episode.11
「あの、ベル…」
「うん?」
「アルミロ副隊長なら、もう落ち着いていたし、大事をとってるだけ、だから…大丈夫だよ」
まだ陽が落ちたわけでもないので1人で帰れると言ったのだが結局ベルティーナはグイドと一緒に2人と2匹で帰路についている。
最後までアルミロがベルティーナの前に姿を見せる事は無かったが、グイドもマウロももう大丈夫だとそれしか言わないのでそれを信じるしか無かった。
せめてもの救いは「近いうちに顔を出すように言っておくから安心してくれ」と帰り際にマウロが声をかけてくれた事で、近いうちに顔を出せるくらいには大丈夫なんだと思えた事くらいだ。
ベルティーナはアルミロの体調を心配して気落ちしているのももちろん間違いでは無いのだが、落ち着けば落ち着くほど、心がダメージを負っていくように痛む。
行かないでくれと縋るように掴まれた腕の感覚がまだしっかりと残っている。何をすれば良いかと尋ねたベルティーナだったが、乱れた呼吸の合間にアルミロは、イレイナの名を口にした。
イレイナは治癒魔法が使える。あの場にいたのがイレイナだったなら、きっとあの苦しみをすぐにでも取り除いてやれたのだろう。
苦しい、痛い、辛い…そんな時にアルミロが一番に思い出すのはイレイナの事なのだ。自分では、何の助けにもならないのだ。
そんなことは前々から言い聞かせていたはずだったのに、まだ自分はどこか夢を見ていたんだと思い知らされた。
「ねぇグイド」
「なに?」
「アルミロ様は、何の薬の治験を?」
「………それは、言えない」
ごめんと謝罪するグイドにベルティーナは力無く笑った。
ベルティーナにはそんな些細な事を知る権利も無い。宮廷に所属しているグイドやイレイナなら、簡単に手に入る情報なのだろう。
やはり自分はただの街娘A、しがない従獣屋の娘。良い加減彼の事は諦めなければならない。
身の程を弁えて、適切な距離を保とう。むしろちょっと避けるぐらいでちょうど良いはずだ。師範か父さんに頼んでもう少し仕事も貰おう。忙しくしていれば、アルミロのことを気にしている余裕もない。そうしているうちに自然とこの気持ちは消化されているに違いない。
口数も少ないままそんな事を考えているうちに自宅に着いていた。
「ベル、あの…心配なのは分かるけど、俺の事、信じて欲しい」
「…え?」
「アルミロ副隊長は、本当に大丈夫、だから…」
そんなにしょんぼりしていただろうかとベルティーナは笑った。折角送ってくれたのに、グイドに気を使わせてしまったのは申し訳ない。
「グイドは嘘つかないから、信じてるわ」
「うん。だから、ベルも気にしすぎないで、しっかり休んで」
「ありがとう」
「あ、後で俺も…新しい防具、頼みに来るから」
「分かったわ。師範に伝えておく」
いつも通りを心がけたおかげか、グイドも少し安心したようでその表情を僅かに緩ませてからまたねと挨拶をして帰って行った。