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かくして道は開かれる  作者: 藤井 三打
五章
18/30

17話 這いよれ! カラテドウ!

 ライデンがシュンシュウに乗っ取られ、命からがらヴィルマたちは脱出。

 勝つためにアギーハからカラテを習うことをヴィルマが決意した日。

 敗北の日より、十日の時が流れた――


               ◇


 ただひたすらに、カラテの技を繰り出す。

 とはいっても、使うのはセイケンヅキとジョウダン、チュウダン、ゲダンの蹴りぐらいである。基本の技しかできないものの、基本を延々と磨き続けることができる。

 これがカラテゴーレムのマスタツの弱みであり、強みでもあった。

 あれから十日。ライデンに砕かれた片腕も、一度限りの飛行で吹き飛んだ両足も、問題なく復活している。このエンブこそ、マスタツが復調した証である。

 マスタツは現在、ドウジョウ外の山中にて、最終調整をおこなっていた。

 小型カラテゴーレムのシロオビたちが、マスタツの前にカワラを積み上げていく。

 カワラ。この土できた薄くも硬い四角の板は、アギーハがカラテの文献を読み込み、再現したものである。カラテカはこのカワラを積み上げ、己の拳で割ることにより、自身の体調と実力を図る。更になんと、このカワラは屋根の補強にまで使えるのだ。実際に、アギーハのドウジョウの屋根にはカワラが並んでいる。

 カラテの実力を図るためのアイテムを、建築資材としても使えるようにする。

 カラテカとはまるで錬金術師だ。超一流の錬金術師たる主のアギーハがカラテに惹かれたのも当然だ。マスタツはカワラの由来を勘違いしつつ、主に思いを馳せる。

 気づけば、マスタツの回りには、カワラの塔が四つできていた。

 積み上げられたカワラの高さは、四十枚。

 いくらカワラが薄くとも、この数までいけば、マスタツの胸くらいまでは届く。

 マスタツはじっとカワラを見下ろす。

 おそらく人であれば、息を吸い、力と呼吸を込めているタイミングである。

 だが、無呼吸のマスタツからその様子を読み取るのは難しかった。


『オスッ!』


 マスタツのシュトウが、真上からカワラめがけ振り下ろされる。

 シュトウにより、崩れていく四十枚のカワラ。

 その一撃は、一番下のカワラまでしっかと砕いた。

 続けざまに、別のカワラに振るわれるシュトウ。

 四十枚のカワラの塔は、あっという間に残り一つとなってしまった。


「とりゃぁぁぁぁぁ!」


 マスタツが最後のカワラを割ろうとする寸前、割り込んできた声と拳。

 自身の身長より高い四十枚重ねのカワラを跳び越え、真上から突き出されたアギーハのシュトウは、四十枚すべてのカワラを両断した。

 着地したアギーハは、自身が割ったカワラとマスタツの割ったカワラを拾う。

 アギーハは咳き込みつつ、割れたカワラをマスタツに見せつけた。


「まだまだ……だな! ゴホ! ゲホッ!」


 砕け散って破片となっている、マスタツが割ったカワラ。

 かたや、真っ二つに割れているアギーハが割ったカワラ。

 マスタツがカワラを砕いたのならば、アギーハはカワラを両断した。

 双方、四十枚のカワラワリには成功したものの、その結果には差があった。


『これは、手の大きさの違いによるものでしょうか。それとも、私のパワーが過剰なのでしょうか』


「半分正解で、半分不正解……いや、三分の一正解で、三分の二不正解といったところか。手の大きさは関係ない。パワーが過剰なのはあってる。ただし、わたしにあってお前に無いのは力の集中だ。力のかけ方が雑だから、過剰になってしまう」


 アギーハは大きなカワラの破片を手に取ると、すっとシュトウで切る。

 割れたカワラの切り口は、まるで剣で斬ったように綺麗であった。


「お前の一撃は力がバラけすぎているんだ。だから、カワラが力任せに割ったようになってしまう。リキシのライデンならこういう割り方も許されるだろうが、カラテカである以上、手足を刃に変えるぐらいのことはできないとダメだ」


