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episode.27



怒っている、と誰がどう見てもそう判断できる。


そんなアルミロの背後ではドシンと大型の怪獣が生きる力を失い地面に横たわっていた。やいやいと歓声が聞こえる中、ベルティーナの周りはやけに静かだった。


「セルジョ、向こうと合流しろ」

「っ!はいっ」


遅れてやって来たセルジョにアルミロは手短に指示を出し撤退させた。地べたに座り込むベルティーナを抱き上げたアルミロは、近くにあった木陰まで移動してベルティーナを下ろした。


「逃げろと言わなかったか?」

「…す、すみません」

「口を開けろ。回復薬だ」


そう言われて初めて、手足の傷に気づいた。それ程の衝撃とは思わなかったが、シシィから降りた時についたらしい。


小瓶を受け取って自分で飲みたかったのだが、ベルティーナの両手はガタガタと震えて使い物にならなそうだった。ベルティーナが口を開けて僅かに上を向くと、苦い液体が入ってきて顔を歪ませながら何とか飲み込んだ。


「セルジョの事は責めないで下さい。私が勝手に動いたんです」

「お前に勝手を許した覚えは無い」

「申し訳…ありません……」

「この程度の怪我で済んだのは奇跡だ。なぜこんな真似をした?」

「アルミロ様を…守り、たくて…」

「俺を守る…?」


何を言っているんだと思われて当たり前だ。まともに狩りも出来ない小娘が、優秀な腕を持つアルミロを守りたいなどお門違いも甚だしい。


それでもベルティーナはアルミロを守りたかったし、実際あの弾丸によってベルティーナを危険に晒す事を引き換えにアルミロは助けられた。


「俺のためにあんな無茶をしたのか?」

「気づいたら、体が勝手に動いてて…」

「………」

「差し出がましい事をしたのは、わ、分かっています。でも、何か力に…なれないかと、思っーー!?!?」


ベルティーナの主張を聞き終える前に、アルミロは彼女の唇を塞ぎ、紡がれる言葉を飲み込んだ。


ドキンと心臓が大きく鼓動し、ベルティーナは何が起きたのか理解が追いつかない。ただ唇に感じる柔らかな感触と、匂いと、見えない程に間近にあるアルミロの顔に、呼吸も忘れて目を見開いていた。


数秒で一度離れたアルミロは、今度はベルティーナを抱きしめるように引き寄せた。


「……こんなに震えて」


少し強めの力加減は、もう大丈夫だと言われているようで、ベルティーナの震えも徐々に治ってきている。というかそれどころでは無い。


「アルミロ様…?」

「良く覚えておくんだ、ベルティーナ。俺は討伐隊の隊士だ。この命をかける事で名誉を手にしている。危険は承知の上だ。怪我はおろか、死さえも仕方が無い事だってある。全て、覚悟の上だ。だがお前は違う」


アルミロの、そんな覚悟が聞けるとは思っていなかったベルティーナは思わず息を飲んだ。


「お前が危険に晒される必要は無いんだ」

「それでも私は、仕方ないなんて思えません…」


ぐっと抱きしめる腕に力がこもって、ぴったりくっついていた体が更に引き寄せられる。アルミロが今、どんな顔をしているのかは分からない。


「どんな理由でも、次に勝手な真似をしたら今後お前には二度と依頼をしない」

「…ごめん、なさい………」

「無事でよかった」


心の底から安堵したようなアルミロの声が頭に響く。それほどにベルティーナがとった行動は危険な事だった。


しばらくして体の震えが完全に収まると、ベルティーナはその力強い腕から解放され、有無を言わさずシシィに乗せられた。


「あの…」

「悪い。セルジョを連れてくる。ここで待っていろ」

「えっ、あっ………」


颯爽と駆けて行ってしまうアルミロの後ろ姿を見て、ベルティーナは今更恥ずかしくなってきていた。一緒に帰れるわけでは無いのかと僅かに落胆する気持ちもあるが、今はその方がいいかもしれないとも思う。


「ベルさーん!大丈夫でしたか?酷く怒られたりとか…」


すぐにやって来たセルジョにベルティーナは首を振った。


「う、ううん、大丈夫。勝手な事をしたのは私だし、セルジョにも迷惑をかけて、ごめんなさい」

「俺の事は気にしなくていいっすよ。……顔赤いっすね、何かありました?」

「へっ!?い、いや、何も?」


咄嗟に嘘をついたベルティーナだったが、どっと全身に汗が吹き出した。赤いと指摘された顔は余計に赤くなっているかもしれない。


だって、アルミロとキッ………!!!


「そっすか?」

「う、うん」

「じゃあ…帰りましょうか?」


ベルティーナはコクコクと頷いてセルジョに続いた。





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