64.薬師、寂しくないもん!
俺は路地裏を出て、別行動をしている弟妹達を探す。
「あいつらどこにいるんだ?」
王都の中を歩くが、どこにも見つからずポツンと一人寂しく佇む俺は悲しくなってきた。
集合場所もわからないため、串焼きが見える場所の近くにある噴水の縁に俺は腰掛ける。
王都の中心にあるところだから、いくら影が薄くても気づくだろう。
「それにしても命令したのは俺だけど、さすがに行動するの早くない? ノクス達にも置いて――」
「あれ? 兄さん一人でどうしたの?」
「うぉー、ノクスー!」
目の前には不思議そうに首を傾げるノクスがいた。
その隣にはラナとステラもいる。
王都の観光から戻ってきたノクスを俺は抱きしめる。
別に俺一人でルミナス公爵家の屋敷に帰ってもよかったが、せっかくなら弟妹達と帰りたいからな。
決して帰り道がわからないとか、貴族街を一人で通るのが怖いとかではないからな。
「しゃみしかったの?」
「うん……ううん。俺がそんなはずないだろ」
別に寂しかったわけではない。
一人でポツンと広い町にいるのが、心細かっただけだ。
だって、まさか急に一人ぼっちにされるとは思いもしなかったからな。
「今日は帰ろうか」
「「うん!」」
弟妹はラナの手を放し、俺の手を握ってくれた。
それだけで一瞬にして、心がポカポカとしてくる。
「もうどっちが兄かわからないですね……」
「ラナいくよー!」
立ち止まっていたラナに声をかける。
俺達はルミナス公爵家の屋敷に、手を繋ぎながら帰ることにした。
屋敷に戻る頃には、日が暮れ始め、すでに夕食の準備ができていた。
「あのー、なぜエレンドラさんがいるんですか?」
「将来の妻が一緒にいてはダメなんですか?」
目の前にギラギラとした瞳で、一緒の席に座り、食事をしている勇者パーティーの賢者エレンドラがいた。
朝に来たのは覚えているが、すでに帰ったと思っていた。
クレイディーがいなくなって少しは落ち着いたかと思ったが、また面倒な人が増えたな。
俺が寂し……いや、心の奥で底で心細いと思ったからだろうか。
弟妹がいれば別にそんな気持ちは起きなかったのにな……。
「いえ、ここはルミナス公爵家の屋敷なので……」
「ちなみに空いている隣の部屋を使わせてもらうことになったわ」
隣の部屋ってラナかクレイディーに使ってもらおうとした狭めの部屋のことだろうか?
公爵家である彼女なら、もっと大きな部屋を使った方がよかったんじゃないのか。
そう思いセリオスに声をかけようとするが、一向に視線を合わせようとしない。
何か弱みでも握られているのだろうか。
「セリオス様、あとでお時間よろしいですか?」
「ああ、いつでも良いから部屋に来てくれ」
話しかけるとやっと目が合った。
だが、すぐに視線を外されてしまう。
食後にルーカスが作ったポーションを見てもらおう。
中級の回復タブレットについても、今後どうするか方針を決めないといけないしな。
ついでにエレンドラがいる理由を聞いておいた方が、気も楽になりそうだ。
食事を終え、少し時間を空けてからセリオスの元へ向かう。
ちなみに今日の食事も野菜ばかりで、弟妹達は我が領地の食事を恋しそうにしていた。
――コンコン!
