104.父、ギルドを壊滅させる ※エルネスト視点
残酷な描写あり
無理だと思ったら、読み飛ばしても問題ありません
そのまま薬師ギルドと錬金術師ギルドの本部に向かうことになった。
ゼクトとイグニスも同行しており、騎士達もすぐに駆けつけることになっている。
――バン!
勢いよく扉を蹴ると、目の前に広がったのは言葉では表現しきれない光景だった。
虚ろな目をした女性たちと、傷だらけの子どもたちが床に横たわっている。
彼らの姿はまるで人間とは思えないほどだった。
「すぐに息を止めろ!」
イグニスの声が響き、強い風が部屋に吹き込む。
毒霧が部屋を満たしており、息をするのも辛い状況だった。
まるで、実験に使われた命が、最後の瞬間を迎えようとしているかのようだ。
「クラウディー、近くにギルド長がいるはずだ。すぐに捕まえろ!」
「わかりました」
どこかにいるかと思い声をかけると、すぐに反応が返ってきた。
ここまでする頭のおかしいやつなら、近くでこの光景を見ているだろう。
そして、わしらが死ぬところを見届けたいはずだからな。
毒霧がなくなったタイミングで中に入っていく。
「大丈夫か?」
目の前に倒れている女性に声をかける。
彼女は血と汗で全身を濡らし、体中に無数の傷を負っていた。
痛みに震え、恐怖と絶望がその目に浮かんでいる。
その目を見ているだけで心が痛む。
わしの存在に気づくと、強く掴みかかってきた。
「早く殺して……もう生きたくない……」
彼女の声は何もかもを投げ出したような、深い絶望に満ちていた。
「ママ……痛いよ……ママ……」
子ども達の声も耳に入る。
無力に震えている者、母親を呼びながら助けを求める者。
全員が足の指の爪を剥がされ、血だらけになった足を見ていると、胸が締めつけられる。
痛みで逃げられないように縛りつけているのだろう。
子どもを持つ父として、世の中にこんな残酷なことをするやつが近くにいるとは思わなかった。
「なんてことだ……」
「くそ!」
ゼクトもイグニスも、あまりの状況に息を呑むことしかできなかった。
わしはすぐにポケットからメディスンが作った回復薬を取り出す。
王都に来る時に、念のために持ってきたものだ。
「すぐに楽になるから食べてごらん」
わしは優しく微笑む。
きっと今のわしは悪魔のように見えるはずだ。
わしの笑った顔を見て、みんなが逃げるほどだからな。
だが、死を求めている者達には、ひょっとしたら天使のように映るかもしれない。
言葉を聞いた者はすぐに集まり、次々と楽に死ねるならと回復タブレットを噛み砕いていく。
薬を口にした者達は、少しずつ楽になっていくのか表情が和らいでいく。
きっとあのまま空に昇って行けると、思っているのかもしれない。
ただ、口の中で溶けていく薬は、苦しみを和らげ、彼らの人生を救うものだ。
「なんで……なんで殺してくれないのよ!」
一人の女性が泣きながら、わしを叩いてくる。
彼女はきっと、この苦しみから解放されることを望んでいたのだろう。
「すまない。わしは息子のためにも、命を救える立場でありたいんだ」
わしにできるのは、息子の作った回復薬を渡して、傷を治してあげることだけだ。
壊れた心に何かできるほど、わしも人間できてはいない。
遅れてやってきた騎士達に状況を伝えて、実験に使われたであろう人達を救助していく。
だが、中には間に合わず、命を落とした者もいた。
「絶対に許さん!」
わしはあまりの怒りに壁を強く叩いた。
その衝撃で壁が崩れ、地下へと続く通路が現れた。
ゼクトとイグニスに視線を送り、ジェスチャーで中に入ることを伝える。
ひょっとしたら、実験に使われた人達がまだ地下に残されているかもしれない。
そう思いながら足を踏み入れた。
「くそ、バレたか! 死ね!」
「ギルド長をみつけた!」
しかし、目の前に現れたのは、薬師ギルドと錬金術師ギルドのギルド長をはじめ、そこに所属する者達だった。
まさか近くで見ていると思ったが、ここまで近くで見つめて実験を見ているとはな。
私は剣を構え、ギルド長が振り下ろした剣を受け止め、すぐに反撃した。
弱々しい一撃が、常に魔物と戦っているわしに敵うわけない。
「アースバインド!」
イグニスも魔法で彼らを拘束していく。
「俺にこんなことをして、許されると思っているのか! この国に回復薬がなくなったら、お前達は生きていけないぞ!」
この男は何を言っているのだろう。
わしの息子はポンポンと新しい回復薬を大量に製成するやつだぞ?
それに自分のことを忘れて、人を治療するのに精一杯だからな。
誰から見ても、メディスンの方が支持はあるし、慕う後輩もいるから将来はきっと明るいだろう。
「もう、お前達は必要ないな」
わしは奴らに向かってニヤリと笑う。
全身が震え上がるのか、その場で失禁するものも現れた。
ギルド長もその一人だった。
わしは彼らを拘束し、地下から引きずり出して、外に連れ出す。
あれだけ酷い実験をしていたのに、わしの笑った顔一つで漏らしてしまうとは情けない。
それを思うと我が子は結構タフのようだ。
「当主様、犯人の姿がどこにも……」
「ああ、もうみつけたから大丈夫だ」
外に出るとすぐにクラウディーが駆けつけてきた。
その後ろには黒い装束子ども達が並んでいる。
およそ30人近くはいるだろう。
ギルド長を捕まえたのに、クラウディーは浮かない顔をしていた。
「お力になれず申し訳ありません。今ここで自害を――」
「おいおい、それはやめろよ!?」
クラウディーの合図に合わせて全員短剣を取り出し、首元に添える。
その揃った動きと命を大事にしない姿に恐怖を覚えた。
メディスンは何をやらせているんだ……。
「お前達が死ぬと、メディスンが悲しむからな!」
「ななな、なんと!? メディスン様が悲しまれますか!?」
「そうだ、だから絶対に死ぬな! 生きることだけ考えろ!」
きっとメディスンなら自害させることを選択肢にはないはずだ。
自分の命をかけてまで、人を助けるぐらいだからな。
だが、その言葉を聞き全員が嬉しそうに涙を流していた。
「なら死ぬ時はメディスン様の目の前で死んだ方がいいですね。お前達、今日から〝死ぬ時はメディスン様の前だけ〟をメディスン教の教義とする」
「はっ!」
黒装束の子ども達は嬉しそうに頬を地面に擦りつけて祈りを捧げていた。
息子を慕ってくれるのは嬉しいが、メディスン教とはなるべく関わらない方が良さそうだな。
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