60.薬師、護衛騎士に疲れる
「おい、クレイディー! お前は俺達の護衛騎士だからそんなに離れるなよ!」
「いやいや、私がメディスン様のお側にいるなんて無理です!」
クレイディーに直接触れたら、俺から距離を取るようになってしまった。
しかし、クレイディーに嫌われたと思っていたが、そうでもなかった。
「はぁ……はぁ……メディスン様」
今も建物の隙間に隠れて、俺達を見ている。
しっかりと仕事をこなす立派なストーカーになったようだ。
それよりもポーション専門店で成分鑑定して、世の中のポーションが明らかにレベルが低いことに驚いた。
セリオスが俺を必死に王都へ連れてきた理由を今になって実感する。
一瞬、本当に俺を嫁にするのでは?
と勘違いしそうになったが、俺の作った回復タブレットは異次元の効能だった。
ただ、それと同時に大きな問題が出てきた。
「これどうしたらいいんだろうな……」
「兄さん、それなに?」
「しらにゃいくしゅりだね」
俺の手には実験で作った中級の回復タブレットがある。
下級の回復タブレットですら、市場で出回っているポーションよりも上位互換なのに、それを上回る効能。
あの成分鑑定をしたポーションの出来が悪いのか、それとも全てのポーションの出来が悪いのか調べる必要がある。
場合によっては、この回復タブレットは永遠に表舞台へ出ることはないだろう。
俺は自分の命が大事だからな。
危ない橋を渡ってまで、お金が欲しいわけでもない。
俺達家族や領民が安心、安全で幸せな生活ができれば、他の人なんてどうなっても構わない。
「兄さん、難しい顔してどうしたの?」
「かおがおかちいよ!」
どうやら二人に心配をかけてしまったようだ。
「よし、今日は王都で遊ぶことだけを考えようか!」
せっかく王都に来たのなら、たくさん遊んで思い出を作った方が良い。
それに町の中を見て、しばらく俺達が滞在する家も探したい。
いくらお金があったとしても、貴族街で家を買ったり、借りたりするのはやめておこう。
あんな人達に囲まれた環境では、ノクスとステラに対して悪影響だ。
「出発だあー!」
「「おー!」」
俺達は王都を楽しみながら、まずは不動産屋を探すことにした。
「坊ちゃんと嬢ちゃん、串焼きはいらないか!」
「カッコいいお兄さんに買ってもらいなさい!」
平民街はどこの領地も似ているのか、賑わっている。
きっと観光客も多いのだろう。
俺の顔を見ても声をかける強者ばかりで、俺の方が驚いているぐらいだ。
「兄さん、串焼きが売ってる!」
「しゅてらたべたい!」
勧められた二人は俺の手を引っ張って、串焼きを買いに行く。
ついでに不動産屋の情報でも聞いておこう。
ゲームの中では、そんな場所はなかったからな。
「熱々だから気をつけて食べるんだぞ!」
「「はーい!」」
ノクスとステラは店主から串焼きをもらい、口いっぱいに頬張っている。
「兄ちゃん、そんなしかめっ面するなよ」
「してないです」
ああ、きっと傍から見ても俺は不機嫌だろう。
だって、ノクスとステラが、串焼きに気を取られて手を放してしまったからな。
さっきまで俺のこと大好きオーラが出ていたのに、今では串焼き大好きオーラだ。
「ぐへ……」
串焼きに毒物でも混ぜて、食中毒で営業停止にしてやろうかと、脳内をチラつく。
いや、そんなことをしたら本当に弟妹達に嫌われるだろう。
「この辺で家を借りるのに、相談するところはありますか?」
「あー、それならこの先を歩いた商会がおすすめだぞ」
情報を聞けば、商会で物件を紹介も行っているらしい。
それを聞けばこの店には用がないからな。
俺はお金を渡し、串焼きを受け取ろうとした瞬間、衝撃が走った。
「うっ……」
「兄さん、大丈夫?」
「あぶないね」
ステラやノクスとさほど変わらない少女が、思いっきりぶつかり走っていく。
スリかと思いポケットを確認するが、お金はちゃんと持っていた。
「己……、メディスン様の手に触れやがって! 処刑だ!」
何か不吉な言葉が聞こえてきたが、どうやら俺を処刑する人がいたわけではないようだ。
「串焼き取られちゃいましたね」
「しゅてらのいりゅ?」
さっきの子は串焼きが欲しくて盗んだのだろう。
王都は我が領地より物騒な町のようだ。
「いいのか?」
「あーん!」
でも、そのおかげでステラが俺に串焼きを食べさせてくれた。
眉間に寄ってたシワも、今では一瞬で消えていく。
「兄さん、僕もう食べちゃったよ……」
ノクスも俺に食べさせたかったのだろう。
串のみを持って落ち込んでいる。
流石に串を食べるわけにはいかないからな……。
やっぱり可愛い弟妹達が1番の癒しだ。
「兄ちゃん、サービスだ。あいつのことは許してあげてくれ」
店主は申し訳なさそうに串焼きを渡してきた。
話を聞くと、やはり王都にいる孤児らしい。
王都の中では貧富の差が激しいのか、さっきのような似た子がチラホラといるようだ。
ここから見える路地裏でも、ボロボロの衣服を着た子ども達が目に入るよ。
同じくらいの弟妹を持つ兄として、胸が締め付けられる思いだ。
肉を受け取り、安全なところに行こうとしたら、さっきまで俺を監視していたクレイディーの姿が見当たらない。
「まさか……!? ラナ、二人を頼む!」
「わかりました!」
俺達だけで楽しめるように隠れていたラナに弟妹達を頼む。
あのままクレイディーを野放しにすると、本当に殺しかねないからな。
本当に手がかかる護衛騎士だ。
いや、この際騎士を解雇しようか!
幼児を殺害する騎士はいらないからな!
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