10話 トリクミ、拡大中
アギーハがヴィルマを案内した先は、砦跡にある鉄格子の扉の前だった。
鉄格子の先には下りの階段があり、相当下に続いている。
アギーハは明るく笑い飛ばすような声で、ヴィルマに説明する。
「あのオークたち、地下牢の鍵を持って逃げ出してしまってな。鍵開けはできなくもないが、面倒だ!」
アギーハは崖上のゴブリンの死体から拾った鍵を使い、地下牢に繋がる鉄格子を開ける。鍵を持っていたゴブリンが崖下に落下していなくて、本当に良かった。
アギーハにはマスタツという連れがいて、彼が囮になっている間に、魔王憑きに囚われた人々を救う手はずである。
ヴィルマにはライデンという連れがいるが、崖登りに失敗して離れてしまった。
崖登りをしているか、もしくは迂回路で砦跡に向かっているだろう。
向かっているというか、もう着いているのだが、いくらヴィルマでもそこまでの想像は出来なかった。
崖から砦跡に来るまでの間、二人は情報交換をおこなっていた。
この村々から人々がさらわれており、自分たちは生き残りの老婆の頼みでここまで来た。ヴィルマから事情を聞いたアギーハは、うんうんと納得する。
「なるほど、そういうことだったか」
「理由は知らなかったんだ」
「だいたい察してはいたが、最後のピースは情報で補うしか無かったからな。天才とて限度がある。理由を知らずとも、捕まっている人間を見捨てるようでは外道だ。武の道を歩きたい以上、見逃すことはできないと思ったまでだ」
初対面の人間をいきなり信用するほどお人好しではないものの、助けたいという意志は本物だろう。ヴィルマはアギーハをそう判断した。
地下牢への通路に入った二人。アギーハは小声でヴィルマに話しかけてくる。
「それにしてもスモウ。まさか、カラテと同じような、己の肉体で道を行く技があったなんてね」
当然ヴィルマは、スモウについての軽い説明もしていた。
でないと、ユカタを着た今のヴィルマの格好は、ただのファッションセンスがズレた格好でしかなくなる。アギーハも似たようなものだが。
アギーハはわかりやすいため息とともに話す。
「しかも、会話が出来て飯を食って息をする師匠がいるだなんて羨ましい。わたしには、コレしかなかった」
アギーハは懐から一冊の薄い本を取り出す。
表紙には見慣れぬ文字が大きく書かれ、その下に恐ろしく美麗な絵でアギーハと同じカラテギを着た男が描かれている。まるで現実を切り取ったかのような絵だ。
水晶玉に遠くの場所を投影させる魔術を見たことがあるが、それよりも雑味が少なく、忠実すぎるとしか言いようがない。
本の内容を説明するアギーハ。
「これは、カラテニュウモンという、わたしにとっての聖書だ。研究資料を探している最中、古本屋の古書の山でこの本を見つけたこと。これぞ、運命というやつだろう。まあ、わたしは、運命って言葉が苦手なんだが」
この本との出会いを思い出したのか、アギーハの言葉には熱が入っていた。
本をじっと見た後、ヴィルマはアギーハに質問した。
「この文字、読めるの?」
タイトルはカラテニュウモンと言われたものの、ヴィルマに表紙の文字はまったく読めなかった。二種類、いや三種類の象形文字を組み合わせたような、複雑な言語。こんな文字、今まで見たこともない。この大陸にある文字なのだろうか。
アギーハはこともなげに答える。
「文章だけなら難しかっただろうが、幸い、この本は絵も多い。絵の状況と文章を照らし合わせて法則化すれば、たいていの意味は分析できる。使えるよう正確に体系化するには、本腰を入れる必要がありそうだが、そこまで手は回らんな」
パラパラとページをめくってみせるアギーハ。
たしかにカラテニュウモンには、構えや拳の打ち方や足での蹴り方が細かすぎる絵に矢印などを加える形で描いてあり、言葉を知らずとも非常にわかりやすい。
