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12.メイド、双子の運命を心配する ※ラナ視点

 私は屋敷に帰っていくステラ様を追いかける。

 ただ、その後ろ姿は楽しかったのか、スキップしているように見えた。

 さっきは恥ずかしくなって、照れ隠しをしていたようだ。


「ステラ様、危ないので気をつけてくださいね」


 雪の病魔も終わりに向かうと、暖かい日もあり雪は少しずつ溶け始めていく。

 そういう日が続くと地面は凍って滑りやすくなってしまう。

 私の声が聞こえたのかすぐに立ち止まる。

 瞳がキラキラと光っており、楽しかったのが一目で伝わってくる。


「町は楽しかったですか?」

「うん! おにいしゃまってきもちわりゅいけど、みんなのにんきもの……おにいしゃまは?」


 私も振り返るが後ろにはメディスン様はいなかった。

 側付きメイドとしてなんという失態。

 ただ、年齢的にもメディスン様よりステラ様の方が一人にしてはいけない。

 きっとメディスン様なら許してくれると思い、ステラ様の手を握り屋敷に向かう。


「そういえば、ステラ様はお勉強の方はどうですか?」

「えっ……?」

「ノクス様と一緒に授業を受けていますよね」


 スキルの儀を受けてから、貴族としての貴族教育が始まっていく。

 教育方法はスキルに合わせて行っていくが、ノクス様は次期当主として礼儀作法や社交術を始め、様々な学問や芸術、武術・魔法を習われる。

 さすが剣と魔法のスキルを授かったのもあり、現当主からの期待が高い。


「ちらない」


 チラッとステラ様を見ると遠くを見つめている。

 ちゃんと日程を管理していない私も悪いが、明らかに家庭教師の授業をサボってきているような気がする。

 バレてしまったら、私も怒られるだろう。


「ステラ様、ここは隠れて戻りますよ」

「かくれんぼだね」


 ステラ様はかくれんぼだと思ったのだろう。

 嫌なことを遊びに転換できる発想は良いことだけど、それでバレたら完全に私のせいになりそうだ。

 町に誘ったのは私だけど、先にメディスン様の部屋を覗いていたのはステラ様だからね。


 ステラ様は熱が下がってから、頻繁にメディスン様の部屋を覗いていた。

 今まで離れの屋敷に近づいてはいけないと教えられていたが、ずっと気になっていたのだろう。

 それにあまり見かけたことのない兄が作った薬で、雪の病魔が良くなったら興味が出てくるのは仕方ない。

 それにゼリーも食事後のデザートに出てもおかしくないほど、さっぱりして食べやすかった。


 ん?

 私がゼリーが美味しくて食べ過ぎたってことは決してないからね。


「ここからは一気に駆け抜けますよ」


 屋敷の外玄関を通り抜け、裏口から屋敷の中に入っていく。

 ステラ様を部屋に戻すには、調理場や使用人がいる部屋を通り抜けないといけない。

 周囲を警戒しながら駆け足で通り過ぎていく。


「へへへ、たのちいね」


 当の本人はかくれんぼをしているつもりなんだろう。

 私はバレないかとヒヤヒヤしている。

 こんなに寒い季節なのに、じんわりと汗をかいているぐらいだからね。

 

「ステラ様は後ろを見ててくださいね」

「うん! うしろは……」

「ステラさ……まあっああ!?」


 ステラ様の返事は聞こえたが、途中で声が途切れていた。

 私は振り向いたと同時に、急いで姿勢を正して頭を下げる。


「ノクス様ご機嫌麗しゅうございます」

「おい、授業に参加せずにどこに行ってたんだ?」


 まさかノクス様がいるとは思いもしなかった。

 やはりステラ様がいないことがバレていた。

 普段なら授業をサボっても、部屋にいるのにここ最近いなかったのに気づかれてしまったようだ。


 私は急いでその場から立ち去ろうとするが、スカートが引っ張られる。

 どうやらステラ様は私を逃してはくれないようだ。


「おにいしゃまのところにいってた」


 じんわりとかいていた汗が額から流れ出てくる。


「お兄様……? 僕以外にお兄様は……まさか!?」

「めでぃしゅんおにいしゃまに会いに行ってたの」


 メディスン様の名前を聞いて、ノクス様の顔は険しくなる。

 それだけ嫌悪感を抱いているのだろう。


「逃げ出した使えない兄の部屋に行ったらいけないと言われていただろ!」

「ノクス様、決してメディスン様は逃げ出したわけでは――」

「逃げ出していなければ、僕が次期当主の勉強をしなくてもよかったはずだ」


 ノクス様はスキルを得てから毎日勉強漬けだ。

 違う意味でメディスン様と似たような環境に身を置いている。

 休みはなく朝から晩まで勉強して、食事とトイレの時にしか部屋から出てこない。

 唯一外に出られるのは剣術の授業の時ぐらいだ。


「何もかもあいつのせいで僕はこんな目に遭っているんだ……」


 ノクス様にとってメディスン様は、忙しくなった元凶に感じているようだ。

 スキルの儀をするまでは、元気に駆け回っていた記憶がある。

 毎日笑顔でステラ様と笑っていたからね。

 5歳で背負うことではないと皆わかっているが、当主問題はシビアだから口出しもできない。

 それにメディスン様という前例があるから尚更だ。


「のくしゅ! にいしゃまはわりゅくない!」


 だがステラ様はここ数日でメディスン様への考えが変わったようだ。

 この屋敷の中で、私以外にメディスン様を気にかける人ができて少し嬉しくなる。


「ああ、悪いのは授業を抜け出したステラだからな。僕は忙しいから戻るよ」


 それだけ言い放って、ノクス様はすぐに自室へ戻って行く。


「のくしゅ、きらい!」


 その場でステラは床をジタバタと蹴っていた。

 せっかく双子の兄妹だから、私としては仲良くしてもらいたいが中々難しいようだ。

 ここは大きくならないと、お互いの考えに気づけないだろう。


「ステラ様、戻り――」

「そうだ! にいしゃまのしゅごいところをしってもらえばいいんだ!」


 ステラ様は何か思いついたのだろう。

 すぐさま部屋に戻って準備を始めるようだ。

 ステラ様は元気いっぱいだけど、何か変なことにならなければ良いんだけどな……。

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