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episode.23



イレイナがアルミロルートを選択していないという事実は、ベルティーナの今後の人生が大きく変化する事を指すと言っても過言ではない。


アルミロと結ばれたいなんてそんな烏滸がましい事を言うつもりは無いけれど、これからは推しを推す事を、癒される事を遠慮しなくても良いという事だ。


何秒盗み見たって罪悪感を抱かなくても良いという事だ。


「なんて素敵な世界…」


イレイナの事を散々羨ましいと思っていたけれど、今1番に羨ましいと思う相手はシシィになった。シシィは訓練が終わったらアルミロを支える従獣になる。


この背にアルミロを乗せ、頑張ったら撫でてくれるのだろう。


「このー!幸せ者めっ!!!」


裏庭でベルティーナがシシィをわしゃわしゃと撫で回すと、遊んでいると思ったのか、シシィもバタバタと尻尾を振った。聴覚も嗅覚も人間より格段に優れているシシィが何かに気づいて顔を上げたのを合図に、ベルティーナもその存在に気づく。


わっ…えっ……ア、アルミロ様だ!!


いざその姿を見るとどうして良いのか戸惑う。イレイナがアルミロの事を好きじゃないとは言え、その逆がどうかは分からない。今までどうやって接していたか思い出しているうちにアルミロはどんどん近づいてくる。


「こっ、こんにちはアルミロ様。何か御用で?」

「近くを通りかかったから寄ったんだ」

「そうでしたか」


シシィの様子を見に来たんだろうなとベルティーナは察した。


「訓練は滞りないのでもうすぐ討伐に同伴させてもらうつもりです」

「ああ」

「その際にはまたお世話になります」

「ああ」

「あ!メイメイの体調もおかげさまで順調です」

「そうか」

「………」


あ、あれ…?全然話続かないな。いつもどうしていたっけ?


ベルティーナが次の話題を探していると、アルミロはスッと屈んでシシィの頭を撫でた。


「イレイナとは何も無い」

「へっ!?」


急に何の話かとベルティーナはアルミロに視線を向けるも、アルミロはシシィの顔を覗き込んでいて目は合わない。ただ表情も声もいつも通りに淡々としている。


「イレイナと俺が恋仲だと噂になっているらしいが、そんな事実は無い」


実際には噂になどなっていない。ベルティーナが1人で勝手に思い込んでいただけなのだが、イレイナがそういうふうに伝えたのだろう。


「あ、ああ!イレイナから聞きました!いや、私もてっきりそうなんだとばかり思っていたので、驚きました」

「そんな要素がどこにあるんだ」

「あ、ははは…」


そういう未来があったかもしれないんですよ!イレイナの気持ち次第で!!何ったって攻略対象者ですからね!!!


と途切れ途切れの前世の記憶を語ってやりたいのだが、信憑性などまるで無いし、変人だと思われたくないので笑って誤魔化した。


「妙な誤解は訂正してくれ」

「そ、それははい、もちろん!……と言うか、それを言いにわざわざ?」

「……加工屋に用があったんだ。帰りに良いパイが手に入ったから差し入れに持って来た。食べないか?」

「良いんですか!?」


昼にはまだ少し早いがちょうどお腹が空いていた。遠慮も無く顔がにやけてしまったのが今更恥ずかしいのだが、アルミロに促されるまま隣に腰を下ろしてしまった。


草原に何も敷かずに抵抗なく座る女をアルミロはどう思うだろうか。好みの女性はもっと淑やかで女性らしい人だろうか。それとも無邪気な可愛らしさを兼ね備えた小柄な人だろうか。


イレイナは、アルミロには想い人がいると言っていた。どんな人なのだろうか…。


「………嫌いだったか?」

「えっ?」

「苦手なら無理する事は無い」

「え、いや!違います!いただきます」


ベルティーナは余計な事を考えるのはやめて、香りに釣られるように貰ったミートパイを口に運んだ。


「ん!美味しいです!」

「そうか」


ベルティーナがモグモグと頬張るのを見てアルミロも満足そうにしながらそれを頬張る。


「わざわざありがとうございます。お時間は大丈夫なのですか?」

「問題ない。1番暇だったからマウロに使いを頼まれたんだ。俺の方こそ急に訪ねて悪かったな」

「いえ!アルミロ様に会えるのは嬉しいですし、私は比較的自由が利きますので、シシィの事が気になるようでしたらいつでもいらしてください」

「…俺に会えるのは、嬉しいのか?」

「………あ…あ、えっと…変な意味では無いですけど!」


イケメンを拝ませて頂けるのは眼福ですからね。


こう言う事を変な意味と言うのだろうけれど残念ながら人間はテレパシーを使えないので言わなければバレない。ああ、モグモグ姿も美しい…!


「そうか。俺もお前に会えるのは…嬉しい。ここに寄るかどうか、本当はだいぶ迷ったんだ」


えっ!?今嬉しいって言った?私に会えるのが嬉しいって言った!?ウソ…!やだどうしよっ………えっ、もしかして、会えて嬉しいのは私じゃ無くてシシィ!?シシィなの!?


脳内てんやわんやのベルティーナはぱちくりと瞬きをしながらアルミロを見た。


僅かに耳が赤くなっているように見えるのは…日焼け……だろうか。


「い、いつでも…来てください。そのうち私がそちらに行く事になりますけど…」


この際アルミロが会いたいのがシシィだったとしてもいい!


モジモジと告げるベルティーナに、アルミロはいつも通り「ああ」と短く返事をした。




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