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episode.03



ベルティーナは生まれ育った環境が環境なだけに少々お転婆な子供だった。


まだ体重が軽かった頃は腕力も弱くて、よく四足獣の背中から振り落とされて泣いていたかと思えば、両手で1匹ずつ鳥獣の脚を掴んで空を飛べないか試そうとしてそのまま引きずられて泣いていた。


そりゃあ逞しくもなる。


いまでもベルティーナは四足獣に跨って草原を駆け回るのが好きだし、空が飛べないならと代わりに木に登って鳥獣達の目線を楽しむ事もある。


ベルティーナは1番に手をかけて育てている四足獣のシシィと共に木陰に寝そべって思い馳せる。


この世界の、あの物語のヒロインは自分とは真逆のような人だ。髪は輝くブロンド、華奢な手足、洋服はいつも女性らしくスカートだったし顔立ちも幼くて可愛らしい。


突如目覚めた癒しの力は魔術の一種だが、その力は強力で多くの隊士達の傷を癒すことになる。


ヒロインと結ばれる事は死から遠ざかる事を意味する。ベルティーナは直接的にアルミロの力になれる事はない。だからアルミロがヒロインと結ばれる事は良い事だ。


「いいに決まっているわ」


シシィを撫でながら自分に言い聞かせると、ベルティーナは勢いよく起き上がった。くよくよしているのは自分らしくない。影ながらアルミロを、彼らを支えていくと決めたばかりだ。


「帰ろっか」


キュンキュンと喉を鳴らすシシィをひと撫でして、ベルティーナはその背中に跨り、颯爽と走らせた。獣達と同じ景色を見て、同じ風を浴びるのがベルティーナは好きだ。


高低差は無いけれど言うならば、ジェットコースターだ。


あっという間に住居に近づき、シシィがスピードを緩めたところで、ベルティーナも慣れた足取りで飛び降りる。そのままシシィはまたどこかへ駆けて行った。


家に入ろうと玄関を目指して角を曲がったベルティーナは、玄関扉の前を誰かが立ち塞いでいる事に気づいた。


ローブに身を包みフードを被っていて、後ろ姿では男か女かも分からないが、そのローブが上等なものだと言うのはよく分かる。


「あの…?」

「ひっ!」


ベルティーナが声をかけるとその人はちょっと大袈裟にビクついて、こちらを振り返った。


フードの隙間から見えたブロンドの髪とあの顔を見て、今度はベルティーナが驚愕して目を見開いた。


イレイナ・ランディ…!?


初めて会うのに、顔も名前も知っている。この世界のあの物語の主人公。


何でこんなところに?とベルティーナは眉を顰めた。


「うちに何か、ご用でしょうか?」

「はっ!?あ、あああの、あのっ!」

「…はい?」

「イレイナ・ランディと申します!ベルティーナさんという方にお会いしたくて…来たのですが」

「……ベルティーナは、私ですけど」


本当に何の用なんだと思いつつ、立ち話もなんだしと思ってリビングに招き入れた。


工房では無くてわざわざ家を訪ねてくるなんて、珍しい人だ。


「それで、用というのは…?」

「実はその…物資の運搬用の従獣を飼おうかと思っていて、知人に相談したら腕の良い育手がいると教えてもらって」


ああ、そう言えばイレイナは宮廷所属の魔術師になって、途中から自分が欲しい物資を運んでもらう従獣を討伐に向かう隊士達に預けるんだったよな。


討伐隊には色々なツテが出来るから、快く引き受けてもらえるんだよなぁ…そんなのは今はどうでも良いか。


「腕の良いって、私ですか?」

「はい!」

「誰がそんな事…」

「アルミロ・パトローニと言う方なのですが、ご存知ですか?」

「!?」


アルミロ!?アルミロ様が私を!?本当に!?


ベルティーナは何とか興奮を抑えて口を開く。


「ええ。サーガン討伐隊には、ご贔屓にしてもらっていて」


だめだ!声が震えた。喉がパサパサに渇いて、ベルティーナはグラスに注いでいたお茶を一気に飲み干した。


「そうでしたか!それで、アルミロ様がここの従獣は優秀だし、私とベルティーナさんは歳も近いだろうから、頼んでみると良いと言われて来たんです」

「アルミロ様が、そんな事を…」


………いや待てよ?私を推薦してくれたのはこの上なく嬉しいのだけれど、アルミロとイレイナがそういう話をする仲だと言うわけで、つまりやはり、イレイナはアルミロを攻略中か。


なるほど。知人とか言っておきながら実はもうちょっと深い関係まで進んでいると。なるほど。羨ましいけど、致し方ない。


ベルティーナは思考を切り替えるべく、大きめの咳払いをした。


「それで、どんな従獣がお望みですか?スピード重視とか、物資を運ぶなら力の強い大型とか?」

「あの、喋れる従獣はいますか?」

「…………………はい?」


何言ってんだお前、とベルティーナは瞬きを数回繰り返した。そんなのいるはずがない。確かに従獣は頭が良いし人間の言葉を理解するけれど、文字通り彼らは獣なわけで、言葉は話さない。どんな訓練を受けさせたって、絶対に話さない。


ベルティーナの反応でそれを悟ったらしいイレイナはバタバタと慌て始めていた。


「あ!す、すみません!変な事を言ってしまって!いませんよね、そんな従獣……あはは」

「残念ながら…。会話が出来なくても、薬草とか食材とか採って持って帰って来ることは出来ますけど」

「十分です!さっきのは、気にしないでください」


イレイナはグラスのお茶を一気に飲み干した。




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