69.薬師、悪魔の微笑みを覚える
「結局黒幕はわからないってことか」
「尚更、メディスンとあの子達が作る回復薬を公表して、保護する必要があるわね」
ルーカス達が狙われたってことは、俺もその対象になる可能性がある。
平民よりは暗殺しにくいとしても、他の貴族と比べれば俺の存在なんてちっぽけだ。
国境付近の魔物を食い止める役割があるルクシード辺境伯家の長男でも、継ぐのはノクスだからな。
「それでさっきの回復薬はなんだ?」
「そうよ! 体が光る回復薬って――」
「いや、問題はそこじゃない! 光る彼の体が前よりも膨らみを増していたんだぞ!」
「「……」」
俺とエレンドラは目を合わせる。
「セリオスって……やらしいな」
「セリオスって……おかしいわね」
ん?
再び俺とエレンドラは目を合わせる。
「メディスンはセリオスの性格のことを言っているのよね?」
「ん? 性格……ああ、性格だな」
声に出さなくてよかった。
体が輝く中、特に股間から御光が差していたのに気づいていなかったんだな。
ライフタブレットって、なぜか男性の下半身を元気にする効果もある。
気づいていなかった二人にあえて気づかせるように言ってしまえば、今頃俺は変態と呼ばれていただろう。
俺は話を逸らすために、すぐに中級の回復タブレットを製成する。
「ねぇ、セリオス……私が知ってる回復薬の作り方じゃないよね?」
「あれがメディスンの普通だ」
俺は手の平からポロポロと回復タブレットを出すように製成する。
一般的にすり鉢とかで、薬草を粉々にしてポーションとか作りそうだしな……。
「どっちもセリオスに渡した回復タブレットより、効能が良くなっている。はっきり違うのは追加効果があることぐらいだな」
「「追加効果?」」
そういえばポーションには、俺が作ったような追加効果はなかった。
それはルーカスのポーションやポーション専門店に置いてあるやつとも同じだ。
「ああ、ライフタブレットは体を構造的に頑丈にしたり、継続的に元気にする。マナタブレットは、魔力の器を押し広げ――」
「「なんだってええええええ!」」
セリオスとエレンドラの声が響き、耳がキーンっと響く。
防音魔法って外には音を漏れ出さないようにする役割はあるが、室内に大きく響く音は弱められないようだ。
「それってどういうことだ?」
「そうよ! そんなことができたら、人間じゃないわよ!」
「どこから見ても人間だぞ?」
俺は体を見渡すが、人として違うところは特にない。
あるとしたら笑った時に、みんなが逃げていくことぐらいだから。
「王都に連れてきて正解だったな」
「セリオスよくやったわね」
二人は熱く抱擁をしていた。
ゲームの中では、エレンドラは勇者の恋愛相手だったが、セリオスの方がよっぽとお似合いだな。
熱々な二人を見て、居づらくなった俺はひっそりとルーカス達の元へ向かう。
「ラナ、みんなは――」
「あっ、メディスン様!」
「仲良さそうだな」
部屋に入ると、ラナはルーカスと話しており、ノクスとステラはリシアの相手をしていた。
「兄さん!」
「おにいしゃま!」
「「兄貴!」」
ノクスとステラはいつも通りだから問題はない。
ただ、ルーカスとリシアの呼び方はなんだ?
ノクスとステラも目を合わせて驚いているぞ。
「兄貴はやっぱり貴族だったんですね! ラナさんに伝説をたくさん聞きました!」
「串焼き食べたい!」
ルーカスとリシアは我先にと駆け寄ってきた。
ルーカスは薬師として尊敬の眼差しに感じるが、リシアに関しては串焼きをくれる兄貴って感じだろう。
それよりもラナが話した俺の伝説が気になる。
変なことを言っていないか気になるが、ラナとクレイディーっていつも裏で意気投合しているからな……。
今も目を合わせようとしないラナを俺はジィーと見つめる。
「兄さんはノクスの兄さんだ!」
「ちがうー! しゅてらの!」
遅れてノクスとステラもやってくる。
俺っていつの間にか人気者になったようだ。
みんなに囲まれて、ラナの話した伝説なんてどうでも良くなってしまう。
「ぐへへ……あっ!」
急いで口を手で隠すが間に合っただろうか。
気を抜いていたのか、つい笑ってしまった。
ルーカスとリシアの前で笑ったことはないが、さすがに前よりは……。
「あっ、悪魔だ……」
「食べられちゃう……」
ルーカスとリシアは怯えるように逃げていく。
二人とも部屋の縁で震えていた。
「大丈夫! 兄さんは昔から悪魔みたいに気持ち悪いから!」
「うん! おにいしゃま、きもちわりゅい!」
ノクスとステラは、二人を慰めているようだが俺のことを忘れていないか?
俺の心もズタボロだぞ?
それに今まで〝気持ち悪い〟だけだったのに、〝悪魔〟が追加されている。
「メディスン様、口元を隠して笑ったら不気味ですよ?」
「あっ、そうなのか……」
口を隠しながら笑みを浮かべるキャラクターって、確かに悪魔みたいに見えるのは仕方ない。
悪役の俺が笑えば、さらに悪役感が増すのだろう。
「ん? ラナは平気なのか?」
「私は何年メディスン様と一緒に……身震いが止まりません」
どうやらラナも震えが止まらないらしい。
手で口元を隠せば悪魔になることを俺は知った。
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