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62.薬師、心の中でごめんなさい

「妹が迷惑をかけてすまない」

「ああ、どうってことないですよ」


 うん……。

 どうってことないと言いながらも、内心は心臓がバクバクとしてますよ。

 兄妹で仲が良い二人なら、運が良ければ兄を思う妹の話を出せば食いつくと思ったのだ。

 さすが串焼きさまさまですね。


「ここが僕達の住んでいるところです」


 その結果、二人が住む家まで案内された。


「本当に住んでるんですか?」

「孤児なんてこんなものですよね」


 ただ、その光景に驚くしかなかった。

 天井は穴が空き、辛うじて草木の蔓で雨除けができるようなレベルだ。

 チラッとクレイディーの方に目を向けると、彼も頷いていた。

 我が領地では、積極的に孤児でも若手騎士や町での仕事を斡旋している。

 その一人であるクレイディーも、過去に大変な生活をしていた時期があったのかもしれない。

 いつも鬼のような顔をしている父も領主としては、素晴らしい人のようだ。

 きっと父は今も精神魔法で性格が変わって、苦しんでいるのだろう。

 教会で回復魔法を使える人を事前に探しておかないといけないな。


「食べてもいい?」


 リシアの言葉にルーカスはチラッと俺の方を見てくる。


「ちゃんとお兄さんの分も残しておいてね」

「はーい!」

「本当に申し訳ないです」


 ペコペコと謝るルーカスの隣で、妹のリシアは用意した串焼きを口いっぱいに頬張っていた。

 食いつきからして、ずっとお腹が減っていたのだろう。


「それで僕に用があると聞いたのですが……」

「ああ、確認したかったのはポーション――」


 兄のルーカスはすぐに立ち上がると頭を下げた。


「申し訳ありませんでした。悪いのは全て僕です。どうか妹だけには何もしないでください」


 体はビクビクと震え上がり、言葉からは妹を必死に守ろうとする気持ちが伝わってくる。

 さっきまで怒っていたのも、唯一の家族であるルーカスがリシアに教育していたのだろう。


 ゲームの中でのルーカスとリシアは幼い時に両親を亡くして、ずっと孤児として二人で生活していた。

 ある日、ルーカスの才能が薬師ギルドに伝わり、彼は薬師ギルドの頂点まで駆け上がる。

 その後、勇者パーティーに加わる人物の一人だ。

 ひょっとしたら、まだ薬師ギルドに入る前なんだろう。


 ちなみに妹のリシアは錬金釜を使う時にサポートしてくれる愛されキャラだ。

 彼女の好感度次第で成功率が変わるため、馴染みがあるプレイヤーも多かったはずだ。

 俺だって好感度を上げるために、貢ぎまくったのを覚えている。

 串焼きを大量に買ったのも、その時の感覚が残っていたのかもしれない。


「あっ、俺は薬師ギルドの者ではないので気にしないでください」

「本当ですか!? よかったです。勝手にポーションを作っているのがバレたら、今頃この世にはいなかったかもしれないです」

「えっ……」


 ポーションを勝手に作ったら、薬師ギルドから始末されるのか?

 ルーカスの言葉に驚きを隠せない。

 俺も同じ薬師でポーションではないが、新しい回復薬を作った一人だ。


「ポーションの作成方法は薬師ギルドにしか教えられていないので……」


 ポーションの作り方は極秘になっており、ポーションが作れたってことは、秘伝の作成方法を盗み見たという認識なんだろう。

 まさかこんなところに処刑ルートが隠されているとは思いもしなかった。


 セリオスと離れた方が良いと思っていたが、しばらくは一緒に滞在した方が良い気がしてきた。


 家出しようと思ってごめんなさい。


「お兄ちゃんのポーションがないと、町の人達は危なかったんだよ?」

「リシア、口元が汚れているぞ」


 ルーカスは自身の服の袖で、リシアの口を拭いていく。

 きっと口を拭く布すらないのだろう。

 着る服もあまりないのに、自分の服が汚れるのを気にしないルーカスを見て、俺も泣きそうになる。


 悪い兄だと思ってごめんなさい。


「今年は雪の病魔が流行して、販売されているポーションが貴族達に買い占められたんです。だから、僕の作ったポーションで提供したんです」


 まさか俺と同じことをしていた人物がここにいたとはね。

 だから、串焼きの店主はリシアに対して優しかったのだろう。

 孤児でも家があってどうにか生活できているのは、ルーカスが作ったポーションを町の人達が内緒で買い取っていたようだ。


「まるでメディスン様みたいですね……」

「メディスン様?」


 クレイディーの言葉にルーカスは警戒心を強める。

 ひょっとしたら貴族だってバレたのかな。

 孤児からしたら、裕福な生活をしている貴族に対してあまり良い印象を持っていないのは知っている。

 ただ、俺の領地はめちゃくちゃ貧乏だけどな。


「メディスン様は私達、孤児出身の者に対しても恵みを与えて、無償でお薬を配り歩いている神です。親身になって会いに行ける神は、この世界でもメディスン様だけですよ!」

「ははー!」


 胸を張って俺の紹介をしているが、まるでどこかのアイドルのようだ。

 それにリシアがクレイディーに影響されたのか、隣で祈りを捧げている。

 いや、彼女の場合は串焼きに対して祈りを捧げているのかもしれない。


「一応、俺も薬師なんです」


 俺は鞄から回復タブレットを出したかのように見せかけて、合成したばかりの回復タブレットを取り出す。


「これはなんですか?」

「塊になったポーションです」

「へっ!?」


 やはりルーカスの反応からして、回復タブレットは珍しいのだろう。

 彼なら作れている可能性もあったが、固形状にするのは難しいようだ。


「こんなものまで作れるってことは、先輩薬師なんですね!」


 キラキラした瞳で俺を見つめてくる。

 まるで尊敬……いや、神を見ているクレイディーのような姿勢を感じる。


 うちの護衛騎士が変なことを言ってごめんなさい。


 ルーカスは立ち上がると、棚があるところまで向かうと、小瓶を持ってきた。


「これは?」

「僕が作ったポーションになります」


 俺はルーカスが作ったポーションの成分鑑定をする。


【鑑定結果】


 ライフポーション

 成分:エーテルエキス+魔力水

 詳細:魔力を筋骨格に働きかけ、体力を回復させる。


 俺の認識だと、ゲームの中でも本来のポーションは小瓶に入ったものだ。

 成分鑑定をしても成分は同じだった。

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