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102.薬師、目覚める

「うっ……」


 俺は目を覚ましたが、相変わらず起きようとしても体が動かせない。

 いつもの金縛りが、さらに強くなったような気がする。


「んっ……ステラどうし……兄さん!?」


 寝ぼけたような声が近くで聞こえた。

 すぐに気づいたのは、俺に抱きついて眠っているノクスだった。

 驚いた様子のノクスが、俺の胸元に顔をうずめたまま、慌てて身を起こした。

 その途端、周囲からももぞもぞと動く気配が伝わってくる。


 ああ……今回も金縛りではなかったか。

 ノクスとステラはいつものこととして、ルーカス、リシア、さらには両親まで揃っている。

 しかも、布団の端から何やらうめき声が聞こえてきた。

 視線を向けると、そこには床に転がるクラウディーの姿があった。

 ただ、ここからは下半身しか見えない。


「……なんでクラウディーがいるんだ?」

「メディスン様の温もり……ああ、なんて神聖なんだ」

「お前、俺の布団に顔突っ込んで何してんだ!」


 クラウディーは顔だけ布団に突っ込んでいた。

 みんなを起こさないように、小さな声で注意をする。

 慌てて蹴り飛ばそうとしたが、力が入らず失敗した。

 俺の体に何が起きているのだろうか。


「まあまあ、落ち着いてください」


 ルーカスが穏やかな笑みを浮かべながら、クラウディーのように、そっと布団の中に頭を突っ込んだ。


「お前ら何してるんだ!」

「「はぁー、芳醇な香りがします」」


 こいつらは一体何をしているんだ。

 場所的にはちょうど足……俺の足が臭いと言いたいのか!


「お前ら、いい加減しろ!」


 ついに俺は大きな声を出してしまった。


「のくしゅ……うるさ……おにいしゃま!?」


 次々と寝ていた人達が目を覚ました。

 布団から顔を出したクラウディーとルーカスの瞳が潤んでいたのが気になった。

 それは二人だけではなく、ここにいる全員から感じる。


「ははは……みんなおはよう!」


 俺は笑って元気なことを知らせる。

 きっと俺が目覚めなかったことで、悲しませてしまったのだろう。

 クラウディーとルーカスは、布団の中で隠れて涙を拭っていたようだ。

 勘違いしてすまなかったな。

 ただ、俺が笑ったことで目に溜まっていた涙は戻り、一瞬、離れたように感じたのは気のせいだろうか。


「メディスン様から後光が指してる……」

「ああ……なんと神々しい……」


 なぜかクラウディーとルーカスは地面に頭を擦りつけるように祈りを捧げた。

 きっと俺の笑い方が気持ち悪かったのだろう。

 こういう時って、だいたいクラウディーとルーカスは同じ反応をするからな。


「兄さん……本当に光ってるよ?」

「ん? どういうことだ?」

「ほら!」


 まさか毒の影響で髪の毛が抜け落ちて、頭がツルツルになっているのだろうか。

 ノクスが鏡を持ってきて、俺の顔の前に差し出した。

 反射的に覗き込んだ瞬間、俺は思わず叫んだ。


「まぶっし!」


 鏡の中には、まるで発光体のようになった自分の姿が映っていた。

 寝ている間に何かあったのか?


「まだ疲れているのだろう」

「ゆっくりと休みなさい」


 人は疲れると体が光るのだろうか。

 疑問に思いながらも、俺はベッドの中で再び横になる。

 疲れると光る人間なんて聞いたことがないけどな……。


「メディスンの邪魔にならないように別の部屋に行きましょう」


 母は俺が休めるようにと一人にさせてくれた。

 毎晩、寂しくないように一人ずつ増えていき、気づいたらみんなで寝ていたらしい。


 俺はベッドで横になりながら考える。

 今も俺の体は光っているからな……。

 原因は何があるのだろうか。

 記憶にあるのは、毒を飲んだエドワードを治療して、俺も毒を飲んでいたことに気づくのが遅かったということぐらいしか――。


「待てよ……そういえば、俺、倒れる直前に……【薬神】に覚醒とかなんとか……」


 ぼんやりしていた頭が急に冴えてきた。

 意識が途切れる寸前に、聞き覚えのある声が響いた気がする。


「……あ、覚醒したんだった……」


 きっと体が光っているのも覚醒した影響だろう。

 きっとそれしかない。


――トントン!


