58.薬師、演技派薬師になる
『能力〝成分鑑定〟、〝最大抽出〟が解放されました』
どうやら俺のスキルで、できることが増えたようだ。
名前からして便利そうではあるが、俺はこの事実に驚きを隠せなかった。
「まさか俺も覚醒するとはな……」
ゲームの中でも中盤に差し掛かると、スキルが覚醒をする。
ある一定の経験値と技の使用回数が満たしていれば、上位のスキルに進化する。
騎士であれば、魔法騎士や聖騎士など使う技の回数や上げるステータスの違いで様々な覚醒先がある。
ただ、俺のスキルはどういうことだろうか。
「スキル【薬師……ん?】って急な変化にびっくりしてるじゃないか!」
きっと俺が覚醒するとは、システムも思わなかったのだろう。
この間オークをたくさん倒したからな。
薬師のキャラクターも仲間にできたが、覚醒先は霊薬師、聖薬師とかだった気がする。
異質の俺はここでも異質のようだ。
まずは毒薬師とかじゃなくてよかった。
「ああ、メディスン様が輝いております」
どちらかといえば隣で地面に頬をスリスリして、祈っているクレイディーの方が異質だろう。
「俺が輝く……本当だ!?」
確認すると、本当に俺の体は光っていた。
スキルが覚醒したら、全身が光る仕組みなんだろうか。
「ああ、後光が差し込んできます」
しばらく待っていると、光りは落ち着いてきた。
その間もクレイディーはずっと祈ることをやめなかった。
「なにか……あっ、ちょうど水があるからこれでいいか」
早速、新しく覚えた技を使うことにした。
俺は近くにあったコップの水に成分鑑定を使った。
【鑑定結果】
成分:水素+酸素
詳細:カルシウムやマグネシウムなどのミネラルが含まれている中硬水。
「鑑定と似たようなものか」
ゲームで魔法として存在する鑑定魔法と似たような情報が見えるようだ。
ただ、その情報が成分鑑定と呼ばれているだけのことはある。
普通の鑑定では、どこの水源かいつ採取されたかなどの情報が見える。
俺が使った成分鑑定は、成分を知ることに特化しているのだろう。
それにそのまま水に最大抽出を使うと、水素と酸素が抽出できた。
分子レベルまで抽出できるなら、薬を作るのも楽になる。
「ぐへへへへ」
ついつい笑いが止まらない。
本当に俺は覚醒したようだ。
「ははー!」
そんな俺を見たクレイディーは、さらに床に頬を擦り付ける。
――ガチャ!
部屋の扉が開き、俺とクレイディーは扉に視線を向けた。
「メディスン様、そろそろ起きられました――」
「兄さ――」
「おにい――」
――ガチャ!
弟妹達が帰ってきたが、俺達と目が合うとすぐに扉を閉められた。
明らかに見てはいけないものを見てしまった、というような表情をしていた。
「ちょっと待て……」
このままだと嫌われたままになってしまう。
焦った俺はすぐに扉を開ける。
「「「くくく」」」
そこにはクスクスと笑う三人が立っていた。
まさかそのまま扉の前にいるとは、思いもしなかった。
「どこかに行ったと思ったよ……」
「さすがに兄さんの気持ち悪い顔も見慣れましたからね」
「おにいしゃま、いつもきもちわりゅい」
ノクスとステラはフォローしているつもりだろうか。
俺の心はズタズタに傷ついているぞ?
無意識な心ない言葉から、いじめにつながるって言うぐらいだからな。
学園に通うまでには、兄として俺がしっかり教えた方が良いだろう。
それまで俺の心が持つかどうかだ。
「それだとフォローになっていないですよ。メディスン様は、昔から気持ち悪いです」
幼少期から俺のことを知っているラナがトドメを刺してきた。
精神的に俺を殺すつもりだろう。
俺の心は一瞬にして崩壊していく。
「うっ……どうせ俺は気持ち悪いよ……」
俺はゆっくりと体の向きを変え、布団の中にこもる。
「兄さん!?」
「おにいしゃま!?」
すぐに異変に気づいたのか、ノクスとステラは駆け寄って力づくで布団を剥ぎ取ろうとする。
「うっ……そうやって俺をいじめてひどいなー」
「メディスン様……さすがに棒読みすぎますよ……」
ラナが小さな声で呟いているが、それでも俺は必死に抵抗する。
教育するにはうってつけのチャンスだからな。
「兄様……」
「おにいしゃま……」
今にも泣きそうなノクスとステラの声に申し訳ないと思ってしまう。
どうやらやりすぎてしまったようだ。
「メディスン様は気持ち悪くないです。神々しくて、直視ができないぐらい輝いております」
だが、何を勘違いしたのか、クレイディーも一緒になって俺の布団を引っ張ってきた。
さすがに騎士の力には俺も勝てない。
「「なっ……!?」」
ああ、泣いていないことがバレてしまったようだ。
弟妹達と目が合うと、二人は驚いた表情をしていた。
本当に俺が落ち込んでいると思ったのだろう。
「はぁはぁ、メディスン様が私を直視して……」
俺は計画を邪魔されて睨んでいるだけだ。
クレイディーにも教育が必要だろう。
「クレイディー、気持ち悪いな」
「はぁ……はぁ……メディスン様に褒められた」
一方、ノクスとステラは騙されたと気づき、俺を睨んでいる。
クレイディーよ……お前のその鉄壁な心を俺は欲しかった。
「そういえば、何かあったのか?」
「お二人が王都の探索をしたいと提案があり、声をかけにきたんです」
どうやら俺と出かけるために部屋にきたらしい。
「ごめん」
俺は睨んでいる二人に謝る。
「くくく、兄さん、早く行きますよ」
「しゅてらとでーとでしゅ!」
二人とも俺の方を見て笑っている。
まんまと俺が二人の演技に騙されたようだ。
ノクスやステラは今すぐに行きたいのか、俺の手を引っ張る。
こんなにも積極的に来られると、やはりニヤけてしまう。
「ぐへへ……」
「やっぱり近いと無理です!」
「きもちわりゅい!」
どうやら俺の笑い顔を見慣れていても、至近距離だとダメなようだ。
俺は一人寂しく、町に向けて歩き出した。
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