54.薬師、訪問者が来る
「兄さん、起きて!」
「あしゃでしゅよ!」
俺はノクスとステラに揺さぶられて目を覚ました。
二人とも身動きが取れないのか、呆れた顔で俺を見ている。
どうやら俺は二人を抱きしめて寝ていたようだ。
「二人ともごめんな」
「兄さん、すごいうなされていたよ?」
「のくしゅとよしよししてた」
「おい、そういうことは言うなよ!」
悪夢を見てうなされていた俺を二人でずっと撫でていたらしい。
そのあとはホッとした顔で寝ていたが、再びうなされるのを繰り返していた。
結果、三人とも寝不足の状態だ。
これじゃあ、どっちが兄かわからないな。
寝具が変わると寝れなくなると聞くが、まさか俺もその一人だとは思わなかった。
――トントン!
「皆さん起きましたか?」
俺が扉を開けると、目を見開いて驚いた顔をしている。
「メディスン様がもう起きてるんですか!?」
ラナは朝の準備に来たらしい。
いつもはラナが起こしに来るまで寝ていることが多いため、俺が起きていたことに驚いていた。
「中々寝付けなかったからな……」
「みんな目の下が真っ黒ですね」
あまりの寝つきの悪さにクマができているらしい。
回復タブレットを作って、その場で食べるが、体はスッキリしても寝不足が解消されるわけではない。
目を擦りながら準備を終えた俺達は、セリオスがいる大広間に向かう。
「おはようございます」
「しっかり寝れ……その様子だと寝られなかったようだね」
セリオスも一瞬で気づくほど、顔が疲れているようだ。
ルミナス公爵家の屋敷にいるってことが、俺にとって負担になっているのかもしれない。
すぐにでもどこか泊まるとこを探しに行こう。
席に座ると次々と食事がテーブルの上に出てくる。
「やはり公爵家と我が家では違うね」
「しゅてらは、おにくしゅきだよ?」
「俺は野菜ばかりの方が食べやすいけどね」
我が家ではどうにか魔物の肉で寒い時期を乗り越えた。
王都だから様々な食材が流通しているが、この時期の野菜は特に値が高くつく。
ここでも爵位による経済的な格差を思い知らされる。
「私も肉の方好きだから、ルクシード辺境伯家の食事は好みだったぞ」
騎士にもなれば体が資本になってくる。
それを考えてバランス良い食事になっているのだろう。
「ステラ、ちゃんと食べないと大きくなれないぞ」
「うん……」
ステラは皿の縁に野菜を寄せていた。
こういう時こそ、あまり食べられない栄養は摂取しないとね。
時間がある時にでも、サプリメントを作って成長期の二人に飲ませるのも良いのかもしれない。
この世界は時期によって食料の供給が異なるからな。
「兄さん、僕は食べたよ!」
「おっ、ノクスはえらいな」
「しゅてらもたべりゅもん!」
一方、ノクスはしっかりと完食していた。
そんなノクスを褒めることで、ステラも負けじと自然に食べていく。
元々負けず嫌いな性格なのもあるが、双子なのもあり、お互いに負けたくないのだろう。
どっちかを褒めれば自然と努力する。
これからもお互いに刺激しあう関係でいてもらいたい。
「ステラもしっかり食べてえらいな」
「兄さん、ちゃんと食べるんだよ?」
「のこしゅのはだめ!」
俺の食が進まないことがバレてしまったようだ。
まさか朝からステーキのような塊肉が出てくるとは思わなかったからな。
「セリオス様、少しよろしいですか?」
「ああ」
執事がセリオスに近づくと、小言で何かを話している。
セリオスの表情からして、何か問題でも起きたのだろうか。
そういえば、さっきから屋敷の中がどこか騒がしい。
大広間が一階にあるから、外と近いのもあり、自然と音が耳に入ってしまう。
「メディスン、少しだけ席を――」
――バン!
「セリオスおかえり!」
扉が開くと同時に赤髪の女性が部屋に入ってきた。
その後ろにはあたふたとしている執事がいた。
まだ見たことない執事のため、彼女が連れてきた執事なんだろう。
それだけで相手が貴族だとわかる。
なるべく関わりたくないと思ったが、彼女の視線は俺に向いていた。
「なっ……なんであんたがいるのよ!?」
「エレンドラ!」
近づいてくる彼女をセリオスはすぐに止める。
エレンドラ……。
どこかで聞いたことある名前に、俺は必死に名前を思い出そうとする。
「私があれだけ声をかけたのに――」
「ああ、勇者パーティーの賢者か……」
セリオスだけでも勇者関係者とは関わりたくないのに、今度は勇者パーティーに入る賢者が現れた。
見た目がゲームの時と違って、少し大人びているから全く気づかなかった。
エレンドラは男性ユーザーからかなり人気を集めていた。
その理由は、容姿が明らかに男性に好かれる見た目をしていたからだ。
「ロリ巨乳じゃないのか……」
エレンドラは低身長に大きな胸が特徴的なキャラだ。
一方、聖女はスラっと長身の美人系だ。
一般的なゲームならお互いに反対の見た目をしているデザインが多い。
だが、そのギャップがさらに話題となった。
容姿が違うのは何か理由があるのだろう。
処刑される立場としては、なるべく離れていた方が良い気がする。
あまり関わってはいけない存在だと思い、俺は気にせずに肉を頬張る。
「なんでここにはノコノコと付いてきて――」
「んー、やっぱりオークの肉の方が肉質的には柔らかいよな」
オークの肉は豚肉に近いため、全体的に柔らかめで脂身がある。
しかし、今食べているお肉はどちらかといえば赤身部分が多く、筋繊維がしっかりとしている。
この世界ではバッファローみたいな牛も食べるから、どうしても歯応えがあるのだろう。
あまり硬いものを食べてこなかった俺にとっては、中々難易度が高い肉のようだ。
「ちょっと……さっきから無視しないでよ!」
「エレンドラ、今は食事中だ。ここは静かに――」
「なら私との婚約をどうするかだけでも、今すぐに決めてちょうだい!」
んっ……?
婚約?
俺には婚約者もいないし、婚約を申し込まれた記憶もない。
きっとセリオスに婚約を申し込んでいるのに、はぐらかされているのだろう。
同じ勇者パーティーのキャラは、元々繋がりがあることが多いからな。
それに彼は男性キャラクターの中で人気投票1位だ。
男の俺が見ても、たまにドキッとするぐらいだ。
昨日も廊下で会った時は、一瞬びっくりしたからな。
エレンドラでもそう簡単にはセリオスを落とせないのだろう。
ちなみに俺は決して男性が好きとかはないからな。
ただ、この世界には美形ばかりのため、ドキッとするのは仕方ない。
その中で俺はなぜ美形に生まれなかったのだろうか。
「ノクスとステラは将来モテモテになりそうだな」
「兄さん、無視して大丈夫?」
「別に俺に対して――」
「だから無視するなって言ってるでしょうが!」
再び振り向くと、彼女の背後には火の玉がいくつも浮いている。
さすが賢者と言われるだけのことはある。
ただ、母の渦巻く黒い炎を見た後だから、どこか物足りないと感じてしまう。
母もいたのに、ゲームの中でみんなが亡くなったことが本当に不思議だな。
「メディスン! 絶対に許さないわよ!」
「えっ、俺なの!?」
気づいた時には俺に向かって、火の玉が飛んできていた。
ああ、まさかこんなところにバッドエンドがあるとは思いもしなかった。
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