59.薬師、貴族との違いを学ぶ
「兄さん、あっちに行こ!」
「しゅてらもいく!」
可愛い弟妹に手を引っ張られて、町の中を歩いていく。
「ぐへ……ごほん!」
ついつい笑ってしまうのを誤魔化し、真顔を貫き通す。
せっかく手を繋いでもらっているのに、笑って突き放されるのは悲しいからな。
「ノクスと町に出るのは初めてだな」
領地ではステラと町の中を歩いたことはあっても、ノクスと出かけたことはない。
いつも屋敷で勉強と剣術の稽古に追われていたからな。
「兄さん、色んなものが売ってるね!」
あれだけツンツンしていたノクスはどこに行ったのだろう。
今も目を輝かせて、町の中を見ている。
王都は中央に王城、外に向かって貴族街、平民街という構造になっている。
様々な貴族が集まる貴族街では、煌びやかな服を着た人達が馬車に乗って移動したり、たくさんの従者を引き連れて歩いている。
「あの汚いやつらはなんだ?」
「貴族には相応しくないわね」
あまり俺達を良く思っていないのか、軽蔑する声がチラホラと聞こえてくる。
確かに俺達はあまり目立った服を着ていないから仕方ない。
そもそもそんなところにお金を使うぐらいなら、領地の発展とオークに壊された町の修復にお金をかけている。
見た目である程度爵位を証明しているのだろう。
そう思うと、ルミナス公爵家のセリオスはしっかりしていそうだ。
「兄さん、大丈夫だよ?」
「しゅてらがいる」
心ない言葉を二人には聞かせたくないと思い、耳を塞ごうとしたら、二人に止められてしまった。
しっかりと自分達の今の状況を受け止めているのだろう。
本当にできた弟と妹だ。
そんな二人の手を強く握る。
「「ぐへへへへ」」
あれ?
なぜか一瞬だけ、ノクスとステラの顔が歪んだ気がする。
可愛い顔から悪魔がチラッと覗いたような……。
「二人に限ってそんなことはないか」
俺といる期間が長くて笑い方が移ったってことはないだろう。
今も輝いた笑顔を周囲に撒き散らしている。
問題なのは弟妹よりも、ひっそりと建物の壁に隠れている二人だろう。
「メディスン様にあのような言葉をかける邪神の使徒め! 身をもってその罪深さを主たる邪神に叩き返してやる!」
「ではどうやってやりますか?」
「爪を剥いてから、関節を全て外す。メディスン様の回復薬を使えば一瞬で治るから、何回でも試せて実験に――」
「おい、どこにいるのかと思ったら、こんなところで何をしているんだ?」
「「ヒイイィィィ!?」」
俺はラナとクレイディーに声をかけた。
「メディスン様、今の話を聞いていましたか?」
ラナは焦っているのか、額から大量に汗が流れ落ちている。
体調を崩していないか心配になるほどだ。
「いや? クレイディーと何か話していたのか?」
「あぁ……聞いていないのなら、問題はありません」
しっかりと会話を聞いていたが、ラナに関しては聞いていないふりをした。
幼い頃からルクシード辺境伯家と繋がっている彼女にとって、俺を讃えているクレイディーとは話しが合うのだろう。
あまり居場所がないと思った俺は、貴族街から離れようとしたが、ある店が目に入った。
「ちょっとあそこに行ってもいいか?」
「ポーション専門店ですか?」
店の看板には〝薬師ギルド直売商会〟と大きく書かれているポーション専門店を見つけた。
基本的にポーションは道具屋とかに売られていることが多い。
専門店なら見たことないポーションがあるかもしれない。
ちなみに俺は転生してから、ポーションを直接見たことがない。
せっかくの成分鑑定を手に入れた今なら、ポーションの中身がわかるだろう。
「ぐへへ……ごほん!」
ああ、ついつい笑ってしまいそうになった。
これで新しい回復タブレットが作れるかもしれないからな。
――カラン!
俺はポーション専門店の扉を開けた。
中にはたくさんのポーションが並べられている。
ただ、どれも量が多いのは、1回にたくさんの量を使うからだろう。
「いらっしゃ……何しにきたんだ?」
店主は一度俺に声をかけてきたが、頭上から足先まで見た後に態度を変えた。
やはり貴族街では見た目が全てなんだろう。
「ポーションを見にきました」
「はぁん? お前達にポーションを買えるだけのお金はあるのか? ここは最高級のポーション店だ」
どうやら店主は俺達を返したいのだろう。
ただ、店主の言葉にどこか俺は疑問を感じた。
【鑑定結果】
粗雑なライフポーション
成分:エーテルエキス+魔力水
詳細:魔力を筋骨格に働きかけ、体力を回復させる。粗雑な出来のため、回復量は少なくたくさん飲まないといけない。
「最高級です……か?」
「はぁー、これだから底辺の貴族はわかっちゃいないな。どうせ男爵程度の爵位じゃ、薬師ギルド直営のポーションの凄さがわからないだろう。帰った帰った!」
俺達を追い払うように手をヒラヒラする店主に俺は店を出……られなかった。
店内には一緒にクレイディーとラナも入ってきていた。
二人とも今にもブチ切れそうな顔をしている。
このままにしていたら、ポーション専門店の店主の命はないだろう。
すぐに気づいた俺と弟妹達は顔を見合わせる。
「ラナ、次は平民街に行こ!」
「しゅてらもあっちにいく!」
「ふふふ、行きましょうか」
ラナの手をノクスとステラが引っ張って店の外に出ていく。
声をかけてもらい嬉しいのだろう。
「クレイディー行くぞ!」
「私はここを離せれません!」
俺も声をかけるが、クレイディーはまだ怒っているのか動こうとしない。
忠誠心が高いというのか、融通が効かないというのか……。
まるで仲間を逃がすように、ボスに立ち向かうキャラクターのようだ。
「兄さん、はやくー!」
店の外ではノクスが俺を呼んでいる。
店主も早く出ていけと言わんばかりの表情だ。
「はぁー、仕方ないな」
「えっ……メディスン様!?」
俺はクレイディーの手を掴み外に引っ張る。
あのままだとクレイディーはずっと店の中にこもりそうだったからな。
「あわわわわメディスン様が……ななななな何が起きて……」
俺はクレイディーと繋いだ手を持ち上げて見せる。
「お前が言うことを聞かないから、手を握っただけだぞ?」
「こここここここれは神の……」
クレイディーは思考停止したのか、その場で固まってしまった。
普段から頭のネジが外れていると思ってはいたが、まさか本当に天に逝くとは思いもしなかった。
なるべくクレイディーには触れないようにしないといけないな。
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