「メディスン、ちょっといいか?」

「はい!」


 扉を叩く音とともに父の声がした。

 返事をしたら、入ってきたのは国王とコンラッド、それにエドワードだった。

 どうやら無事に毒が抜けて、元気になったようだ。


「あっ……今起き――」

「いや、君はそのままでいい」


 国王が手を軽く上げて制する。

 仕方なくベッドに腰を下ろしたまま、話を聞くことにした。


「くくく、今度は光ってるぞ」


 コンラッドは面白おかしく俺を見て笑っている。

 俺を宮廷薬師にしなければ、今頃こんなに光ることはなかったからな。


「はぁー」


 そう思っていると、エドワードが深いため息をつく。

 俺の方がため息をつきたい。

 だが、すぐに神妙な顔つきになり、深々と頭を下げた。


「メディスン……すまなかった」

「えっ……ちょ、頭を上げてくださいよ!」


 慌てて止めようとしたが、立ち上がろうとしても力が入らず、そのまま体がふらついた。


「おっと」


 すぐに父が支えてくれたが、何やらやたらと満足げな顔をしている。

 その顔は笑ってはいるが、普段のゾクゾクとする感覚はない。


「……なんか、嬉しそうですね?」

「いや、父親として頼られるのは悪くないな」


 得意げに笑う父を見ながら、俺はもう一度問いかけた。


「何日ぐらい意識を失っていました?」


 明らかに体に力が入らないことに疑問を感じた。

 数日ならここまで動けなくなることはないからな。

 毒の影響だとしても、エドワードの方がワインをたくさん飲んでいた。

 

「15日は経っているぞ」

「15日!? そんなに!?」


 あまりにも意識を失っていた時間が長くて驚いてしまった。

 明らかに寝たきり期間が長かったようだ。


「中々状態も良くなかったから、その間は聖女が様子を見てくれていたぞ」

「あの怠惰な聖女が!?」


 仕事なんてしたくないと常々言っていた彼女が、俺のために動いてくれていたらしい。

 あとでちゃんと礼を言わないとな。


「まぁ、これからは我が領地で三食、宿付きの条件だったけどな」


 ちゃっかりニートになるのを条件に出していた。

 このまま聖国には帰らずに、我が領地で過ごすらしい。


「あとはクラウディーとルーカスが体を拭いたり、着替えさせたりしてくれたぞ」

「……待ってください! なんでそいつらに任せたんですか?」


 ああ、明らかに任せたらいけない人に任せていたようだ。

 夢の中でパンツがどうとかって話をしていた気がするが、現実でも二人ならしていそうだな。


「それでお二人はどうして……」

「ぼっ……僕が保護すると言ったのにすまない。エルネストの親友……いや国王として申し訳ない。それに息子の命まで――」

「あー、それなら別に宮廷薬師という立場なので仕方ないことです」


 貴族達からの心ない言葉なら、多少は覚悟をしていた。

 まぁ、俺を殺すために毒を盛られていたことは知らなかったけどな。

 今回のことを通して、貴族はそんなに優しい世界ではなかったってことを学んだ。

 本来はそこまで俺自身が気にするべきだったからな。


「やっぱりメディスンは優しいな!」

「エドワード殿下はもう少し危機感を持ってくださいね」


 ニコニコしているエドワードに、俺は釘を刺す。

 毒を飲んでも、バカなのは相変わらずのようだ。

 俺が死んでも領地を継ぐのはノクスだし、特に困ることはないだろう。

 ただ、次期国王は目の前にいるエドワードだ。

 彼が亡くなったらこの国も問題どころでは済まないだろう。

 いや、すでにバカな彼が国王になる方が問題なのか……?


 俺の言葉にエドワードは苦虫を噛むような表情をしていた。


「そういえば、第二王子は元気ですか? 何かすごい悩んでいたようですし……」


 二人がいるなら、彼のことについて話そうと思ったが、ちょうどタイミングが良さそうだ。

 あの様子だと完全に闇堕ちして魔王になりかねない。

 それにどのタイミングで魔王になっていくのかも知らないから、注意喚起は必要だろう。


「やはり君はすごいな」

「えっ……」

「僕達もずっと悩んでいた。あの容姿は先祖返りだと伝えてはいたが、あの子も受け止められなかったからね」


 どうやら一人でずっと考え込んでいたのは知っているようだ。

 王族の先祖に黒髪と黒い瞳の王がいるらしい。

 その遺伝子が第二王子に引き継いだとされている。

 ただ、彼はそれを感じさせないようなほど、今は元気に過ごしていると言っていた。

 むしろ黒髪で真っ黒な瞳を誇りに感じているらしい。


「将来はメディスンみたいになるって言ってたぞ」

「いや、それはやめた方が……」


 エドワードの言葉をすぐに否定する。

 まさか魔王が俺を目指すっていくらなんでも弱すぎじゃないか?

 俺は序盤で死ぬモブの一人だからな。

 それでも多少は彼を救えたのならよかった。


「それで、ここに来た理由だが――」


 国王が真剣な声で切り出した。


「メディスン・ルクシード! 君に爵位とギルドの管理者の役目を与えることとする」

「……は?」


 あまりに唐突すぎて、俺は耳を疑った。


「こっ……これでいいんだよね?」

「陛下、良くできています」


 国王はチラチラとコンラッドを見ると、笑顔を返していた。

 きっとコンラッドが何かを企んでいるのだろう。

 俺と目が合ったら、ニヤリと笑っていたからな。

 この悪魔め!


「メディスンが倒れてから色々あったからな……」


 その後、俺が倒れていた時の話を父が語り出した。

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