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かくして道は開かれる  作者: 藤井 三打
四章
16/30

15話 彼女の事情 彼女の理解

 彼女は自身が設計したドウジョウについてこう語る。


「あのドウジョウは、わたしの理想だ」


 彼女はドウジョウの奥にある空間についてこう語る。


「あの空間は、わたしの深淵なのさ」


               ◇


 アギーハが作り上げたカラテドウジョウの奥、隠し扉じみた扉の先にあった部屋。

 いや、出現した空間を見てヴィルマは息を呑む。

 ヴィルマの目の前に広がるのは、とにかく広く先が見えないほど深い洞窟。斜面に建っていたドウジョウは、ただ斜面に建っていたのではなく、この謎の洞窟に直結していたのだ。


「これが、わたしのすべてさ」


 先に洞窟に入っていたアギーハが、洞窟内にある灯りをつけていた。

 壁面に付けられた魔石より放たれる光が、洞窟を柔らかく照らす。

 洞窟のあちこちにある立てられた杭、動かぬゴーレム、清められた本棚。

 そして奥に延々と続く闇。灯りの先にある闇は、ただの闇よりも深い。

 この洞窟は、何処のダンジョンよりも奇怪で怪しく、踏み入れた人間を惑わせる空間であった。


「この洞窟は、どこまで……?」



 じわりと押し寄せてくる惑いを振り払うように、ヴィルマはアギーハにたずねる。

 反響する声を噛みしめるかのような間の後、アギーハは答える。


「一度、奥まで行ってみようと思ったものの、深すぎて無理だった。この洞窟を踏破し、奥の奥までわたしで埋まったら、きっとわたしは完成するのさ。先がわかる洞窟なら、住処に選ばなかったよ。それに何よりここは、没頭できる」


