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24.薬師、心のHPが0になる

「おくしゅり、おくしゅり、しゅごいおくしゅり!」


 ステラは俺の手を握り、変な歌を口ずさみながら屋敷に向かって歩いていく。

 そう……、ステラが俺の手を握っているのだ。

 当の本人は気づいていないのだろう。

 気づいていたら、絶対に放されているからな。


「やっとお兄様のすごさがわかったか」


 今の俺の顔は、自分でわかるほどニヤついている。


「おにいしゃまは……」


 見上げたステラと目が合う。

 ただ、俺の顔を見てすぐに距離を開けた。


「きもちわりゅい!」


 ああ、一瞬にして手を放されてしまった。

 よほど気持ち悪い顔をしていたのだろう。

 今まで距離を開けることはなかったからな。

 ひょっとしたら、笑い方を学ぶより感情を表情に出さないように練習した方が良いのかもしれない。


「おにいしゃまじゃなくて、くしゅりがしゅごいの!」


 そう言ってステラは走っていく。

 子どもの一撃は会心の一撃並みに重いな。


「その薬を作ってるのは俺なんだけどな……」


 ただ、ステラは少し先を走ってはチラチラと振り返っている。

 あれは鬼ごっこがしたいのだろうか。


「スーテーラー! まてー!」


 そんなステラを俺は追いかける。

 ただ、さっきまでスキップをしていたはずなのに、全力で俺から距離を取っていく。

 まるで本当に俺を避けるために、逃げているような気がする。

 いや、これは鬼ごっこだ!

 そうに違いない!


「はぁはぁ……まぁ……まて……」


 実験ばかりして、あまり動いていない俺の体は追いかけることに適していなかった。

 体力はないし足も遅い。

 気づいた時にはステラは遠くにいた。

 完全に置いてかれてしまったようだ。



 追いかけていたら、いつのまにか屋敷に帰っていた。

 庭の方でステラが誰かと話しているようだ。


「はぁ……はぁ……鬼ごっこにもなって――」

「のくしゅ、なんできたの!」

「いつまで授業をサボってるんだ!」


 何かが起きたのだろう。

 急いで走っていくと、ステラは誰かと話しているようだ。


「お父様が怒っているぞ!」

「おとうしゃまなんて……しらにゃい!」


「くっ……」


 突然の頭痛に俺はその場で座り込む。

 走って息が苦しいのに、さらに追い討ちをかけてくるとは……。


 お父様――。

 俺はあの人に期待すらされていなかった。

 毎日勉強や剣の授業、さらにはスキルの使い方を知るまで寝る間も惜しまず実験をしてきた。

 どれもが父から褒められたいからの一心だった。


 隠れていた過去の記憶が蘇ってくる。

 いや、メディスンが必死に忘れようとしていたけど、できずに隠していたのだろう。

 だから今までの記憶の中に領主の記憶が全くなかった。

 最後まで誰かに愛されたいと願いながら、実験を続けていたメディスン。

 彼が一番願っていたのは、ごく当たり前の家族との幸せだったのかもしれない。


 それを思うと大事な弟妹を喧嘩させるのは、兄として……いや、メディスンとして良くない。


「のっ……ノクス……いい……妹を……責めるのを……はぁ……はぁ……やめるんだ」


 勢いよく走ってきた影響なのか、息切れが止まらない。

 それにまだ記憶が蘇った代償で頭も痛い。

 普通の兄ならここはカッコよくて注意するだろうが、今の俺じゃかっこよさのかけらもない。

 きっとかっこよさというステータスがあったら、俺は永遠のゼロを極められるだろう。

 それはそれでかっこいい気もする。


 ただ、ステラとノクスは絶賛俺を見て引いている。


「わたしはおにいしゃまがいるからいいもん!」

「ぐへへへへ」


 ついつい無表情でいるのを目標としていたが、ニヤついてしまった。

 さらに二人とも後退している。

「あの気持ち悪いやつが兄だと……。あれは悪魔よりもひどい顔をしているぞ。今すぐにスライムを連れてきて処理してもらった方が良いんじゃないか……」


 おいおい、今まで顔を出さなかった弟にここまで言われるとは思わなかった。

 スライムってあの台所に出てくる真っ黒なやつに似ているやつだぞ。

 あれを兄の顔につけようとする弟の方が悪魔だ。

 小さな声で呟いているが、俺の耳にははっきり聞こえているからな。


 走ってほとんどなかったHPが、さらに精神ダメージを受けてマイナスにいくほどの勢いだ。


「きもちわりゅいけど、しゅごいもん!」


 なんとかステラの〝すごい〟で保ってている。


「こんなやつのところにいたらステラはダメになる」

「しゅてらいいこだもん!」


 ノクスはステラの腕を引っ張ろうとする。

 我ながら弟の強引さにこっちも引くぐらいだ。


「もう……そこまでにしたらどうだ?」


 やっと息が落ち着いて、しっかりした言葉で話せてきた。


「普通に話せるのかよ……」


 いや、まだ無理かもしれない。

 弟が毒のようにジワジワと心にダメージを与えてくる。

 ひょっとして俺よりも毒の使い手なのかもしれない。

 いくら何でもあれが普段の話し方だと、俺でも関わりたくはない。


「とりあえず喧嘩はやめろ。それに連れていくなら手を握るんだぞ!」


 お互いの手を握らせようと、二人の手を持つ。

 和解する証として握手をするぐらいだからな。


「「ぎゃあああああああ!」」


 二人の悲鳴が屋敷の庭中に響く。

 その声を聞きつけたのか、様々なところから人が集まってきた。


「ステラ様! ノクス様! ご無事でいらっしゃいますか!」

「魔物が現れたのですか?」


 ああ、俺のHPは完全に尽きたようだ。

 ついに魔物扱いにされているしな。

 処刑されるよりも早く死ぬとはね……。


「おにいしゃま!? おにいしゃまあああああああ!」


 あまりにも強い精神負荷により、俺はその場で気を失っていた。

「ねね、おにいしゃま?」

「どうしたんだ?」

「しゅてらのことしゅき?」


 実験中の俺にステラが自分のことを好きなのか聞いてきた。

 チラッと見ては視線を泳がす。

 何か不安を感じているのだろうか。


「もちろん好きに決まってる」

「ほんと?」

「あたりまえだろ。俺の大事な妹だぞ」

「ぐへへへへ」

 

 最近ステラの笑い方が俺に似てきた気がする。

 ひょっとして★とブクマが足りないのか?


「みんな★★★とブクマを頼む!」

「おにいしゃま? それじゃあだめだよ?」

「そうなのか?」

「おほちしゃまとぶきゅちょーだい!」


 ステラはニコニコした顔でお願いをしてきた。


「「ぐへへへへ」」


 その姿に俺もついついニヤニヤしてしまった。

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