しかし、わかりやすい注釈付きだからと言って、まったく未知の文字から意味を理解することができるとは。魔術関係は学のある職業だが、アギーハはひょっとして、その中でも優秀な部類なのだろうか。
そんなことを考えていたヴィルマが、唐突に人差し指を口に当てる。
「シッ!」
静かにしろというジェスチャー。暗かった通路の先に、こうこうとした灯りが見える。忍び足で先を覗き込める死角まで移動するヴィルマ。アギーハもつつつと猫の足取りのような足運びで静かについてきた。
アギーハとヴィルマは囁くような声で話す。
「見事な足取りだ。それもスモウの技なのか?」
「スモウの足はスリアシだからちょっと違うね。これは、いろいろやっていた時に学んだんだ。そっちもずいぶん慣れた風だけど」
「そっと歩くのも、足元を砕くのも。どちらもできるのがカラテだ」
そんなに小さな足で、そんなライデンのシコみたいなことができるのか。
アギーハの足を見て、ヴィルマはそんなことを思った。
気を取り直し、ヴィルマはじっと、灯りの元に目をやる。
灯りの正体は、広間を円状に囲む篝火であった。
二層構造の円形の広間を巡回しているゴブリン。
広間を取り囲むように配置されているのは、沢山の牢屋である。
牢屋の中には、近隣の村から集めたであろう人々が囚われていた。おそらくここが、この砦跡の牢獄だったのだろう。
「さて、どうしようか」
せっかくだからカラテの技の一つでも見せて欲しい。
そう思いヴィルマはアギーハに話しかけたものの、アギーハの面持ちは拒絶を思わせるほどの真剣さとなっていた。
「まずいな」
じっと牢の方を見ているアギーハ。
彼女の目は、魔物でも人質でもなく、広間の床に釘付けとなっていた。
アギーハの視線を追ったヴィルマも、ソレの存在に気が付きぎょっとする。
「魔法陣……それも、あれだけ大きい召喚陣だなんて」
円形の牢獄の中央に描かれた、大きな魔法陣。
魔法陣は大規模な魔術の行使に使われ、大きさを増せば増すほど、その魔術は複雑化し、効果もどんどん大きくなっていく。
アギーハは専門家らしい見立てを述べる。
「驚いたな。連中どうやら、なにかとんでもないことをするつもりらしい。もしあのサイズで破壊系なら、リッチモ王国の大半が吹き飛ぶ。召喚系なら、魔王に近しい域の魔族が呼び出せる。人々を捕らえていたのも、あの魔法陣に生贄として捧げるためか。あのサイズで生贄無しの起動は無理だ。だが、魔法陣は完全には起動していない。今、しっかり処置すれば間に合うぞ」
「あのタイプの魔法陣が生贄として求めるのは、血と肉と闘争……だよね」
ヴィルマの質問を聞き、頷くアギーハ。
「ああ。集めた人々を、あの魔法陣の上で殺し合わせるのが、もっとも手っ取り早いだろうな。普通の人々では闘争部分が足りないだろうが、なに数で補えばいい。しかし、この位置からどうやって判断した。魔法陣の文字の並びからか?」
「判断したのは、文字の並びや形、それに血の跡。伊達にエルフをやってないから。目もいいし、魔術は使えなくても、知識だけならちょっとね。というか、文字の並びだけで判断って出来るの?」
「専門外だが、わたしはできるぞ。なぜなら、天才だからな」
視界の広さによる多角的な判断で魔法陣の正体を察したヴィルマと、知識の一点突破で答えを出したアギーハ。どちらも答えを自分で出したことには変わりない。この相手と組めば、最悪の事態は避けられるかもしれない。二人とも、そう判断した。
じっと観察を続けるヴィルマが、困った様子で呟く。
「あの魔法陣に近づくには、なにかきっかけがないと……」
いくら目が良くても天才でも、魔法陣を止めるにはもっと近づくしかない。
先に人々を助けるにしても、魔物に見つかったら厄介なことになる。
元々、牢獄だっただけあって、身を隠して近づくのも難しい作りだ。
アギーハは、ハッと何かに気がつく。
