61.薬師、兄力を見せつける
俺は急いでクレイディーを追いかけるように、路地裏に入っていく。
足を踏み入れた途端、すぐに雰囲気が一転する。
さっきまで暖かく感じた町並みも、急に冷たく肌にくっついてくるようだ。
「まるで貧民街だな……」
ゲームの中では煌びやかな王都の雰囲気しか知られていない。
主人公視点が勇者の王子だから、貴族街にしか目が向けられていないのは仕方ない。
平民街でも商店街と貧民街が、はっきりと光と闇のように対比している。
「メディスン様の肉を奪ったんだ。どうなっても構わないだろ? さぁ、今すぐに――」
クレイディーの声が聞こえてくる。
俺はすぐに駆け寄ってクレイディーを止める。
「おい、その辺――」
「ああ、下賤な私どもにも、どうかメディスン様のお恵みを賜らんことを……」
「ははー!」
俺にぶつかった子どもとクレイディーが、顔を地面に擦り付けて祈りを捧げていた。
確かクレイディーも孤児だったと聞いているが、気が合ったのだろうか。
ただ、変なお祈り方法を教えてはいけない。
「変なことを教えていないだろうな?」
「メメメメメディスン様!?」
クレイディーはやっと気づいたのか、俺と目が合うとパチパチと高速瞬きをしている。
それよりも逃げようとしている子どもをすぐに捕まえる。
「ごめんなさい! 串焼きはもう食べて――」
「串焼き? ああ、それは問題ないけど、まず顔の傷を治したらどうだ?」
俺は回復タブレットを合成して子どもに渡す。
「せっかくの綺麗な顔に傷ができたらどうするんだよ!」
顔の傷が残ったら、いざ大人になった時に困るのは彼女だろう。
もし、ステラの顔に傷があって、婚約破棄されたって言われたら俺は泣いちゃうからな。
まぁ、そんなことを言ったやつは毒物の餌にしてやる。
「ほらほら、メディスン様見てください! 私の顔も傷だらけですよ」
心配してもらおうとしているのか、クレイディーは顔を地面に擦り付けている。
やはりこいつを追いかけないほうが良かったか。
「別に危ないものじゃないから、ゆっくり噛みなさい」
少女は回復タブレットを恐る恐る口に入れる。
頬以外に傷があるかはわからないが、これで他の傷も治るだろう。
貧民街であれば、多少体に傷ぐらいはありそうだしな。
「お兄ちゃんのポーションみたい……」
少女のボソッと呟いた声が耳に入ってくる。
やはり俺の記憶は間違ってはいないようだ。
俺はこの少女のことを知っている。
そして、その兄のことも……。
「よかったらお兄さんにも合わせてもらえないかな?」
「神様がお家にくるの?」
いつのまにか俺は神様になったようだ。
クレイディーと一緒にお祈りをしていたから、何か誤解をしていそうな気がする。
「さらに串焼きをつけるからさ!」
「ははー!」
串焼きを追加することを条件に、お兄さんに合わせてもらうことになった。
ひょっとしたら彼女の中で、串焼きをくれる人が神様という認識になっていそうだ。
俺はすぐに串焼きを買いに行くことにした。
「おっ、兄ちゃん! 弟から伝言があるぞ!」
串焼きの店主はキュルルンとした目でモジモジとしだした。
「三人で観光してくるから、クレイディーと仲良くしないとだめだよ?」
戻ってくるのが遅かったからか、ラナがノクスとステラの面倒を少しだけ見てくれるようだ。
ただ、この店主のモノマネは全くノクスに似ていない。
ノクスはいつも目をキラキラさせて、少年のような眼差しをしている。
この世界で一番可愛いからな!
そして、ステラも一番だ!
世の中で一番が二人いても問題はない。
あえて何も反応せず、串焼きを持ち運びできるように、包んでもらった。
大量に買ったけど、二人で食べられるのだろうか。
すぐに二人が待つ路地裏に戻っていく。
「ずっと帰ってこないで何をしていたんだ!」
「串焼きを食べてたの……」
「また盗んだのか!」
「ごめんなさい」
怒鳴り声が路地裏に響く。
声からしてさっきの少女だろう。
俺とそこまで年齢が変わらないであろう男が少女を怒っていた。
少女の目からはポタポタと涙が溢れている。
確かに盗むのは良くないが、話も聞いてないのに怒るとは、同じ兄として考えさせられる。
「あのー、すみません。俺が勝手にあげたことなので……」
「勝手なことをしないでください!」
止めるように声をかけたが、俺は怒られてしまった。
あー、それはクレイディーがいる前で、言ってはいけないことだぞ。
「貴様、メディスン様のになんて事を……。今すぐぶっ殺――」
「クレイディー落ち着け」
俺はすぐにクレイディーの手を掴む。
「メメメメメディスン様!?」
少しだけクレイディーの扱い方がわかってきたような気がする。
クレイディーはすぐに地面に座り込む。
相変わらず俺のことを崇拝しているかのような眼差しで、地面に頬をスリスリしていた。
「ほら、リシア行くぞ!」
兄は少し強引に妹の手を引っ張っていく。
まだ、串焼きを食べたかったのか、俺をチラチラと見ている。
「少し待ってもらってもいいですか?」
「なんですか?」
「俺はこの少女と取引をしているんでね」
俺は持ってきた串焼きを少女に渡す。
重くないか心配だったが、嬉しそうな串焼きを抱きかかえている。
「ありがとう」
「ああ、お兄さんと食べたかったんだろ?」
「うん……」
彼女が兄思いだって俺は知っている。
この二人はゲームに出てくる薬師のルーカス、錬金術師のリシアと兄妹愛がある人気キャラクターだからな。
お読み頂き、ありがとうございます。
この作品を『おもしろかった!』、『続きが気になる!』と思ってくださった方はブックマーク登録や↓の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価して下さると執筆の励みになります。
よろしくお願いします(*´꒳`*)