 この延々と続く洞窟を、自身で埋めたときに、アギーハは完成する。

 だが彼女は、完成を求めているようには見えなかった。

 完成を目指しつつ、終わりを求めない。常人なら、耐えられぬ求道である。

 アギーハは立てられた杭の前に立つと、腰を沈めカラテの構えを取る。


「オス!」


 掛け声の後、アギーハは杭めがけまっすぐにコブシを打ち始める。

 アギーハの一撃が杭を揺らし、放たれた烈の気配が洞窟の妖気を薄める。


「これがカラテの鍛錬の一つだ。とにかく打ち続け、部位を鍛える」


「ふうん……スモウのケイコにも、似たのがあったよ」


 アギーハは驚きを期待していたのだろう。素手よりも武器が好まれるこの世界では、あまり見ないタイプの痛々しい鍛錬である。

 だが、ヴィルマは、ライデンがしていたテッポウのケイコと発想は同じだと、カラテの鍛錬をあっさりと受け入れてしまった。

 アギーハは、杭に巻いてある縄めがけ、ひたすらに打ち続ける。

 大岩や大木に挑んでいたライデンに比べ、地味かも。

 そう思ってアギーハを見ていたヴィルマは、自分の目の甘さを悔いた。


「ん? どうした? スモウは、こんなことをしていなかったか?」


 ニヤリと笑うアギーハ、してやったりと言った顔をしている。

 アギーハの手は、いつの間にかコブシから平手に変わっていた。

 そして、ピンと揃えた指先で、杭を激しく何度も突いている。

 音も杭のしなりも、コブシで叩いていた時より、鮮烈になっていた。


「指、ちょっと指……ええ?」


 ヴィルマのセリフは、言葉になっていなかった。

 ケタグリを鍛えた時に、叩くことの難しさは身体で知っている。

 スネでなく、つま先で木を蹴ってしまった時の鋭い痛み、その後、じわじわと襲ってきた鈍い痛みの挟み撃ちは忘れられない。

 人の指もエルフの指も、器用ではあるものの、決して強い部位ではない。

 容易く折れてしまう痛みのある部位を、アギーハは機械的に痛め続けていた。


「人体の構造上、たしかにこれは非効率だ。だが、非効率を乗り越えた先にこそ、カラテの真髄はあるのさ。カラテを極めれば、人は凶器となる!」


 アギーハの気合を入れた突きは、硬い木の杭を指で貫通してみせた。

 その指は、自称通りの凶器である。

 あの指で人を突けば、肉や骨ごと穿ちかねない


「まあ、こんな感じだよ。平々凡々と言われるヒューマンだって、鍛えればエルフやドワーフに劣らぬ特徴を……手に入れることが……できるのさ……」


 話している最中に、どんどんか細くなっていくアギーハの口調。

 言葉同様、肉体も力を失っていき、やがて折れた杭にしなだれるくらいに力を失ってしまった。


「ちょっと……!」


 不安そうに近づこうとするヴィルマを、アギーハは手で制する。


「大丈夫だ……こんなの、いつものことさ……」


 アギーハはそう言うと、杭の脇に置いてあった宝石に手を伸ばす。

 宝石は緑色の光を放ち、アギーハの心身を癒す。

 この光は、回復魔法の光に似ている。ヴィルマはそう判断した。


「ふう、落ち着いた。なにせわたしは、生まれつき体力がなくてね。だから、こういう鍛え方しか出来ないんだ。体力の代わりに、道具を作る才能があって、本当に良かったよ」


 平静を取り戻したアギーハは、そのまま今度は蹴りの練習を始める。

 そして再び力尽きる寸前に、宝石を手にし回復する。

 回復の保証があるとはいえ、鍛錬としてもはや壊れている。


「ああ。たまに回復が間に合わないんだが、ちゃんと手は用意してある。キミは気にしなくていいよ」


「わ、わかった……」


 もはやヴィルマはアギーハに圧倒されるしかなかった。

 自らの体力の低さを嘆かず、己の才能と命を賭す覚悟で鍛錬を積む。

 これはもはや、ストイックを通り越しての狂気である。


「いったい……」


 気づけば、思わずヴィルマの口から問いかけが漏れていた。


「いったい、なんでカラテにそこまで……?」


「ん」


 アギーハは軽く返事をすると、宝石を手にしたまま、椅子代わりの石に腰掛ける。


「実はわたしはね。錬金術師としては、天才なんだ。自分で言わせてもらうが、本当に誰もが認める天才だ。だがね、誰もがわたしをこう思っていたんだ。貧弱な身体の代わりに、頭の良さを神から授かった。もっと言ってしまえば、アレで頭が良くなければ、救いようがないってことさ」


 ギリリと、アギーハの手に力が入る。これは、怒りだ。過去への怒りだ。

 だが、アギーハが怒りを向けている相手は、他人ではなかった。


「何が腹立たしいって、昔のわたしは、それを認めてしまっていたんだよ。しょうがないと、自分を諦めてしまっていた。天才だからこれで良いんだと、納得してしまっていた。そんなわたしの前に、ある日あらわれたのが、この本さ」


 アギーハは整頓された本棚から一冊の本を取り出す。

 タイトルには『カラテニュウモン』と書かれていた。

 分厚い表紙に見慣れた言語、この本はドーゼン大陸のやり方で書かれた本である。


「これは、カラテニュウモンという本を訳して書き写したものだ。原本は、ドウジョウの祭壇に飾ってある。偶然、古書の山からこの本を見つけた時、わたしはショックだった。人は素手でも、ここまでたどり着ける。なのにわたしは、自分自身をこんなものだと決めつけてしまっていた。自分が愚かだったと気づいた瞬間、わたしはカラテに惚れていた。諦めを壊してくれたカラテに自分を捧げようと、決心したんだ」


「周りの反応は、随分だったんじゃ?」


「そりゃあもう、無茶苦茶だったさ。誰も彼もがしたり顔で、わたしにはできないと決めつけてくる。だから、誰からの雑音もないここに引っ越したのさ。わたしはひたすら鍛え、さらにカラテ用のゴーレムであるマスタツを始めとする、カラテ用ゴーレムを作り上げた。まあ、まだ未完成だがね」


