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47.薬師、報われる

 屋敷に戻ると入り口で仁王立ちしている怪物……いや、母がいた。

 まるで不動明王にも見える面持ちで、ノクスとステラはすぐに俺の後ろに隠れた。


「おい、押すなよ」 

「兄さん、ここは兄としてかっこいいところを見せて!」

「ぎゃんばれ!」


 グイグイと押されると、気づいた時には母の前に着いていた。

 あいつらあれだけ俺の心配をしていたのに、本能的に危険な存在を見極めたのだろう。

 正直言って大人だった俺でも怖い。

 怒った母が怖いのは、誰だって経験しているだろう。


「あなた達、今までどこで遊んでいたのかしら?」


 ああ、渦を巻いた燃え盛る炎が背後に見える。

 それでも表情は怒っているよりも、心配だった雰囲気が伝わってくる。

 今までは関わることがなかったが、子ども達を思う母の気持ちは変わらないようだ。


「兄さんを追いかけてました」

「おにいしゃまとかけっこしてた」


 二人は間違ったことは言ってはない。

 ただ、それだけの説明だと、完全に俺が一番悪者になる。

 悪役薬師だけど、さすがにここはみんなで怒られたほうが……。


「メディスンとかけっこね……」

「ヒィ!?」


 さっきよりも炎がメラメラと燃え、大きくなった。

 ここは嘘をつかないほうが良いのだろう。

 鬼のように怖い父と結婚できるほどの相手だ。

 ただ、記憶を遡っても、父が怖いという記憶だけが残っている。


「領民を守る――」

「もう! なんで私も連れて行ってくれなかったのよ!」


 ん?

 どういうことだ?

 一緒にオークの討伐に行きたかったのか?


「私も一緒にかけっこしたかったわよ!」


 あまり関わりを持ってこなかったから、母の性格がいまいち掴めない。


「えっ……母様?」

「おかあしゃま?」


 不動明王のような姿はどこに行ったのだろうか。

 俺だけではなく、ノクスとステラも母の姿に混乱している。


「それに私ならオークを一瞬で燃やすわよ」


 周囲には渦を巻いた炎がさらに展開される。

 どうやら背後にあったのは母の使う魔法らしい。

 母としての威厳を保つために、魔法を演出として使い待っていたようだ。

 この領地の領主である父の妻になるような女性だ。

 弱いはずがないよな……。


「それに母様ってなによ! 呼ぶならママって呼びなさい! もう!」


 我が家の母はやはりどこか性格が掴めない。


 ノクスとステラも戸惑って、どうしたら良いのかわからないのだろう。

 チラチラと俺の顔を覗いてくる。

 さっきまで俺を生贄として捧げたのに、こういう時だけ兄を頼ってくるとはな。


 うん……。

 可愛いから許そう。


 今まで会うことがなかったのに、今頃ママって呼んで欲しいのかな?

 俺はそっと二人の背中を押す。

 ああ、さっき俺を押したお返しだ。


「ママ……?」

「まま……?」


「くああああ! うちの子はどうしてこんなに可愛いのかしら! 今すぐにでも抱きしめて、頬をスリスリして可愛がりたいわ。でも我慢よ。我慢! 母はいつでも強くないといけないものね。でもでも、可愛すぎて無理だわ。ああ、いっそのことこの領地を燃やして、ないものにすればいいのかしら」