「そう言えば、オークは姫騎士やエルフに並々ならぬ興味を持つと聞いたが?」
天才のひらめきは、わりとロクでもなかった。
そしてヴィルマの反応も、現実的にロクでもなかった。
「閃いたみたいな顔で、そういうこと言われても……だいたい、魔物の性欲の話を持ってきたら、そっちみたいな少女の方が受けがいいよ? エルフはわりと魔物が躊躇するんだよね。外見で年がわからないのと、老婆を抱きたくないせめぎ合いっていうか。外見で納得する魔物の方が確かに多いけど、ふと考え込むタイプも結構いるし。生殖本能がメインのタイプは、産むのが難しい老いを嫌うしね」
「ふうむ、外見が良くても、中身が老いてると思うと勃たないということか。雄とは難しいものだな。そしてだ、エルフ基準なら赤子だろうが、わたしは二十歳越えてるからな? 十代どころか、三十代の方が近いぐらいだ」
「……ほんと?」
「年齢の話を聞くと、みんな信じられないって顔をするのはなんでだろうな! だいたい、そっちは何歳なんだ。エルフは本当に年がわからないからな。その無駄に育った身体は、何年ものなんだ? ビンテージじゃないのか?」
「人を酒か漬物のように言われてもね。年齢は……ヒミツ?」
「くそう! いい女の仕草だ! わたしがそれをやると、みんな娘を見るように微笑んでくるのに!」
「……」
「ほ・ほ・え・む・な」
様子を見る間、身体を解きほぐすような話を続ける二人だが、状況に変化は無かった。身体を解きほぐす気なのだ、たぶん。
だが、変化とは、唐突に訪れるものである。
待ち望んでいた者ですら、え? となってしまうようなタイミングで訪れるのだ。
唐突に、砦全体が圧縮したような、ミシリという感覚が辺りに流れる。
牢獄で看守役を務めるゴブリンが、唐突に上を向く。
天井の真ん中にあったのは、小さなヒビであった。
ヒビはあっという間に天井全体に伝播し、即座に崩落を起こした。
「ギャァァァァァ!」
「キケーーーー!」
牢獄の魔物たちが瓦礫に飲み込まれる。ちょうど魔法陣を埋めるように瓦礫が落下したおかげで、幸いなことに外周部に囚われている人々は無事であった。
積もった瓦礫が、即座に弾けとぶ。
瓦礫の中から現れたのは、二人の巨人であった。
「どすこーい!」
『押忍!』
互いに馴染んだ掛け声を上げ、ぶつかり合うライデンとマスタツ。
マスタツのマエゲリがライデンの胸に刺さるが、ライデンは構わず組み付く。
ライデンに投げらそうになるマスタツであったが、数歩たたらを踏んだところでなんとか持ちこたえる。そんなマスタツの顔面に、ライデンのツッパリが直撃した。
何故、二人がこうも激しく争っているのかはわからない。
だがこれは、紛れもないチャンスであった。
「ハッ!」
いち早く牢獄に飛び込んだヴィルマは、慌てるゴブリンを即座に蹴り飛ばし、彼が腰につけている鍵束を奪った。
まずは、捕まっている村人たちを救出しなければならない。
鍵束を手に近くの牢に駆け寄ろうとしたヴィルマの前に、四足の獣があらわれた。
「こんなのまで……!」
思わず歯噛みするヴィルマ。この辺りの魔物の主力はオークとゴブリンだと思っていたが、まさかこんな厄介な相手まで魔王憑きが引き込んでいるとは思わなかった。
牙からぬめぬめと滴り落ちているのは、巨獣すら殺す毒である。
四肢が無くとも、その力は強大。
一度戦士に巻きつけば、鋼の鎧も筋肉も全部構わず押しつぶしてしまう。
毒持つ大蛇、バジリスク。とてつもなく長い身体を持つ大蛇が、身を持ち上げヴィルマを見下ろしていた。頭のトサカが逆立ち、喉をシュルルと鳴らしている。これはバジリスクの戦闘態勢であり、ヴィルマを獲物と見定めた証だ。
これは困った。なにせ、相手は四肢がない。当然、足も無い。
蹴るべき足も、手繰り寄せるべき手も無いのだ。
そして何より、這いずりとは、最初から地面に倒れているようなものだ。