「未完成? アレで?」


 思わず聞き返してしまうヴィルマ。

 アレで未完成と言われたら、他のゴーレムの立場がない。

 ヴィルマは自分から見た、マスタツの優れた点を述べる。


「あんなにパワーもあって気が利いて、それに関節も柔らかいゴーレム、見たこと無いよ」


「ほう、マスタツの一番優れた部分。関節の柔軟性に気づいたのか」


 そこを見抜いたのかと、意外そうな様子を見せるアギーハ。

 ヴィルマは言葉を続ける。


「そりゃあね。あれだけの打撃、力だけのゴーレムが打ったら、反動で自壊するよ。強烈な打撃を受け止められるだけの柔らかさがないと」


「ふうむ。素晴らしい見立てだ。マスタツのパワーに目がくらみ、関節の柔らかさを見逃す専門家もいるだろうに。本当にエルフは目がいいな」


 アギーハに褒められるヴィルマ。

 ヴィルマはゴーレムの知識は無いが、自身の長い人生における経験、そしてマスタツ以上のパワーと柔軟性を持つライデンを知っていた。

 アギーハはそんな優秀なマスタツの弱点をヴィルマに語る。


「マスタツの身体は完璧だ。少なくとも、これ以上は今の所難しい。でもね、マスタツには心で足りないところがあってね。マスタツは、カラテの基本的な動きしかできないんだ。セイケンヅキと蹴りとシュトウ、あとは組むことぐらいかな。生真面目で気が使える設定にしたのはいいが、基本以上を考えられない性格になってしまった」


 言われてみれば、マスタツの動きはすべて実直であった。

 もし小型だったとしても、アギーハが見せた跳び蹴りをするイメージがない。

 感情の出来が悪い、のではなく、単に性格が向いていないのだろう。

 マスタツのそれは極端ではあるものの、人間も抱えている命題だ。

 そしてその性格には、大きなメリットもあった。


「ただその分、教科書通りを実践するには、最高峰の出来だ。ああいう実直さは、わたしが苦手としているところだからな」


 自らが作り上げた存在に負けたのが悔しいのか、ため息交じりで話すアギーハ。

 おそらく多くの人にカラテを伝える教師としては、天才を自負する破天荒なアギーハよりも、丁寧に実直に教科書通りができるマスタツのほうが向いている。

 教科書通りとは、決して頑なやつまらないといった評価で済む単語ではないのだ。


「なるほどね」


 あることに気づき、思わず声が出るヴィルマ。

 一族最強の猛者であった男が、得も知れぬスモウに邁進する。

 超一級の錬金術師が、カラテという得体の知れない道に突き進む。

 その分野にて最強や最高に手をかけていながらあっさりと捨て、スモウやカラテのような、この世界にとっての未知である“ブドウ”に人生を捧げる。

 ライデンとアギーハは、やはり生き様が似ているのだ。

 この生き様に、果たしてヴィルマは追いつけるのだろうか。


「それで、キミはどうするんだ?」


 この先、どうするのかというアギーハの問いかけ。

 まるでヴィルマの逡巡を見抜いていたかのようなタイミングである。

 ヴィルマは逆に聞き返す。


「そっちは?」


「質問を質問で返すか。答えが出ていない時の常套手段だな。わたしは簡単さ、わたしはもう一度あそこに行って、あの男にリベンジする。負けたままでいいなんて、カラテニュウモンの何処にも書いてなかったからね」


 アギーハは椅子に座ったまま、セイケンヅキを繰り出す。

 その切れの良い突きに、逡巡や悩みはまとわりついていなかった。

 アギーハは自信満々の口ぶりで話す。


「幸い。こちら側にはとっておきがある。次は奥の手をぶつけるとしよう」


「まさか、自分でやる気?」


 それはどうかと、アギーハを止めようとするヴィルマ。

 アギーハの実力はこの目で見たが、ライデンとは大きさと体力に差がありすぎる。いくらなんでも、アギーハがライデンを倒しきる未来が見通せない。


「わたしがこのまま当たるつもりはないよ。まあとにかく、とっておきがあるのさ。さあ、時間稼ぎは終わりだ。キミの答えを聞こうじゃないか」


 ずずいっと、前に乗り出すアギーハ。

 その瞳の強さと勢いは、実際の距離以上にヴィルマに詰め寄ってきていた。

 アギーハのオシダシにより、ヴィルマはドヒョウギワだ。

 ヴィルマは目をつむると、ゆっくりと答えを語り始めた。


「わたしとライデンの付き合いは、すごく短いんだよね。見かけたのはずっと昔だけど、お互いを深く知ろうとしたのはつい最近。だからきっとわたしは、このまま見捨ててもいい立場にいる」


