episode.04
イレイナは深呼吸をしながら、顔に集まった熱を冷まそうと手でパタパタと仰いでいる。
「あの、対話を望んだ理由を聞いても良いですか?」
折角熱も治まってきたところに悪いとは思うのだが、こんな依頼は初めてだったのでどうしても理由が気になってしまった。
イレイナはもじもじしながらも話してくれるようだ。
「と、友達が…ほしくて」
「…友達?」
「気軽に何でも話せる友達がいないので…それで…」
「アルミロ様は?」
「ア、アルミロ様はちょっと、違う…と言うか……」
なるほど。アルミロは友達じゃなくて恋人ってか。ちくしょう、羨ましい。
だがイレイナの気持ちも分からなくはない。ベルティーナもよく従獣に話しかけているし、人間よりも獣達と話している時間の方が長い。一方的に話しかけているだけだけど。
それでも十分に気は休まるし、鳥獣は正直いつも何考えてるか分からないけれど、四足獣だったら案外感情豊かで表情でそれが分かったりする。
簡単な物資の運搬なら、鳥獣の方が向いていると思うしゲームの中でも確か鳥獣を使っていたと思うけれど、この場合は…
「四足獣を手配しましょうか。彼らは表情が豊かなので、喋りはしませんけど声をかけると結構色んな反応をしてくれます。鳥獣は物を運ぶのは早いですけど、何考えてるか分からないので」
ベルティーナは先刻からリビングに設置された止まり木に止まってボケーっとこちらを見ている鳥獣、ククを指差した。
「私はあまり詳しくないので、最初からベルティーナさんにお任せしたいと思っていました」
「あまり小型だと物を運ぶには不向きなので。ではちょっと見に行きましょうか」
「…見に?」
首を傾げるイレイナを引き連れてベルティーナは一度家を出た。裏に回って指笛を吹くと、どこからともなく3匹の従獣が駆けてきて、ベルティーナの前でお利口に立ち止まった。
「この子達は主に私が育てています。気に入る子がいればその子を育てますよ。いなかったら従獣を探すところからになるので時間がかかります」
「……大きい…」
「噛まないので安心してください。触っても良いですよ?」
シシィ、クイナ、ロップ
イレイナは獣が怖いという感情は無いらしく、ベルティーナの後に続くようにそれぞれを撫でるとすぐに決めた。
「じゃあ、この子を…」
「かしこまりました」
選ばれたのは全身がグレーの毛並みのロップ。確かに3匹の中で1番穏やかで聞き上手かもしれない。見る目がある。
「宮廷魔術師なんて気苦労も多いでしょうけど、この子達は良い理解者になってくれますよ。言葉は話しませんけどね」
「はい。ありがとうござい、ま……?私、宮廷魔術師だって言いましたっけ?」
「!?」
言わなかったっけ!?どうだったろうかと記憶を探っても定かでは無い。言われていないような気もする。
「か、格好が、ほら!」
イレイナは上物のローブを羽織っている。ローブ=魔術師って感じがするし、胸には王国のマークもついてるし、何とかこれで誤魔化されて貰えないだろうかとベルティーナは冷や汗を滲ませた。
まさか前世の記憶があって、あなたはゲームのヒロインですなんて言えるはずがない。言ったら最後、変人としてアルミロにまで伝わって信頼を失うどころか冷ややかな目を向けられるに決まっている。
ベルティーナが身震いしていると、イレイナはふんわりと笑った。
「ああ、確かにこの格好だと、分かりますよね」
「はい!分かります!!」
食い気味で返事をしてしまったけれど、イレイナは特に怪しんではいないようだった。助かったと胸を撫で下ろしたベルティーナだったが、またイレイナがもじもじし始めたのを見て、また何かやらかしたかと思考するも心当たりは無い。
「ベ、ベル、ベルティーナさん!」
「はい?」
「あのっ…と、友達になって貰えませんか?」
「はい?」
「私、田舎から出てきたんですけど、道中で怪獣に襲われて、助けてもらった時に魔術が使えるようになっちゃって、それで流れで宮廷から住む場所と仕事を貰えるようになったんですけど、友達は貰えなくて」
全部知ってますけど、そもそも友達は貰うものじゃないでしょう。天然か。
ベルティーナは心の中で突っ込んだ。
ゲーム展開にこんな流れは無かったはずだけど、描かれていなかっただけだろうか…。
それにしても何たる……だって、イレイナはアルミロの未来の恋人だし。という事はあーんな事やこーんな事をするって事だし。恋愛相談なんてされた日には正気でいられる自信が無い。
が、この潤んだ瞳を向けられて、断れるはずもない。この人たらしの顔こそ、ヒロインたる所以か…。
「良いですよ」
「本当ですか!?」
「イレイナさんが、私でいいなら」
「嬉しいです!!アルミロ様も、ベルティーナさんはとても親切で良い人だと言っていて……嬉しいです!」
私も嬉しいです。アルミロ様が私の事をそんな風に評価してくださっているのを知れて。未来の恋人から聞かされたけど。
「食事でも行きますか?美味しいところ、案内しますよ」
「良いんですか!?」
自分のこの面倒見体質も困ったものだ。従獣達と歳の離れた弟の世話に明け暮れていたらこんな性格に…。
「はい。都合がいい時があれば」
「ら、来週でも?」
「私は自営業なので、比較的自由です。街の工房に来てもらえれば…場所分かります?」
「アルミロ様に聞いておきます!」
「………そうしてください」
下手でも何でも、笑みを浮かべられた自分を褒めたかった。