52.薬師、お膝大戦争をする
完結後から51話の最後の方を少し変えていますので、そちらを読んでから本編をお読みください。
王都までの移動は途中の町に寄りながら、楽しく時間が進んでいた。
「私がメディスン様の隣にいるのが相応しいんです。邪な気持ちでメディスン様に近づかないでください」
「くっ……騎士の私を舐めないでいただきたい」
「舐めたいのはメディスン様だけです。あー、メディスン様ご褒美がほしいな……」
チラチラとクレイディーは俺の方を見ている気がする。
「やっぱりあの人連れて行って大丈夫?」
「クレイディーは元々あんな感じだからな」
「おにいしゃま、おいちいね」
「おー、それはよかった!」
「私にも作り方を教えてくださいね!」
一方、俺達は手作りホットドッグもどきを食べながら、クレイディーとセリオスの模擬戦を眺めていた。
ソーセージはオークの腸に細かく刻んだオーク肉を入れて作った。
これが思ったよりも美味しく、塩漬けや燻製にすることで保存が効くようになる。
街を襲ったオークがあんなに美味しいものになるとは、領民達も驚きだろう。
「はぁー」
俺は大きなあくびをする。
まるでピクニックをしているような気分と暖かい光に段々と眠たくなってくる。な
「兄さん寝る?」
「しゅてらのひじゃちゅかう?」
ノクスとステラは横並びになり、膝をポンポンと叩いている。
この年ですでに父性と母性の塊に俺は驚いて開いた口が塞がらない。
普通は兄が膝枕する方だからな。
「ほらほら!」
「どうじょ!」
ただ、弟妹もする気満々のようだ。
俺は強制的に寝かされる。
ああ、決して自分からはいかないからな。
「メッ……メディスン様!? 私というものがいらっしゃるのに、そのようなハレンチなことをするなんて!」
「模擬戦中によそ見を――」
「邪魔だ」
「うわああああ!」
クレイディーは一瞬でセリオスを吹き飛ばす。
今まではセリオスに合わせて、強さを調整していたようだ。
あれでもセリアスって勇者パーティーの一員なんだけどな……。
クレイディーは俺が思ってるよりも強いようだ。
回復タブレットの影響で強くなったのが正確だろう。
体格も大きくなって壁みたいだからな。
そんな男が勢いよく俺の方に駆け寄ってきた。
「さぁ、メディスン様。私の膝もお試しください」
「ちょ、お前なはいらねーぞ!」
「はぁ……ありがたきお言葉です」
「誰も褒めてねーよ!」
自分の膝の上に俺の頭を乗せようとするクレイディーに抵抗する。
せっかく可愛い弟妹が膝を貸してくれたのに、邪魔をさせないぞ。
「くっ……私はこんなやつに負けたのか……」
セリオスもクレイディーに負けて悔しそうだ。
俺も同じ立場だったら、きっとそう思うだろう。
「それで君達は何をしてるんだ?」
「神戯れだ! メディスン様との時間が私を強くするんだ」
「では私もそこに混ぜて……」
「おいおい、やめてくれよ!」
クレイディーは相変わらず何を考えているのかわからない。
そこにセリオスも混ざろうとするため、俺はすぐに体を起こしてその場から離れる。
このままいたら地獄絵図になりそうだ。
男三人がイチャイチャしているところなんて、誰も見たくないからな。
「兄さん……」
「おにいしゃま……」
ただ、俺が逃げたことでノクスとステラは悲しそうな顔をしていた。
悪いのは全てクレイディーとセリオスのせいだからな。
「王都まであと少しだな。よし、出発するぞ! もちろん俺の膝の上はノクスとステラだからな!」
「「うん!」」
あまりにも可哀想に思えた俺は二人を膝の上に乗せることにした。
昔はツンツンしていたのに、今は本当に素直で可愛い弟妹だ。
「ぐへへへへ」
そんなことを思っていると、ついつい笑みが溢れてしまう。
「やっぱりやめておきます……」
「しゅてらも……」
せっかく仲良く馬車に乗れると思ったのに、無表情を貫けない自分に苛立ちを覚える。
俺から遠ざかるように弟妹とセリオスは、早足で馬車に戻っていく。
「はぁ……メディスン様の微笑みに体がゾクゾクする。体が疼いて――」
そんな俺の笑顔をクレイディーはうっとりした顔で見つめてくる。
「さぁ、あいつは置いて行こうか」
やはりクレイディーは何を考えているのかわからないし、俺は理解するつもりもない。
しばらくぼーっとしているクレイディーをそのまま置いていくことにした。
「わぁー、しゅごいね!」
「これなら魔物が来ても安全ですね」
王都を目の前にしてノクスとステラは口を開けて、城壁を眺めていた。
我が領土も魔物の侵攻を考えて、街を囲むように城壁はあるがそこまで高さはない。
王都は空飛ぶ魔物でないと侵入できないほど城壁の高さがある。
「ルミナス公爵家の方々ですね」
馬車に家紋が書いてあるため、王都に入る手続きもすぐに終わった。
「まずは宿屋に泊まりながら、どうするか考えようか」
「わぁー、たのちみ」
「王都の民を知る機会になりますね」
これからは王都で暮らす日々が始まっていく。
まずは両親が来るまで、宿屋に泊まって王都の生活に慣れるつもりだ。
その間に借りる家を探しても良いだろう。
これからも王都に来る予定があるかもしれないからな。
ある程度のお金は両親から預かっているため、心配することは特にない。
「セリアス様、ありがとうございます。俺達はここで降りて――」
「何を言ってるんだ? 君達は私のお客さんでもあるから、ルミナス公爵家に泊まってもらうぞ?」
「「「へっ……?」」」
「それにもうそろそろ屋敷に着くからね」
どうやら両親の言っていたことと噛み合っていないようだ。
両親は王都に着いたら、すぐに馬車から降りろってしつこく言っていた。
ただ、俺達はその意図に気づかず、王都の街並みを楽しんで見ていた。
「到着しました」
御者の声とともに馬車が止まると、目の前には大きな屋敷があった。
さすが公爵家の屋敷だな。
王都にいてもここまで大きな屋敷を建てられるのが、ルミナス公爵家の財力と地位の証だろう。
「セリオス様、おかえりなさいませ!」
重なり合った声が響く。
馬車の扉が開くと同時に、使用人達が一列に並び頭を下げる。
徹底的に使用人達まで管理されているのだろう。
「さすが公爵家ですね」
「しゅてら、いやだな……」
「私もこんなところでは、働きたくないですね」
辺境地にある我が領土では、使用人達もわりかしのびのびして働いている。
ラナの距離感を見ればわかるだろう。
それがルクシード辺境伯家の良いところでもあるからな。
「ルミナス公爵家の屋敷にようこそ!」
俺達はしばらくルミナス公爵家でお世話になるようだ。
第二章開始していきます!
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