「メディスンです」
「ああ、部屋に入ってくれ」
部屋の中に案内されると、爽やかな香りが広がってくる。
さすが大人気男性キャラクターだと納得してしまう。
今日も湯浴み後だからか、髪型が違うだけで別人に見える。
「話ってなんだ?」
「あー、薬師ギルドから守ってもらいたい人が二人いるんだけど、一緒に保護してもらうことはできませんか?」
俺は鞄からルーカスが使った小瓶のポーションを取り出す。
興味深そうに見ているが、セリオスも中身が何かはわからないようだ。
「これと関係があるのか?」
「はい。この小瓶の中に入ってるのはポーションで、貴族街にある薬師ギルド直営のポーション専門店より効能が良く――」
「ちょちょ、メディスンちょっと待った!」
セリオスは急いで立ち上がると、部屋の扉を開けた。
「うわああああああ!」
扉が開くと同時に誰かが倒れてきた。
「エレンドラ? ついでだから防音魔法をかけてくれないかしら」
「もう、仕方ないわね!」
なぜ扉の前にエレンドラがいたのだろうか。
立ち上がったエレンドラは防音魔法をかけた。
「それで話を続けて?」
「えっ……あっ、はい……」
エレンドラが聞き耳を立てていたことに、セリオスは何も感じないのだろうか。
扉の外に人がいたなんて、全く考えてもいなかったし気づかなかった。
さすが勇者パーティーの一員だな。
だが、まるでそれが当たり前のように会話を始めるセリオスに戸惑いを隠せない。
「ふふふ、相変わらずかわいいわね」
ギラギラとする視線を向けられるが、俺は気にせず話を続けることにした。
「貧民街で隠れてポーションを作っている子を見つけたんだが、これがその子の作ったポーションです」
「飲んでみてもいいか?」
俺が頷くと、セリオスは剣を取り出した。
少し指先に傷を作った後に、ルーカスが作ったポーションを数滴口に含む。
「うっ……思ったより苦いな」
さっきできたばかりの指先の傷は、すぐに塞がり元の状態になっていた。
「メディスンが効能が良いって言うだけあるわね」
「まるでメディスンが作った回復薬と似ているな」
やはりエレンドラは話を聞いていたようだ。
これからは大事なことを話す時は周囲に気をつけよう。
俺の回復タブレットを食べたことあるセリオスも効能を実感したのだろう。
まるで俺の回復タブレットを液体に変えたのがルーカスが作ったポーションだ。
まぁ、俺の回復タブレットの方が摂取しやすいし、追加効果もあるけどな。
「それでメディスンはポーション専門店より効能が良いってなぜわかったんだ?」
「あー、それは今日外に行った時に寄ってみたんです」
「えっ……外に出たの! 今まで実験ばかりで、お外デートもしてくれなかったのに!?」
いつの間に俺はエレンドラとデートをしていたのだろうか。
俺の記憶ではエレンドラからデートに誘われた記憶は一つもない。
「俺のスキルでポーションの中身を見極める能力があるんです。そこで勉強のためにポーション専門店で見たら、全てが粗雑なポーションでした」
「なに!?」
「ふふふ、勉強でお外デートもいいわね。そのままポーション専門店をプレゼントしたら喜ぶかしら?」
「だから毎回大量に飲む必要があったのか」
これでルーカスのポーションの凄さを伝えることができたようだ。
薬師ギルドのポーションに効能の問題があるのか、意図的に何かが行われているのか、どちらなのかを考える必要がある。
「でも、薬師ギルドはめんどくさいわよね。買収するにしても、あの公爵家が手放すとは思えないし……。あっ、それなら新しく薬師ギルドを作るのはどうかしら? そのまま王様にも献上して、味方につければ問題ないわよね。ルミナス公爵家とウィズロー公爵家が後押しすれば、それぐらいできるから、あとは元の薬師ギルドを経営破綻させれば、問題はないとしてどうやってお外デートに誘おうかな。やっぱりポーション専門店のプレゼントかしら。ふふふ、外堀から固めていけば、婚約も夢ではないわね」
「「うぇ!?」」
エレンドラがずっと小声で呪文のように話しているため、気にしないようにしていた。
ただ、明らかに怪しげな言葉に俺は驚いてしまった
「薬師ギルドの経営破綻をさせるのか!?」
「本当に婚約するんですか!?」
あれ?
セリオスと俺が気になっていたことが違っていたぞ。
「ん? 将来妻になるウィズロー公爵家はメディスンのことを後押しするわよ?」
頼りになる仲間を手に入れたが、どうやら処刑を回避できても、エレンドラとの婚約は回避できないようだ。
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