館の地下
……ここまでこればとりあえず安心、か。
今回の失敗は許されるものじゃない。あのままあの場にいれば遅かれ早かれ間違いなくあのメイド女に殺されていた。
もう脱走する他に助かる道はない。でも今僕がいるのは建物の裏側。出口は表側のロビーにしかないから出口から真逆に逃げてきてしまったことになる。
うかうかしていればあいつらが僕の居場所に気づくのも時間の問題だ。
だけど、さっきあいつにやられたダメージが……一歩歩くたびに全身に激痛が走る。
骨は丈夫な方で今まで折れたことがないけど分かる。肋が何本か折れて内臓に突き刺さっている。
この前あいつに刺された傷もまだ完治していないっていうのに。
うっ……
迷人は咳き込み吐血する。
このままじゃ……まずいな……
……
地下への階段だ。ここを降りていけば隠れられる場所があるかもしれない。
一刻も早く出口に行かなければいけないけどこの体じゃもう走ることもままならない。とりあえず隠れて少しでも体を回復させよう。焦っても簡単に捕まるだけだ。だけどこの重傷だ、回復どころか状態が悪化して動けなくなれば。それでもし地下になんて降りたら……袋の鼠だ。
考えても仕方ないとりあえず降りてみるか。
……
降りてみたはいいけど、凄く不気味だ。灯りが無くて何も見えない。寒い。
しかも異様な臭いが漂ってる。
初めてだ、こんな臭いを嗅いだのは。
……
ん、なんだ……?
階段を降りしばらく歩いた所に異変はあった。
薄暗くはっきりとは見えないが視線の先に石壁が破損した跡があり、その瓦礫が落ちている。
どうしてこんな頑丈そうな壁がこうも。
まるで誰かが破壊したかのような。
そういえば今朝言っていた地下の石壁の補修っていうのはこれのことだったのか。
この地下、実はヤバいんじゃないのかな。
でも、進むしかないか。このままじっとしている訳にはいかないし。
……
ん、あれは……扉……
迷人の目の前に不思議な形をした扉がそびえ立つ。
これ、絶対入ったらダメなやつだよね。
でも、ここで行き止まりだし入るしかないか。
主の部屋って感じじゃなさそうだし、前誰かが使っていた部屋って可能性もある。
考えていても始まらない、とりあえず入ってみよう。
……
恐る恐る迷人は扉を開け部屋の中へと入る。
部屋の中は地下の廊下よりも暗く完全な暗闇。
静まり返っていて人気を感じられない。
何か嫌な予感がする……
迷人が部屋を少し進むと背後の扉が急に勢いよく閉まる。
……!?
扉が……勝手にしまった……
……いや……違う……
僕の……
後ろに……
誰かいる……
……
動けない……
いや……動いてはいけない……
振り向いたら、その瞬間殺される……
……
ねえ……どうしたの?
――!?
ぴったり僕の後ろから少女の声が聞こえる。
主でもない……メイド女でもない……
ねえ……私と遊ぼうよ。
あそ……ぶ……?
そうだよ。たくさん。たくさん。あなたが死んじゃうまで。
……
でも、もう。あなた死んじゃいそうね。
このまま死んじゃ、つまんないよ……
ねぇきいてる?
意識が……やっぱり先のダメージが大きかっ……た……恐らくこいつも化け物の仲間……地下に降りるのは……失敗……だった……
積み重なる労働の疲労、これまで受けたダメージが大きく迷人はその場に崩れ落ちた。