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65.薬師、婚約はお断りします ※一部クレイディー視点

「ふふふ、ではまた明日そのポーションを作った方達にお話しを聞きに行きましょうね」

「えっ……あっ、はい」


 エレンドラの微笑みに俺はタジタジとしてしまう。

 きっと前世の俺は彼女よりも年上だが、本能的に逆らってはいけないと脳内で警鐘を鳴らしている。

 それにどことなく雰囲気が母と似ているため、さらに断ることができないでいた。


「そのまま婚約して、婚姻届を――」

「ちょっと待った!」


 エレンドラのことをあまり知らないのに、このままだと明日には結婚する勢いだ。

 どうにか止める手立てはないのだろうか。

 セリオスもあとは任せたと言わんばかりに、俺に視線を送っている。

 エレンドラを止められないと思い、セリオスは関わるのをやめたようだ。


「待てないわ……。私はずっと待ってたのよ」


 ここはちゃんと気持ちを伝えた方が良いだろう。


「俺にはまだやることがあるので、その話はなかったことで――」

「はぁん!?」


 ああ、やっぱりエレンドラって怖い人だよ。

 こういう時こそ護衛騎士のクレイディーがいたらよかった。

 いざとなったらあいつを盾にすれば良いからな。

 さっきまで穏やかな空気が流れていたのに、急に真冬のように部屋が冷え切っている。

 あまりにも急ぎすぎて、理由よりも話自体をないことにしてしまった。

 でも俺の一番の目標は処刑ルートの回避だ。

 それにエレンドラの話を聞いて、気になったこともあった。


「薬師ギルドを無くしたら、ポーションの流通は減る。助かる人も助からなくなるし、職を失って路頭に迷うのは間違いだと思う……思います。だから、効能によって適正価格をつけさせるのと、独占しない環境を作るのが第一選択かと」


 クレイディーに孤児の援助を依頼したが、今のままでは孤児を作る可能性がある。

 薬師ギルドで働いている人の中にも、一家の大黒柱もいるだろう。

 その人達の仕事を奪ってしまえば、先は見えている。

 スキルで人生が決まる世界に、第二の転職先があるかと言われたら難しいだろう。

 一生その仕事をしている人達が多いからな。


「メディスン……」

 

 俺は恐る恐るエレンドラをチラッと見ると、彼女は意外にも怒ってはいなかった。

 むしろ目がキラキラと光っている。


「さすがメディスンだわ。メディスン教は差別なく、誰に対しても慈悲深い情けをかける。それこそが、メディスン教が大切にしている教えなのよ」


 ん?

 俺は自分の処刑を回避するためにしか行動していないぞ?

 どちらかといえば、弟妹達に好かれたくて私利私欲に動くタイプだ。


「それにしても、メディスンの御心の広さには恐れ入るばかりだわ。どんな者にも分け隔てなく、手を差し伸べてくださる。そのお導きがなければ、私はきっと今も闇の中をさまよっていたでしょう。ああ、メディスン……いや、メディスン様のお言葉が胸に沁みる……。今日も信仰を忘れず、御名に恥じぬ生き方をしなくちゃ。私なんて私利私欲に塗れたドブネズミよ。いや、それはドブネズミに失礼だわ。虫ケラ以下ね……。でも、人の心は弱いもの。つい他人と比べてしまうなんて……。あの人は今どこにいるのかしら……」


 きっと今この場にいないクレイディーが教育したのだろう。

 ゲームの中のエレンドラはもっとツンツンしていたぞ。

 ロリでツンツンしているのが人気だったからな。

 どちらにせよこの人には関わらない方が良いのだろう。

 ずっと呟いているエレンドラを横目に、俺はセリオスの部屋を出た。


 あっ……また中級回復タブレットの話をするのを忘れていたな。


 ♢


「はぁ……はぁ……メディスン様の匂いが染みついている」


 私はメディスン様から、孤児達をメディスン教の教徒にするように神託を受けた。

 だが、あまりにもお金を頂いた袋から香る、濃厚なメディスン様の匂いに興奮が収まらない。

 さっきまでこのお金はメディスン様の懐にあったもの……。

 ああ、直接メディスン様の胸に触れているようだ。


「ふふふ、このままじゃメディスン様に嫌われてしまうな。代わりに回復タブレットを鼻に入れて……ああ、メディスン様を感じる」


 最近は回復タブレットを鼻に詰めることで、メディスン様が近くにいなくても、隣にいるような気がするようになった。

 これこそメディスン教の教徒として、あるべき姿だろう。


 メディスン様から離れたあとは、子どもを中心に孤児の状況を確認した。

 王都に住む孤児は珍しく単独行動をしている子が多かった。

 基本的に集団で生活していることが多い中、単独で生きられるのはそれだけ王都が発達しているのだろう。


「ああ、君は生きていて辛くないかい?」

「辛いです……。毎日お腹も空いて――」

「ならこれを食べて元気を出しましょう」


 私は袋から回復タブレットを渡す。


「わぁー、体も痛くないし、ポカポカしてくる」

「これがメディスン教の神であるメディスン様のお力です。


 本当は分け与えたくはないが、メディスン様の回復タブレットは依存性がとにかく高い。

 メディスン様の素晴らしさを伝えるには、これが一番手っ取り早かった。


「これで好きな物を食べると良い」

「ありがとうございます!」


 これで彼もメディスン様の教徒になるだろう。

 いくらお金をもらって、お腹が膨れても、あのスッキリ感とメディスン様から抱擁されているような温もりは忘れられない。


「あー、あっちの孤児もメディスン様を求めている」


 私は日が落ちても、路地裏でメディスン様の素晴らしさを伝えていく。

お読み頂き、ありがとうございます。

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