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56.騎士、二人だけの秘密 ※セリオス視点

 エレンドラが来てから、ゆったりとしていた朝食が一瞬にして戦場と化した。

 謎のお祈りや屋敷中に響く悲鳴で溢れ、ルクシード辺境地で魔物と戦った時よりも恐怖心を覚えた。

 最後にはメディスンが気絶して落ち着いたが、あれが恋は盲目というやつだろうか。

 恋をしたことがない私にはわからない。


「やっぱりメディスンはカッコいいわね。あの今にも人を殺しそうな情熱的な目つきに、ほっそりとした見た目は健在ね」

「ああ……」


 エレンドラはずっとメディスンについて熱く語っているが、学園に通っていた時をはるかに超えている。

 会えない期間が長くて、暴走してしまったのだろう。


「それでセリオス……いや、セリアスはなんでメディスンを連れてきたの?」


 私はエレンドラにメディスンが作った回復薬を渡した。


「これはなに?」

「メディスンが作ったくす――」


 何も説明していないのに、エレンドラはそのまま口にした。

 そういえば、学園に通っていた時もメディスンが作った真っ黒に蠢く謎の物体を飲もうとしていたのを思い出した。

 勝手に部屋に忍び込んで、クローゼットに隠れる趣味のあるエレンドラが、メディスンからプレゼントをもらったと持ってきた時はびっくりしたな。

 結局は倒れていたメディスンから、勝手に奪ってきたんだっけな……。


「何これ……」

「私も食べた時は驚いた。こんな――」

「メディスンの愛情を感じるわ!」


 ああ、エレンドラはこういう子だった。

 回復薬を渡したのは間違いだ。


「何か異変は感じないか?」

「異変……? ああ、疲れもなくなったし、魔力が回復してる?」

「そう。メディスンが新しい回復薬を完成させたんだ。それもポーションより効果が良いやつを……」

「いやーん。さすが愛の力だわー!」


 ああ、もうこの子は止められないな。

 学園でも何を言っても暴走していたからね。

 そんな彼女のことを全く気にしていないメディスンもメディスンだ。

 同感すぎるのもほどがある。


「私のことにも気づかないぐらいだもんな……」

「ん? きっとセリアスのこと誰も気づかないわよ。女性――」


 私は急いでエレンドラの口を手で塞ぐ。

 いくらルミナス公爵家の屋敷でも、話して良いことと悪いことがある。

 それに今はルクシード辺境伯家が滞在している。


「んん!」


 段々と顔色が青白くなるエレンドラを見て、急いで手を放す。


「私を殺す気!?」

「すまない。でも、エレンドラが――」

「あなたといる時に防音魔法をかけないわけないわよ。女性だって知ってるのは、幼馴染の私ぐらいだからね」

「いつも迷惑をかけてすまない」

「私の方が迷惑をかけているから大丈夫よ!」


 どうやら迷惑をかけていることは、自覚しているようだ。

 それなら、もう少し自重してほしいが、暴走賢者は止められないだろう。


「きっと私のためにメディスンを連れてきたんでしょ?」

「いや……婚約者とは関係――」

「はぁー、そっちじゃなくてスキルの方よ。私がスキル【賢者】を使うたびに小さくなるのを心配したのよね?」


 エレンドラのスキル【賢者】は代償があるスキルだ。

 そもそもスキルは強力であればあるほど、どこかに代償が出てくる。

 エレンドラの場合は体の縮小がそれに当たる。

 きっと魔法を使い続ければ、最終的に消えてなくなるのだろう。

 まだ、代々魔法使いを輩出している公爵家だからこそ、魔力の器も大きくてどうにかなっている。


「メディスンの作った回復薬があれば、たくさんポーションを用意しなくても良いものね」

「いや、単純に私がずっと戦えるために来てもらっただけだ」

「さすが戦闘狂ね」

「私はルミナス公爵家のためにやっているだけよ」


 ルミナス公爵家は代々騎士を輩出する一家。

 それなのに、今ルミナス公爵家を継げる人物は女性である私しかいなかった。

 お母様は私が小さい時に亡くなった。

 お母様を一筋で愛していたお父様は、新しい正妻や側妻を作ることをしなかった。

 結果、世継ぎいないルミナス公爵家を私が守るために、男性として演じるしかなかった。


 男性として地位を確立するまでは、どうにかバレないように生活しないといけない。


「大好きなお母様からいただいた体なのに、今では憎いって思うとはね……」

「女性はどうしても月の日があるからね。ほら、私はこの体だからないけどさ」


 女性は成長とともに、子どもを生む体に少しずつ変化していく。

 いくら鍛えていてもそれは免れないし、周期的に体から血液が排出される。

 騎士はずっと主君と行動を共にすることが多いため、月の日が来たらすぐに女性だとバレるだろう。

 

「お互いの秘密を知っているのは私達だけね」

「ああ、だから口が滑ってもメディスンには言わないでね。エレンドラは言いかねないから……」

「もう、女の友情にメディスンは関係ないわ」


――トントン!


「魔法を解除して」


 扉が叩く音が聞こえて、私はすぐにエレンドラに防音魔法の解除を頼んだ。


「わかったわ」


 扉を開けると、エレンドラと一緒にきた執事が立っていた。


「どうしたのかしら?」

「セリオス様、エレンドラ様はここに――」


 彼は幼い時からエレンドラの世話をしているが、いつも振り回されて大変そうだ。


「メディスン様が目覚め――」

「すぐに行かなくちゃ! セリア……セリオス、また今度ね!」


 相変わらず慌ただしいエレンドラはメディスンの部屋に向かって行った。

 本当に口を滑らせないか心配だな……。

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