episode.24
「嬢ちゃん、今日飯食って行かねえか?」
「…え?」
「良い肉が手に入ったんだ。みんなで焼いて食おうって話しててな。嬢ちゃんさえよければご馳走させてくれ」
「い、良いんですか?」
「もちろんだ。うちは男所帯だからな。嬢ちゃんがいた方が華があっていいだろ?」
同伴終わりにマウロに誘われ、果たして自分が華となれるかどうかは不明だが、良い肉というパワーワードを前に、その好意には甘えようかとベルティーナの心が揺らぐ。
「良いじゃ無いっすか!」
「こりゃあ酒も美味くなるぜ」
ベルティーナが答えを出す前に既に食べていくことが決定したような雰囲気に呑まれてしまう事にした。
「じゃあ…いただきます」
「あぁ、遠慮はいらねぇぜ?ちょっと酒を注いでくれりゃあな」
「ふふ。それはもちろん」
今日は元々そう言う予定だったようで、屋敷の庭は既にガヤガヤと騒がしい。討伐に出なかった居残り組が準備を進めていたようだ。
お祭りみたいだなぁと楽しそうにその様子を眺めていたベルティーナの背後から近づいたアルミロは、隣に並ぶと歩みを止めた。
「疲れてないか?」
「大丈夫です!お気遣いありがとうございます」
「マウロの話は気にするな。酌なんてしてやらなくて良い」
「いえいえ!それくらいは!アルミロ様も飲みますよね?お注ぎしますよ!」
他のやつには構わなくて良いと思うアルミロだが、ベルティーナのお酌は自分で思っていたよりも魅力的だと言う事に今更気づいた。
「………少しで良い」
「はい!」
伏せ目がちのベルティーナを見下ろして、やはり良いものだなと思っていると、あちらこちらから「嬢ちゃんこっちも!」なんて声が飛び交い、アルミロは短くため息をついた。
ベルティーナはお世話になっているお礼も兼ねて、隊士達一人一人にお酒を注いで歩いた。空腹でお酒を飲んだ事もあってか、そうしている間に隊士達の酔いは早めに回っているようだった。
「ベルさん、最近どうなんすか?」
「え?何が?」
「男っすよー。出来たんすか?まだなら俺と付き合いましょうよ〜」
「ふふっ」
「俺、本気っすよ」
ベルティーナは酔っ払いの相手には少々自信がある。師範が毎日のように酔っ払うからである。サーガン討伐隊隊士のセルジョはどうやら下戸のようで、誰よりも先に出来上がっていた。やめとけやめとけと野次が飛んでいる。
「どれくらい本気?」
「めちゃくちゃ本気っす」
こいつは酔うと男でも口説きにいくぜ、と他の隊士達が面白そうに伝えてくる。ベルティーナも本気だとは思っていないが雰囲気に合わせてノってみている。
「そういえばこの前知り合いが、セルジョの事かっこいいって言ってたわよ」
「え!?本当っすか!紹介してくださいよ〜」
「あれ?セルジョ、私と本気で付き合いたいんじゃなかったのね」
「ぶはっ!!やられたなぁセルジョ!!」
近くで見ていたマウロが吹き出したのを見て、他の隊士達も釣られるように高笑いが響く。賑やかで平和的な時間だ。
「ベルお嬢さん!ちょっとおいでなさいな」
ビアンカに呼ばれたベルティーナは一度酒瓶を置いて、良い香りがする炭火台に誘われる。
「さぁさ、たくさん食べてちょうだい」
「わあ!美味しそうです!」
「男どもの相手ばかりしていたらあっという間になくなってしまいますよ。はい、お皿持って」
ビアンカに言われるがまま手渡されたお皿を持って構えていると、どんどんどんどん焼けたお肉が放り込まれていく。
「はい、野菜も食べてちょうだい」
「わわっ!こんなにたくさん!」
「おかわりもどうぞ」
おかわりどころか完食できる自信がない程にどっさりのお肉と野菜達。絶対に食べきれないと見切りをつけたベルティーナは辺りを見渡して、そして見つけた。
「これ、今焼けたのを貰って来たんですけど、一緒にどうですか?1人じゃちょっと多いので」
「…そうか。まあ、座るといい」
「お邪魔します」
ベルティーナが見つけたのはマウロ率いるガヤガヤ組では無く、アルミロ率いるしっぽり組のテーブルだ。ガヤガヤ組にはある程度食べ物も行き渡りつつあるので、こっちならまだみんなお腹に空きがあるだろうと足を運んだのだ。
案の定、ちみちみは食べているようだが屈強な男たちがたったこれだけでお腹いっぱいになるはずもない、程度だった。
隊士の1人が取り皿と飲み物を取りに席を立とうとしたので、自分が行くと言ったベルティーナだったが、結局その役目は任せてもらえなかった。
「お話の邪魔でしたか?」
「いや、マウロがうるさいと話していただけだ。問題ない」
「あとセルジョもな!お嬢ちゃん、絡まれてたろ?大丈夫だったか?」
「はい、本気で付き合いたいと口説かれちゃいました」
ニコニコと隊士達に受け答えをするベルティーナの横で、アルミロは流し込んでいたアルコールがあらぬところへと入り込み、ケフッと咽せた。




