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episode.15



「ベルティーナさん!!ロップ!!!」


嬉しそうにこちらに手を振るイレイナは今日も可愛らしいのだが、ロップの受け渡しに指定されたのが王宮だった為、ベルティーナはガチガチに緊張している。


こうなった原因は、ロップが急にベルティーナと引き離されて、更に知らない場所であまり慣れていない自分との生活は可哀想だから最初だけでも一緒にというイレイナのヒロインらしい優しさと情けの心のせい……おかげである。


ついでにフィリオ王子が会いたがっているなんてイレイナに聞かされて、小心者のベルティーナが緊張しないはずが無かった。


「アルミロ様も、ようこそ」

「ああ」


そしてどういう計らいか、はじめての王宮は緊張するだろう自分はフィリオと面識があるからなんて言ってベルティーナにはアルミロが付き添ってくれている。


仕事とは言え、他の女の人と一緒にいる所をイレイナに見られて大丈夫なのだろうかとベルティーナはここに来る前から冷や汗が止まらなかった。


「アルミロ様も一緒に来るとフィリオ殿下に伝えたら、すごく喜んでいましたよ」

「はぁ、そうか」

「ふふふ」


表面上では大丈夫そうに見える事にひとまず安心した。


「大丈夫か?」

「…き、緊張して」

「分かりますベルティーナさん!私もようやく慣れてきましたけど、緊張しますよね」

「王子様に会う事なんて無いと思ってたから…」

「普通にしていたらいい」


普通がどういう事かすら分からない。それに果たして王子の普通と街娘Aの普通はイコールで繋がるのかどうかというのも疑問だ。


イレイナの相談を「そのままでいれば?」なんて簡単に言っていた自分の首を絞めてやりたい。そのままとは一体なんなのか。


ベルティーナは今にも飛び出しそうな心臓をなんとか体の内に留めてイレイナの後に続く。長い廊下が永遠に続いて目的地に辿り着かなければ良いのにとすら思う。


それが無理ならせめて早めに帰りたい。


とうとうその時がやって来て、長い廊下の奥の大きな扉に手をかけようとしているイレイナをベルティーナは慌てて制止した。


「ち、ちょっと待ってイレイナ!最後にもう一度確認して、どこかおかしなところは無い?」


ベルティーナは今日、特別変わった格好をしているわけでは無いのだが、いつもよりはきっちりしたよそ行き用の衣服を身にまとっている。こんなに動きづらい服を着る機会なんて滅多にないのだ。


「大丈夫ですよ?ねぇ、アルミロ様」

「ああ」

「ほ、本当に……?」


アルミロのきっちりした隊士服は何度も見た事があるから違和感はないどころか卒倒しそうな程にかっこいいのだが、最後に鏡に映った自分と言えばこの上ない程に似合っていなかった。なるほどこれが芋女かと納得したくらいだ。


イレイナは何でもかんでも可愛い可愛いと言うから正直信用出来ないし、アルミロはいつも通りに短い返事で本当かどうかもよく分からないし、ベルティーナは疑心暗鬼になっている。


変なら変だと言ってほしい。


するとイレイナがアルミロに向かってちょいちょいと手招きをして、背を向けたかと思うと何やらコソコソ話し込んでいる。


へ、変なら変だと言ってほしい!!


すぐに話し終えた2人がこちらに向き直り、ベルティーナは何を言われるかと体を緊張させた。


んんっとアルミロが咳払いをして口を開く。


「よく、似合っている。何も心配しなくていい」


ベルティーナが息をするのも忘れて固まったのは言うまでもない。イレイナの前で申し訳ないのだが、まだ全然アルミロの事が好きなのだ。


「ほら!アルミロ様もこう言ってますし大丈夫ですよ」


にこやかに笑うイレイナの後方、目的の場所だった重そうな扉が、誰も手を触れていないと言うのにガチャリと開いて、ベルティーナはギョッとした。中からヒョコッと顔を出したのは僅かに癖のかかった金髪の青年だった。


「やあ、よく来たね。楽しそうな声が聞こえていたけど中々入って来ないから迎えにきちゃったよ」

「あーもう、フィリオ殿下!ちょうど今伺おうとしていたところだったのに」

「そうだろうと思って扉を開けたんだ」

「殿下は座っていてくださいよもう」

「あはは!ごめんごめん」


慣れた様子で王子と話すイレイナに、ヒロインすげー…と目をぱちくりさせているベルティーナの隣にアルミロがスッと佇む。


「イレイナから話は聞いているよ。ようこそ、ベルティーナ嬢…ベルティーナで良いかな?」

「かっ…構いません……」

「その子がロップだね。君が育てたってね?やぁ、いい毛並みだ。アルミロも良く来たね」

「ああ」

「そんなに嫌そうな顔をしなくてもいいのに。僕に会わせるのがそんなに嫌なの?」

「余計な事を言うな」

「あっはははは」


ま、眩しい…。これが人気投票第1位の輝きか。


ベルティーナはどこか夢心地でこの状況を眺めていた。





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