『どうにも上手く技術の理解ができません。ですが、私がカラテゴーレムを止め、リキシゴーレムになれば、この問題は解決するのではないでしょうか』


「はっはっは、冗談が過ぎるぞ? ……冗談だよな?」


 さーっとアギーハの顔色が青くなったところで、マスタツは答える。


『私がカラテ以外の道に行くとお思いですか。私の身体は、主が道を極めるためにあるのですから』


「そうだ! そうなんだからな! まあなんだ、わたしはお前のように連続でのカワラワリはできないからな! うむ、お前も決して悪くないぞ」


 安心した様子を、わかりやすく見せるアギーハ。

 そんな主を見ているマスタツ。独眼一つの顔では表情は伺えないが、なんだか微笑んでいるように見えた。

 アギーハは改めて、今しがた見せたマスタツのエンブやカワラワリを評価する。


「これでマスタツは完全に回復したと言ってもいい。あいにく素材が足りず、緊急脱出用の火竜の核は足に組み込めなかったが、そのぶん、足回りを強化できた。もう逃げる気は無いし、そもそも同じ手は通じないだろう。だから、これでいいんだ」


 急変した状況、まだ城の周りにいた人々。マスタツの破損。

 あの時は、シュンシュウから逃れる理由があった。

 だが次は、退くつもりはない。本来、カラテに後退のネジは無いのだ。


「さて次は、もう一人の“弟子”の様子だな。行くか」


『はい。あの方は、弟子というより技術交流を目的とした留学生のようなものだと思いますが』


「ふん。カラテを学んだんだ。その時点で弟子で既成事実だ!」


 見事な回復を見せたマスタツを誘うアギーハ。

 一人と一体が向かう先は、十日間言葉通りに休み無くカラテを学んだ、ヴィルマの最終試験の場であった。


               ◇ 


 魔の王となるべき者が、数百年ぶりに降臨する。

 それは魔物にとって、喜びと焦燥感を生み出す出来事であった。

 これより魔の時代がはじまる。すぐにでも馳せ参じなければならない。

 言葉がわからずとも、魔王憑きのシステムを理解していなくても、かの者の元に駆けつけねばならない。強者に従う魔物の本能が、身体を突き動かす。

 シュンシュウの手により蘇った魔の城を目指し、ドーゼン大陸の各地から魔物が集結しようとしている。

 石の身体を持つ魔物、ガーゴイルもそのうちの一匹であった。

 頑強な石の身体と、翼による飛行。硬さと速さの両立。

 石像に擬態する知恵もあり、熟練の冒険者でも勝負を避ける魔物である。

 空を飛び城を目指すガーゴイルは、途中にあった深い森の上にて翼を休める。

 石造りの瞳が見つけたのは、森の開けた場所に一人立つ美女であった。

 なかなかに、見目麗しい獲物である。

 アレならば、魔の王となる者への献上物としても恥ずかしくない。

 即断即決したガーゴイルは、石の翼を羽ばたかせ、手にしたトライデントを手に突撃する。石の硬さによる防御力と翼による機動力に物を言わせた一撃は、獲物をまっすぐに見定めていた。