相手を崩して倒すことを目的としたスモウの技と、これほど相性の悪い相手はそうおるまい。
「キシャァァァァ!」
鎌首をもたげ、バジリスクがヴィルマめがけ牙を突き立てようとする。
すんでのところで、ヴィルマはかわす。外れた牙は、固い石造りの床をやすやすと砕き、更に牙の毒が壊れた床をじゅくじゅくと溶かしていた。
毒の存在が、再び首を戻すバジリスクへの追撃をためらわせる。
蹴ろうと思えば蹴れたが、もし足が牙をかすめれば、ヴィルマは片手に引き続き、片足も失ってしまう。喪失への恐怖が、ヴィルマのケタグリを封じた。
「チェストォォォォ!」
「え……?」
気合の入った大声が、ヴィルマの頭上から聞こえた。
背後から、自身を何かが飛び越えたのだ。
小柄なアギーハが、ヴィルマの身長をゆうに超える大跳躍を見せていた。
その高さは、再びヴィルマを襲うため、鎌首をもたげたバジリスクの頭部の高さに届いている。
アギーハの跳び蹴りが、バジリスクの顔面をかすめる。まるでアギーハの着地に合わせたかのように、バジリスクは突如悶え、体が波打つほどに苦しみ始めた。
「バジリスクなんて……牙が折れれば……ただの太い縄のようなものだからな……まあ、動く縄だが……ゴホ……ゲホッ……」
アギーハの言う通り、バジリスクの両牙が折れていた。
アギーハは今の跳び蹴りで、バジリスクの牙を、それも二つ同時に一撃で折って見せたのだ。最初の跳躍といい、並大抵の技ではない。これが、カラテの技だとしたら、カラテもまたスモウ同様の神技を秘めている。
だが、アギーハは着地した後、力なく片膝をついていた。
彼女の声も、随分と弱弱しくなっている。
「まさか毒に!?」
慌てて駆け寄ろうとするヴィルマを、アギーハは手で制する。
「毒にはかかってない……わたしの体力が元々無いだけだ……それより、来るぞ……!」
アギーハの指摘通り、牙が折れた痛みで苦しんでいたバジリスクの尾が、ヴィルマめがけ飛んできた。避けたヴィルマと、バジリスクの目が合う。蛇の冷徹な瞳にわずかに宿るどう猛さ。冷静さと敵意が混ざった蛇は、もっとも危険な蛇だ。
「シャァァァァァ!」
唾液をまき散らし、地面を這うように頭から突っ込んでくるバジリスク。おそらくあの蛇は、足元からこちらを丸ごと飲み込む気でいる。
そして蛇のはいずりからは、翼でもない限り、逃れられない。
「構え!」
突如かけられた声に反応し、思わずヴィルマは構える。
出てきたのは、この数日で体に染み付いたケタグリのための構えであった。
「もう、相手に毒はない。遠慮なく蹴り飛ばせ!」
叫んでいるのは、アギーハであった。苦しそうな顔をしているのに、声に張りが戻っている。いや、叫ぶことに、僅かな体力を全注入しているのだ。
出会ってからたいして時間の経ってない相手であっても、これは無下にできまい。
ヴィルマの覚悟が決まった。これが彼女の、ドヒョウギワである。
「ハアッ!」
ヴィルマの右蹴りが、突っ込んできたバジリスクに当たる。
その蹴りは、バジリスクの猪突猛進を見事に止めて見せた。
「ギシャァァァァ!」
再びの痛みに吠えるバジリスク。単に蹴られたからではない。バジリスクの右目が潰れていた。動く大蛇の目を、正確に狙い撃つ。エルフならではの目の良さが、ヴィルマのケタグリには思う存分活かされていた。
ヴィルマは続いて、暴れるバジリスクの左目を狙う。蛇は目が見えなくとも、獲物を察知できる動物だが、両目を潰されればもはや痛みと違和感で動けまい。
ヴィルマは左足でバジリスクの左目を狙う。じたばた動く蛇の目を狙える視力と即座に動けるヴィルマの決断力は、弓はなくとも一流の射手同然である。
足を繰り出すヴィルマ。その狙いは、正確無比であった。
「目標でなく、目標の先を射抜け!」
唐突なアギーハの叫びを聞き、思わずヴィルマは思わず指示通りに動く。