 その場で崩れるように悶える母に俺は驚いた。

 本当に性格が掴めない。

 これじゃあ、ただの頭のおかしい変質者だろ。


「母さ……ママはどうして今頃俺達に関わってくるんですか?」


 俺の言葉に母は顔を上げる。

 一瞬、顔が怖かったが、呼び方を変えたらとろけたような表情をしていた。

 隣にいる弟妹の二人も大きく頷いている。

 一番気になるところはそこだからな。


「あの人に禁止されてたの……」


 鬼のような父なら子ども達と関わるなと言いかねない。

 まさか子どもだけではなく、妻にまでモラルハラスメントをしていたのか……。


「あっ……何もないわ。とりあえずあの人が帰ってくるまで、一緒にご飯を食べましょ!」


 戸惑うノクスとステラの手を握って、嬉しそうに歩いていく母の姿を見て、何か理由があったのだと感じた。

 ただ、相変わらず性格が掴めないな。

 今も顔はデレデレとしている。


「メディスン様、準備ができました」


 若手騎士に呼ばれると、屋敷の中央では篝火のように木材を燃やしていた。

 まるで大きな焚き火のようだ。

 その周囲で串に刺した魔力を抜き取ったオーク肉の塊を焼いていく。

 魔物を討伐した時に行われる宴は、亡くなった人を弔うために行われることが多い。

 ただ、今回はケガ人も回復タブレットで治しているし、亡くなった人は誰もいない。


「なんかバーベキューをしているみたいだな」


 傍から見たら屋敷でバーベキューをやっているようにしか見えないだろう。

 すでに冒険者達は酒を飲んでいるため、ビアガーデンに見えなくもない。


 すき焼きだけでは食料が足りないため、片隅で解体されたオークを俺は必死で魔力を抽出していく。

 領民全員に振る舞うには、かなりの量を用意しないといけない。

 肉はたくさんあるのに、俺の体力が持つかどうかだ。


「変態の兄ちゃん、休憩しなくていいの?」

「珍しくエルサが優しいな」


 変態の兄ちゃんの言葉を町に流行らせた町の子、エルサが焼いた肉を持ってきた。

 いつもは俺をからかって遊んでいるのに、今日は珍しく俺の心配をしている。


「あっ、オークに襲われると思って怖かったんだろ?」

「はぁん!? オークよりあんたの顔の方が怖いわよ!」


 お肉をその場に置いて、エルサは逃げるように歩き出す。

 俺の顔ってオークよりも怖いのだろうか。

 気持ち悪くて、さらに怖いってなれば相当だ。

 

「俺ってなんのために――」

「でも……」


 エルサはその場で立ち止まり振り返った。


「みんなを助けてくれてありがとう!」


 エルサは大きな声で感謝の言葉を伝えて走って行った。

 心身ともにボロボロになった俺は、少しだけ救われたような気がする。


「ああ、変態の兄ちゃんありがとう!」

「私達はいつも助けられているわね!」


 エルサの発言に次から次へと感謝の言葉が溢れ出てくる。

 今までメディスンに転生して色々なことがあった。

 初っ端から俺以外は熱で寝込んでいるし、町は機能しておらず壊滅状態。

 家族はあってもないようなもので、孤独を感じる毎日だった。

 それが今では俺を囲って、楽しそうに笑う人達で溢れている。

 それだけでも、俺がこの世界に来てよかったと思った。

 これでメディスンも報われるだろう。


 ああ、こういう日こそ心から笑わないといけないな。


「ぐへへへへ!」


 俺はみんなの方に向きを変えてニヤリと微笑む。

 

「ヒィ!?」


 どこかで悲鳴のようなものが聞こえたが気のせいだろう。

 いや、明らかにさっきよりみんなとの距離を感じるぞ。


 モクモクとした煙が空に向かい、儚く空へと散っていく。

 ああ、まるで俺の心みたいだな。


 どうやら祝い事でも無表情を貫く必要があるようだ。

「中々子育てって難しいよな」

「知らない間に子ども達は成長していきますからね」

「やっぱりかっこいい姿を見せるべきか? 最近、騎士達がこぞって鍛えているらしいからな」

「あなたが鍛えてどうするんですか?」

「そりゃー、子ども達に〝きゃー、父様かっこいいです〟〝俺も父様みたいになりたい〟って言われたいに決まっている」


 どうやら私の夫は想像以上に何か大事なものが抜け落ちているようだ。

 今も服を脱いで、鍛え抜かれた体をどうやって見せるべきなのか確認している。


「それなら★とブクマを集めてきた方が喜ぶわよ?」

「えっ……そうなのか? 今すぐに捕まえてくる!」


 それだけ言って、夫は服を着ずにどこかへ行ってしまった。


「★とブクマを持っている人はここにいる……あっ、みなさん背後には注意してくださいね」


 ぜひ、背後に危険を感じたら今すぐに★とブクマの準備をしよう。

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