「正論だな。しかも今は、魔王……いや、変なのに憑かれ、おかしくなっている。このまま引いても、わたしを含め、キミを不人情とののしる人間はいないだろう。それが、普通さ」


「でも、わたしは、失った人間として、自ら大事なものを捨ててみせたライデンに興味を持った。ううん、憧れなのかも知れない。とにかくわたしは、彼を知ろうとして、スモウを学んだ」


 自身の義手である左腕を、生身の右腕で抑えるヴィルマ。

 さきほどの騒動により、義手は少し曲がり薄汚れていたが、それでも掴む生身の手には、義手への愛おしさがあった。


「これ以上、わたしは逃げる気も捨てる気もない。ここで捨てたら、一生もう、酒場で飲んだくれているしか……ううん、きっともう、酒も飲めなくなるくらいに、自分が嫌になる。とにかく、もう一度、ライデンと会う」


 ヴィルマの決意を聞き、良い目をしているとアギーハはうなずく。


「そしてライデンとスモウをとって、勝つ。勝ってみせる」


 そしてヴィルマのさらなる決意を聞いたアギーハは、おもわずずっこけた。


 アギーハは慌てて、ヴィルマを止めようとする。


「待て! 野暮を言うが、ちょっと待て! キミ、わたしより無茶を言ってるぞ!」


「しょうがないよ! だってアイツ、何に憑かれたのかは知らないけど……あっさり乗っ取られるなんて、情けない! せめて一発、ハリテをぶちこんでやらなきゃ、ついてきたわたしも、スモウもバカみたいじゃない!」


「それはそうだが、そうなんだが! ああもう、面白いなあキミも! わかった! わたしが協力してやろう! ここまで来たんだ、はじめからわたしの力を借りる気だったんだろう!?」


 ヴィルマの飾りっ気なしの本音を聞いたアギーハは、嬉しそうに自身の薄い胸をどんと叩いた。薄さのせいで台無しだが、きっと任せておけというジェスチャーだ。

 ヴィルマはアギーハにたずねる。 


「そうだね。力を貸してもらえるなら助かるよ」


「ではまず聞くが、キミはケタグリだけでライデンに勝つ気か?」


「無理かな?」


「無理だろ。マスタツの蹴りに耐えたあの足をキミが何度も蹴ったら、バランスを崩すきっかけになるどころか、自分の足が砕けるぞ」


「やってみないと」


「やらなくてもわかるから。そう、無駄に前のめりになるな」


 アギーハは、唐突にヴィルマに何かを投げる。

 反射的に受け止めるヴィルマ。

 アギーハが投げたのは、アギーハが締める黒い帯と同じ形と長さを持つ、白い帯であった。小型のゴーレムであるシロオビが巻いているものと同じだ。


「キミに、カラテを教えてやろう」


「いらない。わたし、リキシだし」


 即座に白帯を投げ返すヴィルマ。

 キャッチしたアギーハは、ちょっとだけ切ない顔をする。

 だがそこで気を取り戻し、自身の意図を説明する。


「当たり前の話だが、わたしはスモウを知らない。だが、カラテは多少知っている。そして、わたしは先程、スモウを見た。見た限り、カラテの技の中にも、いくつかスモウに応用できそうな技がある。使えるものはなんでも使わないと、あの男の肉体を乗っ取ったシュンシュウとやらに一泡吹かすのは難しいだろう。なにせ、肉体がライデンなのは間違いないんだからな」