目標を弾くのではなく、目標の先を貫く。
余計なことを言われた結果、ヴィルマはバジリスクの左目を外してしまった。
代わりに当たったのは、バジリスクの大きく開いたアゴであった。
だらんと、バジリスクの口が大開になる。
なんとヴィルマの一撃は、バジリスクのアゴをそのまま破壊していた。
蹴りの威力が、わかりやすく上がっている。
「もう一度右だ!」
ヴィルマはアギーハに言われた通り、再び右足を繰り出す。
自然と狙いは、潰れた右目となる。アギーハが言ったコツの通りに放たれたヴィルマの一撃は、バジリスクの潰れた右目を粉砕し、その先にある脳をも砕いた。
脳を破壊され、生きていられる生き物はいない。
痙攣したのち、動かなくなるバジリスク。
ヴィルマは、そんなバジリスクの死骸と、自らの足を何度も見比べている。
「それが、カラテのゲダンゲリだ。いやはや、まさかコツをちょっと言っただけで、見事にやってみせるとは。見事、見事だ!」
そんなヴィルマの肩を上機嫌で叩くアギーハ。
立ち上がっているところを見るに、どうやら体力も回復したらしい。
ヴィルマは、呆然とした様子でつぶやく。
「なんで、威力が上がったんだろう……?」
「スモウのケタグリと言ったか? 強烈な脚力があれば別だろうが、あの蹴り方は弾く蹴り方。牽制し、相手を転がす蹴り方だ。だが、カラテのゲダンゲリは、対象が直立歩行の生物ならば、そのまま足をへし折ってしまう蹴りだ! 目標の先を射抜く、つまり蹴り足の勢いを活かしたわけだな。カラテの技は、スモウと違い、相手を選ばないぞ!」
ヴィルマのつぶやいた疑問に、アギーハは上機嫌で答える。
いくらバジリスクをヴィルマが倒したとはいえ、アギーハの機嫌は少し良すぎた。
そんなアギーハの解説を話半分で聞いていたヴィルマは、ハッと自分のやるべきことを思い出す。
「そうだ、捕まっている人を助けないと」
鍵束を取り出したヴィルマは、牢に駆け寄ろうとする。
そんなヴィルマを、アギーハが止めた。
「待て待て! 今、牢から下手に出すと、村人も巻き込まれるぞ! なにせマスタツめ、興奮していて、主人たるわたしの静止も聞かないんだからな!」
ヴィルマとバジリスクが戦っている最中も、広間の中央に落下したライデンとマスタツはずっと戦い続けていた。一進一退の攻防は、まるで竜巻である。その争いに巻き込まれた、もしくは割って入ろうとしたゴブリンとオークが、次々と散っている。
「あそこまで熱くなっている以上、きっと、わたしがライデンに声をかけても止められないだろうけど……平気だと思う」
「なんでだ!」
あまりに平然と言い放つヴィルマに、アギーハは反射的に叫んだ。
だが、ヴィルマは落ち着いたまま、手近な檻を開け始めた。
カチャリと扉が開き、中に閉じ込められていた村人が恐る恐る出てくる。
ヴィルマは村人に現状を軽く説明し、一部の鍵を渡す。
一人で全部の牢を開けるより、人海戦術で開けたほうが、都合がいい。
そこまでしてから、ヴィルマはアギーハに答えた。
「だって、ライデンはリキシだから」
何の答えにもなっていない。なっていないが、その言葉には信頼と自信がある。
アギーハがヴィルマの真意を問いかけるより先に、牢から出た村人たちがアギーハに助けを求めてきた。アギーハはヴィルマへの質問を引っ込め、村人に支持を出す。
「出口はあっちだ! とにかく砦の外に出て、土地勘のあるところまで走れ!」
砦内部の大抵の敵はマスタツが片付けたはずだ。声を出したアギーハは、自然と注目を集め、村人たちも自然と寄ってくる。アギーハとヴィルマは、説得や指示を交えながら、村人たちの避難誘導に専念することとなった。
アギーハはなにも分らぬまま、ヴィルマとライデンとスモウに信頼を預けるほかなかった。そして同時に、自身の創作物とカラテの勝利を願った。




