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最終話.薬師、領主になる

 爵位を授かってからは、すぐに領地に行く準備が始まった。

 可愛い弟妹達と離れるかと思ったが、まさかルクシード辺境地の隣にある領地を授けられたのだ。

 ただ、ノクスフォード公爵家の管理が雑だったのがここでも発覚して、今後も社畜の運命は決定した。

 まずは領民の安全で安心した生活ができるように環境を整えて、楽しく過ごせるようにするのがはじめの目標となる。


「ルーカスとリシアも着いていくってことでいいんだよね?」

「当たり前じゃないですか!? メディスン様と離れることなんてありません! むしろ一つになりたいぐらいです」


 さすがにルーカスと一つになる気もないし、変な誤解を生みそうだからやめてほしい。

 周囲を見渡すが、すでにルーカスは変わった人という扱いで、他の人は全く気にしていなかった。

 それはそれでどうかと思う……。


「私は串焼き屋をやるんだ!」


 一方のリシアは相変わらず串焼きに情熱を燃やしていた。

 本業が串焼き屋で副業に錬金術師をするらしい。

 一番は何にも縛られずに、好きなことをやるのが良い。


「メディスン、エドワード殿下が挨拶にきたぞ」


 荷物をまとめていると、父が声をかけてきた。

 なぜかエドワードが別れの挨拶をしにきたらしい。

 きっと会いにきたのは、カインのことについてだろう。

 二人は昔からずっといる親友らしいからな。


「カイン、いるか」

「はい!」


 すぐに背後から声が聞こえてきた。

 クラウディーよりもどこにいるのかわからないため、確実に暗殺するならカインの方が上手だろう。

 たしかにゲームの中でも、斥候のポジションだったもんな。


「エドワード殿下に挨拶を頼むよ」

「私がですか?」

「ほら、俺は荷物をまとめるのが忙しいし、きっとあの宰相も一緒にきてるだろ」


 エドワードが来ているなら、セットで国王とコンラッドが来るのは確実だ。

 エドワードの相手をしている暇はないからな。

 それに将来の勇者とは、密接に関わると面倒ごとに巻き込まれそうだ。

 このままじゃ魔王が誕生したら、一緒に旅をしてくれって言われそうな気もする。

 それだけはどうしても避けたい。


「ははは、やっぱり次期宰相候補にするべきだったかな?」

「相変わらず良い性格をしてますね」


 いつのまにか聞いていたのか、コンラッドは壁にもたれてニヤリと笑っていた。

 どうやらカインは三人をここまで連れてきたようだ。

 この人には全力の笑みをぶつけて対応した方がいいからな。


――ミシミシ


 相変わらず屋敷が軋む音が鳴っているから、そろそろ建て直しも考えた方が良さそうだ。


「まぁ、それは数年後の楽しみにとっておいて、メディスンにはこれは渡しておこう」


 コンラッドは何か書かれた紙を渡してきた。

 そこには今回爵位を剥奪された貴族の家名やギルドに所属していた人達の名前が書かれていた。


「一通り犯罪行為をしたやつは捕らえている。ただ、一部では関わっていないと発言するものもおり、捕まえることができなかった」


 きっと俺に気をつけるように注意を促しているのだろう。

 ひょっとしたら、本当にギルドの悪事に加担していない人もいるかもしれない。


「ちゃんと使えるやつか判断して処分するようにな」


 平民となり、ギルドに所属したいと現れたら、俺がその場で判断することになる。

 やっぱりコンラッドが一番腹黒いだろう。

 悪役にピッタリな人材だ。


「俺からも新しい回復薬を渡しておきますね」


 俺は袋に大量に入れた回復薬を宰相に渡した。


「なんだこれは?」

「死んでもすぐなら生き返るエリクサータブレットです」

「はぁん!?」


 感謝の気持ちもあるが、俺はこれで嫌がらせをするつもりで準備をしていたからな。

 驚いた宰相の顔を見れてやった甲斐があった。

 むしろ、驚きを超えて、手が震えている気もするけどな。

 今までの常識を覆す回復薬を今後どうやって使っていくのか、俺も楽しみになってきた。

