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episode.12



あれから4日が過ぎたが、アルミロは未だベルティーナの前に姿を見せていない。本当に大丈夫なのだろうかとどうしても心配になるのだが、何かあったら彼にはイレイナがいる。


ベルティーナは余計な思考をしないようにと、いつになくあれやこれやと仕事に勤しんでいた。


「いつになく熱心じゃないか、ベルや」

「師範ももう若く無いからね。私が継いで行かないと」

「ワシはまだまだ現役じゃぞ?ひ孫を見るまでは死ねん」

「じゃあまだまだだわ」


後継の弟はまだ3歳。結婚して子供を作るとなると早くてもあと15年はかかる。ベルティーナは結婚適齢期ではあるものの相手がいないのであればどうしようもない。


ついアルミロの事を考えてしまいそうになったベルティーナは急いで思考を切り替えて、従獣達の防具作りに没頭する。


次に討伐に同伴させてもらうのは3日後。その時に嫌でもアルミロの容態を知る事が出来る。それまではとにかく余計な事は考えないようにとベルティーナはひたすらに手を動かしている。


その手は切り傷やマメが出来ていて、柔らかな女性らしさを忘れつつある。イレイナの手は華奢で白くて綺麗な可愛らしい手だった。この手一つすら敵わない。


さすがヒロインだよな、とベルティーナは自嘲した。


店の扉が開く音がして、ベルティーナは視線をあげた。従獣も一緒に入って来れるようにと、工房にはなるべく余計なものを置いていない為、馴染みの人は躊躇なく共に連れてきた従獣を店の中に入れる。


ベルティーナはその従獣を見ただけで、アルミロが来たのだと分かり、ドキンと心臓が跳ねた。


「おやおや、いらっしゃいませ。どうしましたかな?」

「急にすまない。彼女を少し、借りても良いか?」

「はいはい構いませんよ。ベルや」

「…はい」


アルミロが来た事を知りながら、それでもベルティーナは師範に呼ばれるまでアルミロを意識しないように頑なに作業を続けていた。


おおよそ話の内容は先日の治験による体調不良の事だろう。最悪、イレイナに治癒してもらったと聞かされるかもしれないなと覚悟し、なるべく早く話を終わらせようと決めてベルティーナはアルミロの前に立った。


「先日は不甲斐ない姿を晒してしまって悪かった」

「いえ。その後いかがですか?」

「薬の効果は一時的なものだ。今は問題ない」

「それは良かったです」


よし、終わった。


ベルティーナはにっこり笑ってアルミロの前から立ち去ろうとしたのだが、話はまだ終わっていなかった。


「詫びと言ってはなんだが、2人で食事でもどうだ?」

「え?」

「次に同伴に来るのは3日後だっただろう。都合が良ければその日にでも」


え?え??え???


「そ、そんなに気を遣って頂かなくても」

「忙しいか?」

「いー、忙しくは…無いですけど…。アルミロ様の方が大丈夫なのかと思って」

「問題ない」


話を早く終わらせるどころか、とんでもないことになってしまっている。食事に?2人で?


「俺の奢りだ」


そんな事は心配してないんだわ。


縦に頷かないベルティーナがお金の心配をしていると思ったのか、的外れな事を言ってくるアルミロ。そう言う問題じゃない。


イレイナに誤解されませんかそれ。それとも既に承諾を得ているのだろうか。あれくらいでわざわざお詫びだなんて、気にしなくて良いのにと思うのだが、アルミロが真面目で律儀な性格だと言うことも知っている。


「…じゃあ………はい…」


そして欲に負けた。くそぅ。


「作業中だったろう。急に邪魔して悪かった」

「いえ、お気遣いなく」

「じゃあまた後日」

「はい」


帰ろうとするアルミロをベルティーナは店先までついて行って見送る。もう癖のようなものだ。


従獣に軽々と跨ったアルミロは最後にもう一度その瞳にベルティーナを映した。


「…楽しみにしている」

「は……………」


ほとんど言い逃げのような形で去っていくアルミロを、ベルティーナは口を半開きにして見送った。いつものように「じゃあ」とか「また」とか、そんな事を言うだろうと思っていたベルティーナの口は、「はい」と返事をするためにスタンバイしていたのだが、あまりの予想外の言葉にたった二文字の返事すらもまともに出来ないまま、ベルティーナの半端な阿呆面だけがそこに残った。





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