

「雪の病魔で……ポーションがないんです!」


 男はジーッと少女の全身を見ると、指を一本立てた。


「金貨一枚なら譲ってやるぞ」

「金貨……」


 その場で少女は呆然と立っていた。

 金貨一枚もあれば、この国では10日ほどは生活できるだろう。

 大体平民家族の一カ月の生活費は金貨三枚ほどだった気がする。

 ゲームをしていた時の情報だから、何年後か先の物価のはずだが高価なのは確かだ。


「金がないやつは帰りな! 俺達もポーションでどうにか生き延びているからな」


 勢いよく扉が閉まると同時に少女はその場でしゃがみ込んだ。


「どうしたらいいの……。お母さんが死んじゃうよ……」


 何もできない自分に悔しいのか泣いていた。

 それだけ今この町――。

 いや、領地でポーションが足りていないのだろう。


 雪の病魔なら俺が治療できる手段を持っているからな。


 小さく震える体が今まで戦っていた少女を物語っていた。

 ひょっとしたら動ける人は彼女しかいないのかもしれない。

 それにそんな母親と一緒に過ごしている少女も感染している可能性がある。


 そんな少女に俺はそっと近づき、着ていたコートを彼女にそっとかける。


 うん……。

 少しカッコつけてみたものの寒いな。

 全身が震え上がるほどだ。


「ぐへへへ、俺が君のお母さんを助けて――」

「うぇーん! 変な人がいるよおおおおお!」


 少女は大きな声をあげて泣き出してしまった。

 声を聞いて色々な家の扉が開いていく。

 どうやら俺は変質者と間違われてしまったようだ。

 ちゃんとコートの中に服を着ているはずだけどな……。


 ただ、顔を出したほとんどの人達が気怠さそうな顔をしていた。

 何かを失った気がしたが、情報を手に入れることができたなら良しとしよう。

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