53.薬師、近くにやつはいる
「俺はここで良いから、二人は同じ部屋で――」
「一緒!」
「いっちょ!」
ノクスとステラは俺の手を引いていく。
食事を終えると、セリオスからは大きな部屋と小さな部屋の二部屋を使って良いと言われた。
今まであまり大きな部屋を使っていないため、俺としては小さい部屋で問題はなかった。
セリオスもそれを用意してくれたのだろう。
「さすがに俺と寝たら邪魔――」
「「じゃない!」」
だが、実際は異なっており、二人は俺を離してはくれないようだ。
知らない家でノクスとステラだけで寝るのが、寂しいのだろう。
大きめなベッドが用意されているため、三人で寝るスペースはある。
一緒に寝ないとずっと離してもらえないようだ。
「あの部屋どうしようね」
「ラナに使わせたらどうかな?」
ラナは使用人達と同じところで寝泊まりをすると言っていたが、ラナが隣にいたら心強い。
何かあったらすぐに呼べるからな。
「ちょっとセリオスに頼んでくるよ」
俺はセリオスを探すために、屋敷の中を歩いていく。
「どこも金がかかってるな……」
周囲を見渡せば高そうな家具や装飾品といった調度品ばかりだ。
代々騎士を輩出しているルミナス公爵家だからか、その中でも剣や鎧が多く飾られている。
「メディスン、どうしたんだ?」
歩いていると背後から声をかけられた。
「セリオ……ス?」
そこにはセリオスが立っていた。
いつもはオールバックでまとめている髪が、下りているだけで別人のように感じる。
それにどこか肌艶が潤っており、頬が赤く染まっていた。
「ああ、ちょっと湯浴みをしていたからな。それで何かあったのか?」
「ノクスとステラが一緒に寝たいって言うから、小さい方の部屋をラナに使わせようかと思って確認しにきたんだが……」
「そば付きのメイドのことか? 彼女なら楽しそうに我が家のメイド達と話していたぞ」
どうやらラナは社交的な性格のおかげで、ルミナス公爵家のメイド達と楽しく過ごしているらしい。
同じメイドとして積もる話があるのだろう。
「それよりも専属騎士に使わせたらどうだ?」
「あー、クレイディーのことを忘れていたな」
そのままピクニックしていたところに置いてきたが、どうやらクレイディーも屋敷に着いているようだ。
ただ、今どこにいるのか俺にもわからない。
屋敷に来てから、まだあいつの姿は一度も見ていない。
「あいつのことだから呼んだらすぐに……いや、本当にどこかから湧き出てきそうだからやめとくわ」
小さな部屋を使ってもらうようクレイディーに会ったら、伝えてもらえるようセリオスにも頼んでおいた。
「もうみんな寝ているんだな」
部屋に帰るとノクスとステラはすでにスヤスヤと眠っていた。
可愛らしい寝顔を見ると、俺の体からスーッと力が抜けていく。
王都にきたばかりで俺も疲れている。
「クレイディーはどこにいるんだろうな」
いまだにクレイディーには会えていない。
本当にあいつはどこにいるのだろうか。
ひょっとしたら町の宿屋にいるのかもしれない。
「メディスン様、私はここにいます」
「ふぇ!?」
振り返ると窓枠からひょこっと顔を出すクレイディーがいた。
まるでホラー映画に出てくる幽霊のように覗いている。
「おまっ、どこにいたんだよ!?」
「ふふふ、メディスン様の寝顔を盗み見ようと外で待機しておりました」
俺が泊まっている部屋は屋敷の二階だ。
天井が高く設計されているため、地面から距離もある。
傍から見たらクレイディーは浮いているように見える。
放置した先で死んで、幽霊にでもなったのだろうか。
おそるおそる窓側に近づいていくと、大きな木が見えた。
どうやら木から飛び越えて、窓にくっついていたようだ。
本当にホラー映画に出てくる幽霊みたいな格好をしていた。
「ああ、私は今メディスン様の視界に入っている」
とろけたような表情を浮かべて、俺の方を見ている。
少しずつ手がプルプルしているが、気のせいだろうか。
手の力だけで体を支えているが、限界に近いのかもしれない。
「おい、お前落ちそうじゃないか?」
「メディスン様に心配してもらえるなんて……これ以上の幸せ、他にありません。たとえこのまま死んだとしても、悔いは……」
俺はすぐに駆け寄り、落ちそうになるクレイディーの手を掴む。
「ああああああ、メディスン様。穢れた私の手をお放しください」
クレイディーが俺の手を掴み返すと、反対の手で優しく撫でるようにさわさわ優しく触れる。
「お前……気持ち悪いな」
俺は言われた通りに手を振り解く。
「あっ……」
そのままクレイディーは二階の窓から落ちていく。
元々窓から覗いていたあいつが悪いからな。
――スタッ!
クレイディーは地面へ綺麗に着地すると、とろけた顔で俺を見上げている。
「ふふふ、メディスン様。クレイディーはいつも見守っていますよ」
隣の部屋を使ってもらおうかと思ったが、身の危険を感じた俺はそのまま窓を閉めて寝ることにした。
その日の晩は誰かにしつこく追われる悪夢を見て、中々寝付けなかった。
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