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41.薬師、逃げた後悔

 屋敷に着く頃にはたくさんの領民が屋敷に向かっていた。


「兄さん、これはどういうこと?」


 ノクスやステラ、ラナ達使用人も今の状況に困惑しているようだ。

 急に領民が押し寄せてきたら、皆がパニックになるのも仕方ない。

 ただでさえ、異常を知らせる鐘の音が町中に響いた後だからな。


「魔物が町の近くまで攻めてきている。今は冒険者達が食い止めているが、父様達が帰ってくるまでどうにか耐えるしかない」

「まずは領民を守るために中央の屋敷に集まってください。なるべく家族毎で固まって行動するように!」


 状況をその場で理解したノクスは指示を出していく。

 まだ5歳なのに俺よりも考えて、的確に行動している。

 さすが次期領主だな。

 しっかりと勉強していることが役に立っているようだ。


「ラナ達はすぐに何か布団や毛布を準備して、部屋の窓は定期的に開けて換気するように!」

「兄さん、夜は寒くなるのにそれは領民達を痛みつける――」

「また雪の病魔が流行ったらどうするんだ? 人が増えれば空気の循環は悪くなる。これだけいたら生き残っても、また雪の病魔にやられるぞ」


 被災地の避難所では、感染症の流行も報告されている。

 少しだけの期間しか避難していなくても、少し前に雪の病魔が流行っていたことを考えると、気を抜いてはいけないだろう。


「あとは栄養のあるものと温かいスープを用意してくれ」

「しゅきやき!」

「すき……焼き?」

「しゅきやきちゅくる!」


 ステラの中ではすき焼きは温かいスープになるらしい。

 薄味で作れば野菜と肉も入って、甘めの出汁なら食べやすいかもしれない。

 それに少しでも豪華な方が、精神的に落ち着くだろう。


 屋敷の中では各々が自分がやるべきことをやっていく。

 騎士達は町に領民がいないかの確認。

 ノクスは領民の案内と説明。

 ステラはラナとともに料理を作る。

 肝心の俺は――。


「最近ずっと薬を作ってる気がするな……」


 回復タブレットを作っていた。

 ライフタブレットは栄養剤扱いになるだろうし、戦っている冒険者達に追加で必要になるかもしれないからな。


 しばらくして少しずつ日が暮れた時、さらなる異変が起きた。


――カーン!カーン!カーン!カーン!


 再び異常を知らせる鐘の音が鳴り出した。

 冒険者達は今も町の外で魔物と戦っているが、何かが起きたのだろうか。


『ブモオオオオ!』


 町の方から雄叫びのような声が聞こえてくる。


「私達大丈夫かしら……」

「ここはメディスン様達がいるから、それを信じよう」


 領民からの不安な声が聞こえる中、お互いに励ましあっている。

 きっと不安なのは皆同じだろう。

 ただ、町から聞こえる音一つ一つがさらに魔物の恐ろしさを際立たせていた。

 魔物が近づいてくることを肌で感じる。


 外に出て様子を見ていた俺の元へノクスとステラがやってきた。


「兄さん、今の音はなに?」

「おにいしゃま、ぶたしゃんがちかくにいる?」


 屋敷から見える場所には体格が2mを超えた二足立ちするブタが塀の中を覗いていた。

 口からよだれが垂れており、ニタニタと笑う姿に吐き気を覚える。

 まるで俺達が捕食される側なんだと実感するほどだ。

 あれがこの世界のオークなんだろうか。

 ゲームの時はどこか可愛げがあったのに、今はただの怪物にしか見えない。


「メディスン様、ここは二人を連れてお逃げください」


 いつもふざけているクレイディーが俺の前に跪いている。

 真剣な眼差しで、まるで本当に逃げろと言っているようだ。


「メディスン様、我々領民はいくらでも代えが利きます。ただ、ルクシード辺境伯家を継げるのはあなた方しかいません」

「いや……」

「メディスン様、私は少しの間だけでもあなたの騎士として働けたことを光栄に思います」


 覚悟を決めたのか、普段と違うクレイディーに胸騒ぎが強くなる。

 町の中に入ってくるオークの数は少しずつ増えて、屋敷を今にもこじ開けそうな勢いだ。

 何度も塀にぶつかったり、よじ登ろうとしている。


「お前ら、ルクシード辺境伯家は俺達が守るぞ!」

「「「「「「うおおおおおお!」」」」」」


 そんなオーク達に若手騎士達が立ち向かっていく。

 騎士と呼ばれているものの、まだまだ騎士としての実力があるわけではない。

 元は町で普通に育ったような俺と変わらない年頃の青少年だ。

 そんな若手騎士が自分の命をかけて、俺達を守ろうとしている。


「兄さんは僕が守るから大丈夫!」

「しゅてらもまほうがありゅ!」


 俺は不安な顔をしていたのだろう。

 ノクスとステラは俺を元気付けようと、俺の前に立っている。

 まるで出来損ないの兄を守ろうとしているのだろうか。


「二人ともごめんな」


 俺はそんな二人の頭を優しく撫でる。

 クレイディーの言うことには一理ある。

 俺達が死んだらルクシード辺境伯家はここで終わってしまう。

 ただ、きっとここで俺が逃げたら、ゲームの中のメディスンと同じ道を辿ることになる。


『お前達王族が、支援をやめて俺達を切り捨てなければこうはならなかった。全てお前達が招いた結末だ。どれだけ家族や領民が泣き叫んでも、お前達は玉座から見下ろして笑っていたんだろう。家族を奪い、俺達を地獄に突き落とした貴様が幸せなのが憎い。貴様に安寧など二度と許さない――。お前も、この国も永遠に呪ってやる!全て消えてなくなってしまえ!』


 今思えばあれは王族に言っていた言葉でもあり、逃げたメディスン自身に言っていたのかもしれない。

 血筋を守ろうと逃げたメディスン。

 ただ、何も残らなかった自分に後悔してもしきれなかったのだろう。

 処刑される前のメディスンは何を思っていたのかは知らない。


「兄さん?」

「おにいしゃま?」


 ただ、俺は俺を信じてくれる領民や騎士、そして大事な弟妹を残すわけにはいかない。

 震える体にギュッと力を入れて、ゆっくりと息を吐いていく。


「ノクス、ステラ。ありがとな!」


 俺は二人を安心させるように微笑んだ。

 無表情を貫く練習をしていたが、俺も自然に笑えるからな。


「「まって!」」


 引き止める声を背に、オークの集団に向かって駆け出した。

「中々子育てって難しいよな」

「知らない間に子ども達は成長していきますからね」

「やっぱりかっこいい姿を見せるべきか? 最近、騎士達がこぞって鍛えているらしいからな」

「あなたが鍛えてどうするんですか?」

「そりゃー、子ども達に〝きゃー、父様かっこいいです〟〝俺も父様みたいになりたい〟って言われたいに決まっている」


 どうやら私の夫は想像以上に何か大事なものが抜け落ちているようだ。

 今も服を脱いで、鍛え抜かれた体をどうやって見せるべきなのか確認している。


「それなら★とブクマを集めてきた方が喜ぶわよ?」

「えっ……そうなのか? 今すぐに捕まえてくる!」


 それだけ言って、夫は服を着ずにどこかへ行ってしまった。


「★とブクマを持っている人はここにいる……あっ、みなさん背後には注意してくださいね」


 ぜひ、背後に危険を感じたら今すぐに★とブクマの準備をしよう。

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