 その後はエドワードとも挨拶を済ませると、荷物をまとめてすぐに出発となった。


「メディスン、私も立派な女性になってまた婚約しに行くからね」

「あっ……ああ」


 エレンドラは俺の手を強く握って、別れの挨拶をする。


「セリオスにもずっと助けられてばかりだったな」

「私の方こそ、あの時に剣を向けて申し訳なかった」


 しばらく話すことはなかったが、俺に剣を向けたことを悔やんでいたのだろう。


「いや、あれは仕方ないことだ。セリオスはしっかりと自分の任務をこなしただけだ。よくやったな!」


 俺はセリオスを慰めるために、優しく肩を叩いた。

 勇者パーティーの騎士になるぐらいだ。

 このまま落ちぶれないように、罪悪感を減らしておきたいからな。


「メディスン……」


 だが、俺の気持ちとは裏腹に、なぜかセリオスは顔を赤く染めて離れていく。

 考えすぎて体調を崩しているのだろうか。


「あとでセリオスに薬を渡しておいて」

「はぁー」


 念のためにアセトアミノフェンをエレンドラに渡しておいたが、呆れた顔をしていた。

 俺は間違ったことはしていないはず。


「しばらくしたら領地に遊びにきてください」


 俺はお世話になった人達に感謝を伝えて、俺は馬車に乗り込む。


「さぁ、出発だ!」


 父の言葉を合図に馬車は走り出していく。


「メディスン、これからもずっと応援しているからな!」


 さっきまで離れていたセリオスの声が馬車まで響く。


「私も、すぐに婚約の申し込みに行くからね!」

「ぶうっ!」


 エレンドラの言葉に俺は吹き出してしまう。

 本当に勇者パーティーには変わった人達しかいないようだ。


「兄さん、楽しそうだね」

「ああ、いい人達に出会えたなと思ってね」


 そう思いながら俺は馬車から手を出し、軽く手を振る。

 きっと再び顔を見たら、名残惜しくなるからな。

 手に当たる風が少し冷たく感じたが、それでも心は温かかった。

 そういえば、別れの挨拶をしていない人がいる気がするが……気のせいか。



 しばらくして領地に着いた。

 すべてを一新する覚悟が固まっていたが、荒れ果てた町を見て息を呑む。

 この世界に来て初めて見たルクシード辺境伯家の領地よりも、無惨な状態だった。

 町の明かりはなく、まるで町全体がスラムのような見た目だ。

 ひょっとしたら、自身の領地からも実験の被験者として使っていたのかもしれない。


「すみません、何か食べるものを恵んでいただけませんか。せめてこの子だけでもお願いします」


 突然、現れた裕福な格好をしている俺達を見て、声をかける女性がいた。


「大丈夫。問題ない」


 すぐにクラウディーとカインが反応したが、その場で止める。

 女性の腕の中には小さな子どもが抱かれていたのだ。

 女性も痩せこけて、栄養が足りないから母乳も出ないのだろう。

 町は貧困でも、人の心は腐っていないようだ。


「この領地での仕事を伝える」

「はっ!」


 俺は持っている食材と回復タブレットを町に住む人達に行き渡るように配ることにした。


「パパ……いや、ルクシード当主。すぐに食料の支援をよろしくお願いいたします」


 俺は隣にいる父に頭を下げた。

 今日から俺がここの領主だ。

 俺にも守らないといけない領民ができた。


「ああ、息子の頼みだからな!」


 父はニヤリと微笑んだ。

 そのせいで領民の人達は怯えてしまったが、それは慣れてもらわないと困る。

 俺もよく不意に笑ってしまうからな。


「これからはたくさん食べさせてやるからな」


 女性の腕に抱かれていた子どもに声をかけると、優しく微笑み返してくれた。

 小さな決意が胸の中で膨らんでいく。

 それが私の新しい歩みの一歩になっていく。


――新しい人生が今始まる。

ここまで読んでいただきありがとうございます!

この作品は一旦ここで完結となります。

書籍化するなど、動きがあれば続きを書くかもしれません。


最後にブクマ、評価をよろしくお願いいたします!

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