episode.06
「え?宮廷魔術師ってそんな事までするの?」
「新薬を作り出すのは大体が魔術師なので、治験も積極的にやるんです。でも国王が信頼を置いている討伐隊にも協力してもらう時もあります」
イレイナとは1ヶ月の間に何度か食事に出掛けたりして、親しくなるのは難しいことでは無かった。恋敵と言うには烏滸がましいし、何より良い子!
王宮に仕えているくせにたまにちょっと田舎臭さが出るところがまた憎めない。性格の裏表もないし、心が真っ白い。
………知ってたけど。
イレイナはベルティーナの1歳年下だと言うことも分かり、姉御肌気質なベルティーナとしても接しやすかった。
「治験って、危なくない?」
「新しい薬なのでどうしても情報が足りないですからね。でも折角作っても使えなければ意味がないので」
「それはそう、だけど」
「万が一に備えて、治験の際には魔術師と医師がつくのであまり問題は無いですよ」
「……想像できない」
怪獣討伐に必要不可欠な回復薬や解毒剤も、こうした治験が繰り返されて世に出回っていると思うと、イレイナはすごい世界で生きているなと感心する。
「そういえば、ロップはあと2ヶ月くらいで渡せると思うわ」
「2ヶ月ですか!楽しみです」
「元々体は成長していたし、戦闘を教えない分、巣立ちも早いの。あとは実際に怪獣討伐に何度か参加して、立ち回りを覚えさせたら終わりよ」
「ベルティーナさんが連れて行くんですか?」
「私が育ててるからね」
イレイナは食事をしていた手を止めると、真剣な面持ちでまじまじとベルティーナを見た。
「討伐に参加するって、危なくないですか?」
「まあでも、ついて行くだけで討伐はしないし。私も護身用に武器を持って行くから大丈夫よ」
「それはそうかも、しれませんけど」
「それに、今回はサーガン討伐隊に同伴させてもらえる事になってるから、あまり問題ないわ」
「討伐に同伴……想像できません」
険しい顔のまま料理を口に運んだイレイナがなぜかちょっとおかしくてベルティーナは笑みをこぼした。
「王宮に仕えてると、王子と会ったりするの?」
「はっ!聞いてくださいベルティーナさん!!」
第一王子、フィリオ・ゾルジー。勿論イレイナと何かしら関わりを持っているだろう事は知っている。フィリオ王子も攻略対象者で、キャラクター人気投票1位(解せぬ)だし。
それはそうとすごい勢いのイレイナにベルティーナはちょっと気圧されした。
「な、なに…?」
「私もう、王子と会うのは緊張しちゃってどうしたらいいか。だって王子ですよ?私なんてちょっと前まで田舎で土にまみれてた芋女なのに」
「それはちょっと、卑下しすぎじゃ?」
「いいえ!相手はこの国の王子ですよ!隣に並ぶと自分の芋さ加減に嫌気が差します」
いじけるようなイレイナが可愛らしくて思わずププッと笑ったベルティーナに「笑い事じゃないんですよ〜」とイレイナは更に項垂れた。
「王子に何か言われたの?」
「いいえ、何も」
「ならそのままでいたら良いじゃない」
「………アルミロ様とおんなじ事言うんですね」
ベルティーナはニコッと微笑んだ。これに関しては良い加減に慣れなければいけない。
「きっとみんな同じ事を言うわ」
「芋のままですか?」
「あなたは芋じゃないって言ってるのよ」
何せ、あのアルミロが惚れるんですからね。
「私はベルティーナさんみたいになりたいです」
「…私?」
「堂々としてて、綺麗でかっこいい女性になりたかったんです。でも私はどこに行っても子供みたいだって言われて」
「可愛いじゃない。私はイレイナみたいになりたかったわ」
自分の事は嫌いでは無いけれど、やはりヒロインでは無いので恋も叶わない。イレイナが羨ましく無いわけがない。
だってあのアルミロと一緒にいられるのだから。
そんな事を強請ってもどうしようもない。ベルティーナはベルティーナだし、イレイナはイレイナなのだ。与えられた環境で上手く生きて行くしか無い。
ベルティーナはアルミロの事は諦めて、獣達と共に生きていく。真面目に生きていればまた良い出会いがあるかも知れないし。
「ないものねだりね」
「確かに。あ、討伐気をつけてくださいね」
「ついていくだけだってば」
「あのでっかいの、いつ何時襲ってくるか分かりませんからね!私は本当あの時は死んだと思いましたよ」
「そうね、あなたはあれの怖さを知っているものね。分かった、十分に気をつけるわ」
「もしも万が一があったら私が治します!」
「それは心強いわ」
イレイナはやはり憎めない良い子だ。性格も能力もアルミロにぴったり。
華奢な腕で力こぶを作る真似事をして見せるイレイナを心強く、可愛らしく思いながらベルティーナはアルミロへの想いを隠し通した。