「そうだろうね。心がいくら駄目になっていても、肉体には関係ないだろうし」


「それにキミ、たぶんリキシの鍛錬法は向いてないぞ。無理に太ったとしても、それで出来上がるのは、単なる太ったエルフ。今ある俊敏性や目の良さも台無しになって、凡庸な存在になるだろう。キミの長所を伸ばして鍛えるなら、カラテしかない。これは間違いない真実だ!」


 アギーハの意見を聞き、ヴィルマは納得しつつ考え込む。

 このままでは、玉砕以下の結果になることは、ヴィルマも実は自覚していた。それに、太りにくく、骨も細いヴィルマが、ライデンのような身体に出来上がらないことも気づいている。

 だが、だからと言って、ここでカラテを学ぶのはスモウへの裏切りにも思える。ライデンのようになれないのは悩みであって、転向の理由にはならない。アギーハの協力は欲していたが、そこまで踏み込んでしまって良いのだろうか。

 悩むヴィルマに、アギーハは助け船を出す。


「何も、カラテカになれと言ってるんじゃない。カラテを学べと言っているんだ。カラテを学び、それをスモウに流用する。多くを知り、その知識で足りない部分を賄うことは、決して悪いことじゃないと思うぞ」


 そう言って、再びアギーハは白帯を差し出す。

 ヴィルマはアギーハの手ごと、その帯を握りしめた。


「力、貸してもらうから」


 ヴィルマの決意を聞き、アギーハは満面の笑みを浮かべた。


               ◇


「七たび転んで 八度起き~♪」


『嬉しそうですね』


「わかるか? そうか、わかるか!」


 鼻歌を歌いながら、マスタツを修理しているアギーハ。鼻歌も、カラテニュウモンに乗ってた歌詞らしきものに、アギーハが自己流で音程を付けた歌である。とにかく、上機嫌だ。アギーハは修理の手を休めず語り続ける。


「もともと、魔王憑きの話に首を突っ込んだのは、魔物でもなんでもいいから弟子が欲しかったからだが……多数の有象無象より、やはり才能ある一人だ!」


『もしかして、ヴィルマ様を弟子にカウントしているのですか?』


「ああ。今のアギーハはあくまでスモウに応用するためカラテを学んでいるだけだが、なに、そのままカラテに惚れさせてしまえばいい。あんな逸材をほっといてシュンシュウだかなんだかに憑かれるんだから、リキシは間が抜けてるな!」


 クハハと笑うアギーハ。

 出し抜かれたと思っていたが、出し抜いてやった。

 笑いも当然、ちょっと邪悪なものになる。


『そのかわり、魔に憑かれてますが』


「上手いこと言うじゃないか。流石、我が創作物。事態の解決と、リキシへのリベンジと、弟子の確保。どうやら、全部最高の形で叶いそうだぞ!」


 気の利いた返しをしてきたマスタツを見て、更に上機嫌になるアギーハ。

 マスタツは優秀な思考回路を持つゴーレムである。

 そんな彼は自意識過剰な主とは違い、カラテへの引き抜きなんて上手くいくのだろうかと疑っていた。


「キミの身体の修復、ヴィルマの修行……もう少し欲しいところだが、やはり十日だな。修復自体は間に合うし、彼女は基礎がしっかりしている。ここは慎重を期すよりも、迅速にことを運ぶのがいい」


『十日ですか』


「向こうも数日で我々が戻ってくるとは思ってないだろ。じゅうぶん、早いさ」


 自身の立てたスケジュールに自身を持つアギーハ。

 一方、無言ながらもマスタツは、主の立てたスケジュールに疑問を持っていた。

 城跡に突如巨城が出現した。これほど大きなニュースはないだろう。このニュースに反応した何者かの動き。そして、シュンシュウ自体の思惑により、事態は十日の余裕すらない速度で動くかも知れない。

 だが、自身の体の修復が間に合わないのも事実であり、何よりこの主の自信に水を指したくはない。よってマスタツは、自身の分析と意見を述べるのを止めた。


                ◇


 これは十日後の話であるが――

 アギーハは過信を悔やみ、マスタツは忠義の難しさを知ることになる。

 十日でも、遅すぎたのだ。

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