100.聖女、物語の真実 ※聖女視点
「すみません、通してください!」
すぐに私はメディスンの元へ向かう。
私が聖女であることもあり、メディスンのところまでは素早く駆けつけることができた。
「聖女、メディスンはどうだ? 魔力を使いすぎて倒れたのか?」
心配そうに見つめてくるエルネストに、私を首を横に振る。
「あぁ……メディスン……。お前も飲んでたのか……」
いつもの怖さはなく、大事にメディスンを抱きかかえるエルネストの姿に、彼がどれだけ愛されているのか伝わってくる。
彼の様子を見ただけで、エドワードと同じ症状であることが見てわかった。
すぐに治療が必要な状態だろう。
「兄さん……僕を置いて行かないでよ」
「おにいしゃま、またわらって? しゅてらだよ」
すぐにメディスンのことを大事に思っている人達が集まってくる。
ゲームの中とは全く違う光景に何もしなかった……いや、全てを知っている私ですら、胸が締め付けられる。
すぐ回復魔法を唱えようとしたが、ふと彼の手に握られている回復薬が目に入った。
「無意識で回復薬も作っていたんだな」
私はその回復薬を受け取り、メディスンに飲ませる。
たしかエドワードの治療も同じように行っていたはずだ。
同時にポーションを使い、確実に効果が行き渡るようにした。
「今すぐ二人を別室に運ぶ」
宰相の声が響くと、貴族達は道を開け、エドワードとメディスンは慎重に運ばれていく。
それに続くように、家族達も後を追った。
彼は悪役薬師と呼ばれているのに、この世界ではこんなに多くの人から慕われている。
それは転生者として努力した証だろう。
「皆の者はひとまずここで待機してくれ。ゼクト頼む」
「はっ!」
国王はそれだけ告げると、息子のもとへ向かった。
一人残された私は、ゆっくりと視線を巡らせ、ずっと気になっていた人物に近づく。
今にも影の中へと紛れ込み、この場を離れようとしている相手に――。
「カインさん、どこにいくのかしら?」
「聖女様、私はずっとここにいましたよ」
ニヤリと笑う彼に、私も負けじと微笑む。
このパーティーに来た時から、どこか違和感を覚えていた。
それは悪役薬師であるメディスンが、エドワード殿下の毒殺を企てた時と似ていたからだ。
ゲームの中では、聖女である私を歓迎するパーティーだったけどね。
スキルの覚醒には生死の境をさまよう必要がある。
それはゲームの中で、追加コンテンツの過去エピソードや本編から判明する設定だ。
もちろん、聖女となる私も例外ではない。
ゲーム内では、新しい聖女見習いが登場したことで聖国に処分される際、覚醒するはずだった。
だが、実際にはメディスンの父を見たことで、私は聖女へと覚醒した。
本来、私が覚醒するのは物語が始まる三年後の少し前。
それが早まったことで、何か因果関係があると思った。
その結果、今回の“エドワード殿下毒殺事件”が起こる可能性があると事前に察知できた。
――この事件に必要なピースは、〝聖女である私〟だから。
物語では、聖女となった私は王都へ挨拶に訪れる。
そのタイミングでエドワード毒殺事件が発生し、私が魔法を使って彼を回復させる、という流れだ。
ただ、四六時中回復魔法を使わなければならないのが面倒で、私はサボって傍観していた。
どこかでメディスンがエドワードを助ける気がしたのもある。
それに物語を変えているのは、メディスン自身だからだ。
「そうかしら? エドワード殿下が、まさか毒入りのワインを飲むとは思わなかったでしょう?」
「ええ、私が止められたら――」
「ふふふ、メディスンを殺そうとした人がよく言うわね。夜使のカインさん」
カインの表情が一瞬、凍りつく。
驚きのあまり、普段の作り笑いすら忘れたのだろう。
だが、私と目が合うと、彼はいつものようにニコリと笑った。
「聖女様は何をおっしゃるんですか?」
「誰もギルドが毒物実験をしているなんて知らないものね? 今回使った毒って、確か神経毒だったかしら?」
次の瞬間、カインは短剣を抜き、私の喉元へ突きつける。
「どこでそれを知った」
「あなたは私を殺せるのかしら? 聖女となった私は、聖国でも大事な存在よ」
「くっ……」
しばしの沈黙の後、カインは短剣を懐へしまった。
何事もなかったかのように振る舞っているが、心臓は普段よりも数倍速く鼓動している。
武器って騎士以外は持ち込み禁止だったはずなのに、何をしているのよ……。
「エドワードとメディスンは助かるわ。まぁ、何かあれば私も治療できるからね」
「ああ、そうだな……。初めからギルドの計画が失敗に終わるなんてわかりきってたさ。私がわざわざ手を貸すまでもなくな」
カインの口ぶりから察するに、彼が直接手を下したわけではなさそうだ。
たしかに、エドワードがワインを飲もうとしたとき、カインはそれを止めていた。
計画だけを知っていたのだろう。
「きっと、今回毒を盛った人物は口封じのために処分されるでしょうね。あなたも同じかしら?」
「……」
「結局、薬師でも錬金術師でもない養子のあなたは、〝道具〟くらいにしか思われていないものね」
カインは本当に驚いた顔をした。
彼が養子であることを知るのは、ノクスフォード公爵家の者だけのはず。
――でも、追加コンテンツでは、彼の過去とエドワード暗殺未遂事件が明かされる。
ゲームの本編では、エドワードとカインは一度決別して、パーティーから離脱する。
その後、追加コンテンツで再び絆を深めることになる。
ずっとそばにいたエドワードはカインにとって親友だ。
そして、ノクスフォード公爵家も、自分が実験として預かった孤児だとわかっていても、カインにとっては育ての親でもある。
彼の中でどうすることもできないでいたのだろう。
「あなたがギルドを壊せばいいんじゃないかしら? 手伝ってくれる人なら、いくらでもいるわよ」
「誰のことだ?」
「エドワードやメディスンの父親達かしら」
ゲーム本編にはいなかった〝存在〟が今はいる。
それは――国王の親友ともいえる人々だ。
本来の物語では、国王はただの操り人形だった。
騎士団長はセリオス、魔法師団長はエレンドラ、宰相はカインの父が就任していた。
国王はただの操り人形になり、メディスンに罪を被せて処刑してしまう。
――それが、追加コンテンツで明かされる真実。
国王は親友を全て失い、悪友の子でもあるメディスンすら知らなかったからね。
「エドワード殿下が目を覚ましたぞ!」
パーティー会場に歓喜の声が広がる。
本当にメディスンがエドワードの治療を成功させたのだ。
これは宮廷薬師以上の功績になるだろう。
「よかった……」
カインは安堵の表情を浮かべる。
本当に、彼にとってエドワードの存在は大きいのだろう。
「今後どうするかはあなた次第よ。大切なものは、自分で守らなければ、すぐに消えてしまうからね」
それだけ告げて、私はメディスンのもとへと向かった。
そっと心の中でキマったとガッツポーズをする。
この世界は聖女である私……いや、俺が主人公だからな!
だが、エドワードとは違い、メディスンは数日経っても目を覚ますことはなかった。
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