                ◇


「ふう……」


 重い息を吐き、構えを解くヴィルマ。

 その目は、まるで狼のように尖っており獰猛だ。

 ヴィルマの背後には、頭が吹き飛んだガーゴイルの残骸が転がっていた。


「見事だ!」


『素晴らしい一撃です』


 木陰にてヴィルマを見守っていたアギーハとマスタツは思わず拍手する。 


「まさかガーゴイルが上から来るとはな! これは天才たるわたしでも予想ができなかった! これは文句なしに合格というしかないだろう!」


『予測外の事態への対処、お見事でした』


 ドウジョウ近くの森でおこなわれていた、ヴィルマの卒業試験。

 十日間、休みも睡眠もなく詰め込んだ技術が身についているのかを確かめる。

 休みなき鍛錬にヴィルマは耐えてみせた。だが、耐えるだけでは意味がないのだ。

 ガーゴイルが上から降ってきたのは、ヴィルマが規定の課題をこなした後だった。

 突然の襲撃にもヴィルマは見事に対応してみせた。

 ガーゴイルの頭を吹き飛ばしたのは、洞窟内にて学んだカラテの技であった。

 ウキウキとした気分を隠さず、アギーハが上機嫌でヴィルマに話しかける。

 まさかここまで上手く仕込めたとは、予想外であった。師としての嬉しさがある。


「どうする? せっかくだから、帯の色を変えるか? 黒はともかく、シロオビでいるのはもったいないぞ?」


 ビキニアーマーの上にユカタを羽織るヴィルマのファッションは変わっていない。

 ただし、ユカタを締めている帯は、アギーハから渡されたカラテギのシロオビとなっていた。


「わたしはカラテカじゃないし、白のままでいいよ。それより」


 ばたりと、ヴィルマはそれだけ言って倒れる。

 アギーハとマスタツは大丈夫かとヴィルマの元に駆け寄った。


「もう、流石に休む……あと、久々にお酒飲みたい……」


 ヴィルマのつぶやきを聞き、アギーハとマスタツは安堵する。

 肉体をケアしつつつの不眠不休の鍛錬。肉体はもっても、精神がもつとは限らない。十日間のカラテの鍛錬を終え、洞窟から出てきたヴィルマは顔つきも目つきも妙に鋭くなっており、更に最低限の言葉しか話さなかったから心配したものの、酒の話がこうしてできるくらいなら、心も大丈夫だ。

 アギーハはほっとした様子のままヴィルマに話しかける。


「ああわかった、とりあえず休んで寝ろ。その後、出発だ。キミの願い通り、寝ているうちに酒を胃に流し込んでおくから」


「できれば、別々にお願いしたいんだけど……まあ……どうでもいいかな……」


 話しているうちにヴィルマの目が閉じていき、やがて言葉は寝息へと変わった。

 一通り過程を終えた安堵は、眠気を殺すクスリの効果も打ち消す最高の睡眠導入剤となった。

 力尽きて眠るヴィルマを抱えたマスタツが、アギーハにたずねる。


『ガーゴイルを破壊したあの技は、当然カラテの技ですよね』


「ああ。スモウの流儀に合わせたが、間違いなくカラテの技だ。いやしかし、上空から襲ってくるガーゴイルが来てよかったよ。上からの攻撃は、とっさに足技で迎撃するのが難しいからな。おかげで、ヴィルマの手技が見れた。なにせ、他の連中は足技だけであしらわれたからな」


 やれやれと、アギーハはあたりを見回す。一番目立つのは、ガーゴイルの残骸である。だがそれ以外にも、足を破壊され行動不能となったソエノら中型のカラテゴーレムが三体ほどうずくまっていた。

 ヴィルマに課せられた卒業試験は、中型のカラテゴーレムであるソエノとアシハラとオオハラとの一対三のクミテであった。

 一対多という、本来スモウやカラテでもない状況。更に相手はマスタツほどではないものの、カラテの技とこのサイズではありえないほどの性能を持つ中型カラテゴーレムが三体。だが、ヴィルマは相手を蹴って崩すケタグリにて次々に三体を撃破してみせた。ガーゴイルが襲ってきたのは、ヴィルマがこの三体を倒した直後である。

 あくまで蹴りで崩して、手を引いて倒す。カラテを学びつつも、ヴィルマの動きはライデンから学んだスモウワザからは逸脱してはいなかった。


「カラテの技を見たいのに、スモウの技でああも素早く倒されてしまっては、上手く判断できなかったからな」


『ですが、ヴィルマ様の蹴りの威力も速さも格段に上昇していました。これは、カラテの鍛錬があってこそでしょう』


 不屈のカラテゴーレムたちが動けないのは、ヴィルマの蹴りで足を破壊されているからだ。ゴブリンやオークと対峙した時のヴィルマはとどめを刺すためのダガーを必要としていたが、弾く蹴りとは違う砕く蹴りも覚えた今のヴィルマに、このような武器は必要ない。それに今の彼女には、新たな技がある。


「ヴィルマがカラテのおかげで強くなったのは間違いない。だが、わたしが見たいのはヴィルマのカラテ技だったんだよ。さてどうしようかと悩んでいたところで、わざわざ襲ってきてくれたこのガーゴイルには感謝だ! 後で残骸を有効活用してやろう!」


 アギーハがとっておきとして、ヴィルマに仕込んだ手技。それが、ガーゴイルの頭部を破壊してみせた一撃である。ヴィルマにすんなり飲み込ませるため、スモウの流儀に多少は合わせたものの、カラテの技であることに間違いはない。

 リキシを自称するヴィルマの一部を見事カラテ色に染めてみせた。

 ヴィルマをカラテの弟子にしたいアギーハにとって、これはなんとも嬉しい実感であった。

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