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episode.10



「大丈夫か、アル」


半笑いでやってきたマウロをアルミロは半眼で睨みつけた。息苦しさと胸の痛みは既に引いている。


「彼女は」

「自分で追い出しておいて気になるのか?」

「……」

「はは、そう怖い顔をすんなって。ビアンカに捕まえて貰ってる。1人で帰すわけにはいかないだろ?」


アルミロは再び頭を抱えて深いため息をついた。それを見てグイドが口を開く。


「さっきの症状は、間違いなく薬の影響。まだ、抜け切って無かったみたい」

「ははは!やられたなぁアル。まさか彼女に嫌いだなんて言っちまったのか?」

「そんなことは言ってない」

「じゃあ何を言ったってんだ」


アルミロにとってこの状況は不本意以外の何者でもない。マウロが面白そうにしているのが何よりも面白くないが、治験薬の影響が出たとなれば、話さないと言う選択肢が無い事はよく分かっている。


アルミロは何度目かの深いため息を吐いた。


「言わなかったんだ、何も」

「はあ?」

「…彼女がもう帰ると言ったって……まだ帰したくないなんて、言えないだろ」


大体そうなると分かってはいたが、少しの沈黙のあと、マウロは傑作だ何だと言って大笑いした。だから言いたく無かったんだとアルミロは舌打ちをする。


「あの、ごめん…。俺、意味が分からない」

「グイド、説明してやる代わりに、この件は上に報告しないでもらえるか。男の威厳に関わる話だ」

「………聞いてからじゃないと、判断できない」


グイドの返事に、「だそうだが?」とこちらを見るマウロに、アルミロはもう好きにしてくれと目配せをした。


「良いかグイド。今回の治験薬の名称は()()()だ」

「知ってる。イレイナさんが作った薬。俺も試した」

「薬が効いている間、そいつは本心しか喋れねぇ。万が一嘘をついたらどうなるか」

「さっきの副隊長みたいな症状が出る。…でも、嘘は吐いてないって」

「言葉を話さなくたって、嘘はつけるんだぜ」

「どう、やって…?」


マウロがニヤリと笑うのが目の端に見えて、アルミロはまたため息を吐いた。


「例えばそうだな。惚れた女が目の前にいるが、まだ陽も明るいのにもう帰ると言い出した。男は引き止めたいと思うのに彼女に声をかけなかった。男の本音は()()()()()()だ。何も言わないという事は、彼女を帰す事を意味する。事実や思考と反する事をした時、人はそれを嘘と呼ぶんだぜ」


何が例えばだ。つい先ほどアルミロの身に起きた出来事をそのまま話しただけだ。


「………それで?」


キョトンとしながらグイドが発した言葉に、アルミロはガーンと頭を殴られたようだった。ここまで話して察してくれないとは、純粋というか、疎い。無垢過ぎるのも考えものだ。


苦い心地のアルミロを置いて、マウロは続けた。


「分からないか?この話は、アルミロがベルティーナに惚れていれば成立すると思わないか?」

「………そうなの?」


そうだと答える以外にアルミロにできる事は無かった。アルミロはまだ薬の効果が残っているし、この場合、無言でいたところでどうせ肯定を意味するのだ。


「全然気づかなかった」

「はははは!ま、そういうこった。どうする?上に報告してやるか?」

「………黙っ…ておく…」


グイドの判断にアルミロは深く感謝した。こんな事を詳細に報告されてはたまったもんじゃない。


「解毒剤は無いのか?」

「これから出来るかもしれないけど、今は、ない」

「まあ、そう長くは続かねぇさ」

「そんなのは当たり前だ、続かれてたまるか。わざわざ今日に被せやがってイレイナの奴、おかげで彼女に付き添え無かっ……なんでもない」

「ぶははははははは!!こりゃあいいぜ、良い薬だ!」

「うん。報告すればかなり実用化は近づく、と思う。使い道なんて罪人に使うぐらい、だけど」

「…勘弁してくれ」


気を緩めると、思っている事がついつい口に出てしまう。ベルティーナを前にしていた時は鉄の意思で、可愛いなんて声に出さなかったが、この様子ではいつ綻んでもおかしくはなかった。


一度はこちらに駆け寄ってくれたベルティーナが人を呼びに行こうと立ち上がったのをつい引き止めてしまったぐらいは許されて然るべきだ。恨みからイレイナの名前も口をついてしまったが恨まれる方が悪い。


普段から思った事を何でも口にするタイプでは無いアルミロが、ポロポロと本音をこぼすのがマウロはツボのようで、笑い者にされている。


元々アルミロの気持ちを知っているだけあって余計にこの状況が可笑しいのだろう。


「笑えない」

「どうする?嬢ちゃん、心配してたぜ?顔を見せてやったらどうだ」

「冗談言うな。今日は無理だ」


会ったら自分が何を言い出すか自分でも分からない。


「俺、ベルの事、送って帰る。大丈夫、余計なことは、言わない」

「……何とも無いと伝えてくれ」

「うん」


マウロや他の奴らに任せるよりグイドの方が色々信頼できる。


本当なら自分が行きたかったが、なんて事は絶対に漏らさないように口を固く結んだ。




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