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episode.29



ベルティーナがこの世界のあの物語の主人公では無いと気づいたのはいつだっただろうか。それが無くとも、ずっと前からアルミロに相応しいのは自分では無いと、この恋心を悟られないように自分を律してきた。


その心はここでもアルミロの言葉を否定しようとしている。


信じられないのだ。アルミロが、自分のことを好きだなんて。


ベルティーナは魔術は使えない。狩りが出来るほど強くも無い。スカートは似合わないし手は傷だらけ。顔も平凡でイレイナのような可愛らしさもブロンドの髪も持ち合わせていない。


それに引き換えアルミロは名高い討伐隊の副隊長を務める実力と、顔も体格も極めて優れている。あまり笑わないので感情が読みづらい事も多いが、その分笑った時の破壊力はきっと獰猛な怪獣(モンスター)ですら惚れる。


どう考えてもミスマッチ。信じられない。


「怒っていたんじゃ…?」

「危険な真似をした事は怒っている。あの時は本当に生きた心地がしなかった。討伐なんてそっちのけで、お前を守ろうと必死だった」

「そん、なに…私の事を…?」

「俺は常にお前の事を気にかけて立ち回っている。何かあった時はすぐに助けられるようにしていた」


討伐に同伴しても、ベルティーナとアルミロは比較的離れたところにいる事が多い。アルミロは最前線にいて、ベルティーナは最後部にいるのだから当たり前だ。


最後部からは隊士たちの動きの全容が良く見える。その中でもベルティーナは特にアルミロを意識して見ていた。不謹慎かもしれないが、見惚れていたとも言える。


だが、最前線で、狩りの最中でもベルティーナの事を視界に入れていたアルミロの技量は計り知れない。


「お前は射撃の腕が良いからな。助けなど必要無いとどこか油断していた。まさか、あんな事をするとは思ってもいなかった」

「あ、あの時は、時間稼ぎくらいなら…出来るんじゃないかと、必死で………」


アルミロを助けたい一心だった。その後に自分が危険な目に遭う事など考えている余裕はなかったのだ。実際、アルミロがいなければベルティーナは今頃どうなっていたか分からない。もちろん反省はしているが、アルミロを守りたかったという根底は覆らない。


「私も、守りたかったんです…」

「その気持ちは感謝する。だがお前が危険を犯してまで、隊士の事を守ろうとしなくていい」

「それは!…ち、違います!」

「?」


アルミロの解釈は少し違う。食い気味で異議を唱えるベルティーナにアルミロは眉を顰めた。


「違います。私は、アルミロ様だったから…守りたかったんです」

「…………」

「好きな人…だったから……助けたかったんです…」


長年誰にも告げずひた隠しにして来た想いを、それも本人に向かって言葉にするのがこれほど恥ずかしく緊張する事だと初めて知った。


嫌われたかもしれないと涙していたベルティーナを見て、悪いとは思いつつほんの僅かに期待していたアルミロは、耳まで赤く染めて俯く彼女に触れないなど無理な話だった。


「わっ…」

「好きだ」


抱きしめられ、耳元で呟かれると鳥肌が立つ。


「雨の日に伝えたのは失敗だった」

「……?」

「帰さなくていい理由があるのは、俺にとって都合が良い」

「え?……わっ!?」


アルミロは軽々とベルティーナを抱き上げた。体がふわりと宙に浮いたベルティーナは咄嗟にアルミロにしがみついてしまったものの、落とされるのではないかという不安は全く感じない程しっかりと支えられている。


数歩移動したアルミロは、自室に備えてあるベットにそっとベルティーナを下ろし、そのままキスをし……そうになってすんでのところでピタリと止まった。


どういう拷問ですか!?とベルティーナは指先を動かす事もままならず、瞬きも忘れてアルミロを見上げていた。


「心臓の音、俺かと思っていた…」


ぽつりと呟かれた言葉に、ベルティーナは益々赤面した。つまりは、この心臓の音は俺じゃ無くてお前だな、と言われているのだ。


空気を振動させるほどにドッドッと鳴るベルティーナの心音はアルミロにも伝わっていた。


「可愛いな」

「!?なっ……!!!」


その一言は破壊力が高すぎて、破裂寸前のベルティーナの心臓に更に負荷をかけた。


「好きだ」


もう分かった!分かったからこれ以上は勘弁して!とベルティーナはぎゅっと目を瞑る。


生き物は、生を受けたその瞬間に、生涯でその心臓が鼓動する回数を神が定めてしまうらしい。ベルティーナの心臓があと何回鼓動すれば止まってしまうのかは知る由もないが、その話が本当ならば、このままでは早死にしてしまうのは確かだ。


間近にあるアルミロの良すぎる顔面に耐えられなくなって目を瞑ったベルティーナだったが、アルミロにはキスを承諾しているようにしか見えなかった。


触れるだけ、今日は触れるだけだと何度も何度も、暗示の如く言い聞かせてから触れた。でなければ本当に帰してやれなくなる。


雨はまだ降り続けている。この日は名誉ある男の忍耐力が試される1日となった。




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