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29.薬師、変化を伝える

「メディスン様、今から何を作るんですか?」

「らにゃ、おべんきょーだよ?」

「今から勉強をするんですよ?」

「あっ、そうでしたね!」


 どうやらラナは食いしん坊のようだ。

 さすが双子なだけあって、言いたいことは似ている。

 料理って勉強にもなるからやって損はないし、特にノクスの息抜きも大事だからな。


「今日は砂糖と水で飴を作ります」

「砂糖? あんな高級品がこの領地に――」

「ありゅよ?」


 ステラはポケットから砂糖を取り出した。

 以前砂糖を少しだけ出したが、まさかポケットからそのまま出てくるとは思いもしなかった。

 せめて紙に包んであれば問題ないが、さすがにそのままポケットに入れていたら、衛生的に良くない。


「それは古いから捨てようか」

「いやだ!」

「お腹痛くなって、美味しいものも食べられなく――」


 ステラはすぐにポケットをひっくり返して、ゴミ箱に入れてきた。

 病気になると言われたら、誰でもそんな怖いことには挑戦しない。


「材料は赤キャベツ、レモン、水。そして……」


 俺はスキルを使って、皿の上にスクロースを大量に抽出する。

 もちろんマナタブレットを食べているから、いくらでも抽出はできる。


「これは砂糖なのか? 砂糖ってもう少し黄色や茶色だぞ?」


 ノクスは怪しんだ目で俺を疑ってくる。

 純度100%の砂糖はこの世界にはまだないからな。


「舐めてみたら――」

「わーい!」

「私もいいですか!」


 確認してもらうつもりが、ステラとラナが指でひとつまみして口に入れる。


「おいちー」

「美味しいですね!」


 よほど二人は甘いものが好きなんだろう。

 恐る恐るノクスも砂糖を口の中に入れる。


「甘すぎる……」


 どうやらノクスはあまり甘いものが得意ではないようだ。

 それを知っただけでも兄として嬉しくなる。


「じゃあ、まずは赤キャベツを細かく刻んで水で煮出していくよ」


 言われた通りにステラとノクスは作っていく。

 ノクスは包丁すら持ったことがないため、タジタジとしていた。


「のくしゅ、てはねこだよ」


 そんなノクスをステラが隣で教えていた。

 少し手を切らないかハラハラするが、何かあったらライフタブレットを大量摂取して貰えばいいからな。

 本当に便利なものが合成できてよかった。


 細かく刻んだ赤キャベツと水で煮出していくと紫色の煮汁ができる。


「次に砂糖液を作るぞ。砂糖が溶けてきたら、混ぜるのは終わりだからな」

「はーい!」


 鍋に砂糖と水を入れて、砂糖が溶けるように火をかけていく。

 砂糖液は混ぜすぎると結晶化しやすくなるから注意が必要だ。

 火にかけすぎると、カラメルになったりと気をつけることはたくさんある。


 ステラに飴作りを任せている間に、俺はノクスと共にレモンを切っていく。


「ステラと仲直りはできそうか?」

「なぁ!? 僕は喧嘩なんて――」

「よそ見をしていたら危ないだろ」


 俺はすぐにノクスの後ろに回り、包丁を上から握り一緒に切っていく。


「なんで今頃僕達に関わるの?」

「なんでって……可愛い大事な弟達だからかな」

「気持ち悪っ……」


 ああ、ステラの時とは違って、ノクスの気持ち悪いって結構破壊力があった。

 ステラが通常攻撃に会心の一撃が混ざるのに対して、ノクスは常にクリティカルヒットって感じだ。


「ノクス、よそ見はダメだぞ」

「わかってるよ」


 俺のHPはすぐ0になりそうだが、そっぽ向いていたノクスの顔が少し嬉しそうだ。

 ノクスもみんなで遊びたかったのだろう。


「できたよ!」


 砂糖が溶けきったのかステラの声が聞こえてきた。

 そのまま赤キャベツの煮出し汁を少量加える。

 

「キャベツを入れて美味しいんですか?」


 透明だった砂糖水が紫色に変化していく。

 色味的にもあまり美味しそうには見えないからな。


「んー、味よりはここが勉強の醍醐味かな」


 ただ、やりたかった実験はここからだ。

 俺はステラとノクスにレモンを持たせて、鍋の前に立たせた。


「じゃあ、レモンをギューと絞ってね」

「「ギュー!」」


 二人は力いっぱいレモンの果汁を紫色になった砂糖水に入れる。

 鍋にある紫色の砂糖水が、少しずつピンク色に変化していく。

 色が広がっていく様子に三人とも興味津々だ。


「「「うわー!」」」


 三人とも反応は同じだった。

 魔法がある世界で、楽しめるかどうか不安だったがどうやら問題ないようだ。


「赤キャベツにはアントシアニンという成分があって、それがレモンの酸性によって色味が変化するんだ」


 アントシアニンで楽しめる飲み物として、バタフライピーのハーブティーがある。

 今回はそれを思い出して、飴に代用することにした。

 あのお茶もphの変化で、視覚的に色味を楽しむものとして話題になっていたからな。


「入れるものによって青や緑にもなるから、また良さそうなものがあったら探してみるね」


 三人の目はキラキラと輝いていた。

 実験って本当に魔法みたいで楽しくなるもんね。


「メディスン様、天才ですね!」

「おにいしゃま、しゅごい!」

「兄さんすごい!」


 みんなに褒められたら俺の鼻も勢いよく伸びそうだ。

 ただ、それよりも俺は気になることがあった。


「ノクス、今兄さんって言ったか?」

「あっ……」


 今まで俺のことをお前とずっと呼んでいた。

 次期領主になるための教育はそれだけ大変だし、負荷を与えていることは知っている。

 だからこそ、嫌われていても仕方ないと思っていた。


「きっとメディスン様、あの笑い方をしますよ」

「きもちわりゅいやつだ……」


 ステラとラナはニヤニヤしながら、俺の顔を覗き込もうとするが、今はそれどころではない。


「メメメメディスン様!?」

「おにいしゃま!?」

「おおお……おい!?」


 俺は名前を呼ばれたことが……いや、メディスンが嬉しかったのだろう。

 目からは大量の涙が溢れ出てくる。


「べべべ、別に泣いていないからな」


 こういう時は無表情じゃなくても良いよな。

 メディスンの夢を少しだけ叶えられたような気がする。

 涙を拭き、照れ隠しをするためにいつものように笑う。


「ぐへへへへ」


 やっと弟妹との距離が近くなったような気がした。

 ただ、少しだけ物理的な距離が空いてしまったようだ。

「ねね、おにいしゃま?」

「どうしたんだ?」

「しゅてらのことしゅき?」


 実験中の俺にステラが自分のことを好きなのか聞いてきた。

 チラッと見ては視線を泳がす。

 何か不安を感じているのだろうか。


「もちろん好きに決まってる」

「ほんと?」

「あたりまえだろ。俺の大事な妹だぞ」

「ぐへへへへ」

 

 最近ステラの笑い方が俺に似てきた気がする。

 ひょっとして★とブクマが足りないのか?


「みんな★とブクマを頼む!」

「おにいしゃま? それじゃあだめだよ?」

「そうなのか?」

「おほちしゃまとぶきゅまちょーだい!」


 ステラはニコニコした顔でお願いをしてきた。


「「ぐへへへへ」」


 その姿に俺もついついニヤニヤしてしまう。


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