episode.02
はぁ…やっぱり素敵だわ……。
もう何年も共に過ごして来た気持ちというのはそう簡単には捨てられないもので、やはりアルミロは今日も格好いい。
アルミロが格好いいと、彼が連れている従獣までも格好良く見えるから不思議なものだ。
「依頼分はこれで全部なはずです。問題ありませんか?」
「ああ、問題ない」
はあああ。声まで素敵だわ…。
アルミロが所属しているサーガン討伐隊とは、曽祖父の代からの馴染みで、定期的に従獣の防具や武器の依頼を受ける。彼らが共に引き連れている従獣の約半数はベルティーナの家で育てられた獣達だ。
ちなみにサーガン討伐隊は国から特Aランクの高い評価を得ていて、皇族との繋がりもあったりする優秀な討伐隊だ。
そんな名の知れた討伐隊に贔屓にして貰っているのはとても名誉に思うし、信頼を裏切るような事は絶対に出来ない。
依頼されていた防具と武器を受け渡すと、アルミロは慣れた手つきで従獣の背に乗せて落ちないように縛った。
袖口から覗く鍛えられた腕も素敵…。
背が高くて足が長いのも素敵だし、あまり笑わないのも素敵。口数が少ないのは不器用だからでしょう?ああ、素敵。
アルミロに会うたびベルティーナは素敵連鎖が止まらない。言ってしまえば前世から恋焦がれていた相手なのだ。こればかりはどうしようもない。
例え彼がこの世界のヒロインと結ばれる運命にある人だとしても、この想いを胸に秘めるのはタダだ。辛いけど。
私はたまに会話だけ登場する顔もない街娘Aだとしっかり自覚して、これからもその身に相応しく獣達と共に陰ながら彼らを支えていこう。
よしっと小さく拳を握ってこれからの方針を定めたベルティーナを他所に、アルミロは師範に声をかけていた。
「いつも大口で悪いな。どうか、体を壊さないようにしてくれ」
はああ!アルミロ様が老人を労っている……素敵…!
「なぁに、問題ありませんで。こちとら逞しい孫がおりますんでな」
「なっ!?…ちょっと!師範!!!」
好きな人の前で逞しいだなんて…それはいくらなんでも酷い。たしかに淑やかとは程遠いけれど、そんな事言わなくたっていいのに…!
疎い師範はベルティーナの淡い恋心に気づくはずもなく、気前よくガハハと笑っているが、その横でベルティーナは顔を真っ赤に染めていた。
ああもう恥ずかしい。逃げ出したいけど逃げ場は無いし入れる穴も見当たらない。
「そうか。心強いな」
あまり笑わないアルミロが僅かに口角を上げたのを見てしまったベルティーナは膝から崩れ落ちそうなのを何とか堪えた。
笑った…!笑ったわ!素敵!
しかも心強いって!私なんかをフォローしてくださって!
今日は最高な1日かもしれないわ…!
単純明快なベルティーナの気分は100のメーターをぶち抜きそうな程、急上昇していた。誰も見ていなかったら、わーいわーいと飛び跳ね小踊りでもして喜んでいただろう。
沸き立つ喜びをベルティーナは必死で堪えた。
「新たな従獣を迎え入れたい。近く正式に依頼するだろうが、その時はまたよろしく頼む」
「はい、お任せくだされ」
帰るアルミロをベルティーナは店先で見送る。客に対しては全員こうしているのだが、これ程までに別れるのが惜しいと思うのはアルミロ以外にいない。
その身の無事を祈り、次に会える日を待ち望む相手はやはりアルミロだけだ。
「また頼む」
アルミロの別れの挨拶は短い。ベルティーナの事を何とも思っていないのだから当たり前だ。
「はい。お気をつけて」
ベルティーナも立場を弁え、短く返事をして見送る。
気分メーターは60ほどまでに落ち着いていた。