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1.薬師、悪役なのを思い出す

「ぐへへへ、これでどうだ」


 狭い部屋に不気味な笑い声が低く響き渡る。

 今までやってきた実験もこれで何かが変わるかもしれない。

 そんな期待を込めながら、俺はできたばかりの薬を飲み込む。


「くっ……胸が熱い! これも毒か!」


 すぐに口の中に指を入れるが、手が痺れて出したものを吐き出せない。

 意識が薄れていくとともに頭痛が襲ってくる。

 自分のスキルで死ぬことになるとは誰も思わないだろう。

 そんなやつはこの世界に誰一人もいないからな。

 いや、俺が一番初めになるかもしれない


 誰にも期待をされず、相手にされなかった人生。

 そんな気持ちと共にあの病魔に打ち勝つこともできず、俺はその場で倒れていく。



「んっ……なんで俺は床で寝ているんだ?」


 さっきまで調剤室で処方箋の準備をしていたのに、気づいたら床に寝転んでいた。

 寝不足で気づいたら寝ていたのだろう。

 真冬のこの時期は感染症が流行して、薬を貰いにくる人が増えてくる。


 家族もおらずゆっくりと働きたかった俺は田舎の薬局で働いていた。

 だが、配属されたのは俺だけで、ほぼ一人で働く毎日。

 元々薬局にいた人がみんな高齢だから、とにかく動くスピードも遅い。

 それに腰が痛いやら、動けなくなったって休む人ばかりだからな。

 田舎でゆっくりできると思ったのに、そうはいかないようだ。


「すぐに薬の準備を……うわっ!?」


 ゆっくりと体を起こすと、机の上には生物の死体が転がっている。

 それも一匹だけではなく何匹もいた。

 まるで狂気的に何かの実験をしていたかのようだ。


「ってかここはどこなんだよ……。もしかして誘拐でもされたのか?」


 誘拐でもされたのかと思い、周囲を見渡しても誰もいない。

 手錠や縄で身動きを封じられているわけでもないしな。

 部屋中に血の臭いが漂い、明かりも入ってこない湿っぽい部屋にただ一人だけいる。


「これはノートか?」


 机の上に紙の束が置かれていた。

 さっきまでメモをしていたのか、途中書きのままになっている。


【生物名】


 ポイズンスパイダー ラトロキシン

 ポイズンガエル バトラコトキシン

 ブラックヘビ アセチルコリンエステラーゼ阻害物質


「なんか危なそうな名前ばかりだな」


 書いてあるのは生物名とたくさんの呪文のような文字が書き込まれている。

 ポイズンって名前からして毒のことを言っているのだろう。

 ただ、その中でもよく知っている言葉があった。


「アセチルコリンエステラーゼ阻害物質……これって成分のことだよな?」


 アセチルコリンエステラーゼ阻害物質は、アルツハイマー病などの認知症を遅らせる薬に使われる。

 それにラトロキシンやバトラコトキシンって、学生の時に毒成分として何となく聞いたことがあった。


 ページをめくっていくと、見たことない成分がズラリと並んでいる。

 いくら薬剤師でも毒に関しては、そこまで馴染みがないからわからない。

 ただ、何かを探しているのか、いくつも実験内容が書かれていた。


 ページをめくり終わると、下の方に小さな文字で名前のようなものが書かれていた。


「メディスン・ルクシード辺境伯……ぐああああああ!」


 突然、頭を鈍器で叩かれたかのような痛みが走る。

 あまりの痛みに声を出してのたうち回る。


 ひょっとして脳内出血でも起きたのだろうか。

 ここ最近不摂生な食事内容に、寝不足が重なっていたからその可能性もある。


 次第に痛みが落ち着くと、曖昧だった記憶が少しずつ戻ってきた。


「死んだのは俺だったか」


 調剤室で倒れた記憶まで残っていた。

 あの職場なら誰にも気づかれずに亡くなったのだろう。


 すぐに姿が映るものを探すが、この部屋には何もない。


 扉を開けて外に出ると、見たこともないはずなのに見慣れた景色が広がっていた。


 長い廊下に整えられた肖像画や大きな振り子時計。

 花瓶は花が生けられておらず、ホコリが被っていた。

 俺はきっと拉致されたんじゃない。

 廊下にある肖像画を見て、さらに今の現状を理解する。


「俺がメディスン・ルクシードか……」


 ――メディスン・ルクシード


 最近までやっていたゲームの序盤に出てくる毒使いの悪役貴族の名前だ。

 何かの記念パーティーで王子のワインに毒薬を入れて殺害しようとするが、偶然招待されていた聖女の治療で一命を取り止めた。


「ああ、俺はパーティーで捕まって、処刑されるんだったな」


 捕まったメディスン・ルクシードは貴族達の前で処刑される。

 その時の言葉が記憶にはっきりと残っている。


 ♢


 お前達王族が、支援をやめて俺達を切り捨てなければこうはならなかった。

 全てお前達が招いた結末だ。

 どれだけ家族や領民が泣き叫んでも、お前達は玉座から見下ろして笑っていたんだろう。

 家族を奪い、俺達を地獄に突き落とした貴様が幸せなのが憎い。

 貴様に安寧など二度と許さない――。

 お前も、この国も永遠に呪ってやる!

 全て消えてなくなってしまえ!


 ♢


 あまり情報もないため、処刑されるのは当たり前だとゲームをしている時は思っていた。

 ゲーム自体が魔王を討伐する王道RPGゲームだからな。

 チュートリアルで王子が死の瀬戸際までいき、勇者へと覚醒したところから始まる。


 簡単に言えば王子が勇者の力に目覚めるきっかけが俺ってことだ。

 永遠の呪いも勇者になって魔王と戦うことを示唆していたのだろう。

 普通ならこの国の世継ぎである第一王子が勇者でも、命懸けで魔王討伐に行くことはないからな。


 窓ガラスに映る姿はどこからどう見ても処刑されるメディスンだ。

 ただ、処刑されたメディスンは肖像画の人物の方が似ている。

 混乱する頭の中で今の状況を整理しないといけない。


「それにしても誰もいないものなのか……?」


 俺は周囲を見渡した。

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