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episode.01



人間の2倍も3倍も大きな怪獣(モンスター)が蔓延る世界で人類が生き抜くためには怪獣の討伐が必要不可欠である。


各地に討伐隊が点在し、隊士達は命をかけて怪獣を討伐し、その地とそこに住まう人々を守る。その勇敢さに人々は敬意を表し、彼らは名誉ある男となる。


そんな隊士達を陰ながら支援する人々も多く存在する。武器屋、装備屋、魔術師、もっと言うと彼らに寝食を提供する宿屋や食事処……そんな中でベルティーナ・ガブリエリは従獣の育手兼装備屋の娘として生を受けた。


従獣とは、隊士達に付き従い、彼らと共に前線で怪獣と戦い1番近くで討伐の支援をする獣の事を指す。四足獣ならば背に乗って移動も可能だし、鳥獣は怪物の居場所を隊士達に伝えてくれる。そんな風に獣達を育てるのが代々受け継がれて来た家業である。


ベルティーナは生まれた時から獣達に囲まれて育った。人間よりも獣といた時間の方が長いと言っても過言では無い。元より人懐っこく賢い性格の従獣は、ベルティーナの両親に代わってギャンギャンと泣き喚くベルティーナをあやす事もあったと言う。


従獣に育てられたと言っても過言では無いほど、多くの時間をそれらと共に過ごして来たベルティーナが、動物好きになるのは必然であった。


今では立派な育手の1人となったベルティーナはある日、自分の前世の記憶と思われる夢を見た。目が覚めたベルティーナは悟った。


ここは、病気がちだった前世の自分が病床でプレイしていた乙女ゲームの世界観とそっくり……


「はっ!?私は転生者って事だわ!」


ゲームのヒロインは怪獣に襲われた事によって特殊な治癒魔法の能力に目覚めた綺麗なブロンド髪の可愛らしい少女……。ベルティーナは黒髪だ。残念ながら転生先はヒロインでは無かったらしい。


だがまあ良い。毎日大好きな動物達に囲まれて、天職とも思える安定した仕事があって、健康で幸せな日々だ。


それに贔屓にしてもらっている討伐隊の副隊長でベルティーナが長年密かに恋心を抱いているアルミロ様が結構な頻度でうちに足を運んでくれて……。


アルミロ様……?


「ぎゃーーーーっ!?アルミロ・パトローニって攻略対象者だわ!私の最推しだった!!」


自室のベットの上で1人大騒ぎをするベルティーナの声に反応した従獣が「オオーーーン」と遠吠えをし、早朝から「うるさい!!」と母の怒号が聞こえてくる。


しまったと口を塞いだベルティーナだが、胸の動悸はしばらく収まりそうも無い。


アルミロは攻略対象…怪獣に襲われていたヒロインを助け出した張本人……キャラクター人気投票では3位だった(解せぬ)けど、あんな展開が現実で起こったら誰も惚れないわけが………。


ベルティーナの初恋は儚く散った。


いいんだ。大丈夫だ。私には動物達がいる。こんな事じゃなくたってどうせ叶わない恋だったのだ。せめて、憧れの人として癒しを貰うくらいは許してもらおう。


力無く着替えをして、朝食のためにリビングに向かう。失恋したって時間は止まらないし、仕事はあるのだ。失意のあまり人間らしさまでも失い、自分の顔程の大きさの鳥獣が止まり木と勘違いして肩に降り立ったって仕事はあるのだ。


ちなみにこの青い羽と長い尻尾が特徴的な鳥獣はククと名付けられていて、母が育てた。売り物では無く従業員(ペット)だ。


「おはようベル。ククはそこがお気に入りね」

「おはよう母さん……。良かった、木と間違われたのかと思ったわ」

「何言ってるの?いつもあなたの肩に乗るじゃない。それより、あんまり朝早くから騒がないでちょうだい。近所迷惑になるわ」

「はい」


従獣を育てるために広大な敷地を所有する我が家は、近所といっても十数メートルは離れているのだが、獣の声と言うのは時に連絡手段にもなるわけで、どこまでも響く。


「今日は工房だったわね?」


モグモグと朝食を頬張るベルティーナは、口の中が忙しかったのでコクコクと頷くと、見ていなかった母に「返事をしてちょうだい」となじられる。


「今日は工房。武具の注文が入ったから手伝えって師範が」

「じゃあこれ、2人分のお弁当持っていってちょうだい」

「はーい」


ベルティーナは祖父の事を師範と呼ぶ。そう呼んでもらうのが夢だったんだと目尻を垂らされては呼ばないわけにはいかなかった。


現在の体制は主に、祖父が武器装備係、父母が育手係な事が多い。理由はベルティーナの歳の離れた弟がまだ3歳である為、両親が家に残った方が全員にとって都合が良いのだ。


自宅から工房までは少し距離がある。工房はそのまま店でもある為、人通りの多い街の中に構えているからだ。


師範はもう行ったと言う。年寄りは本当に朝が早い。


ベルティーナは工房までの道中、職業柄パンツスタイルが多い自分の足元を眺めながら色気のかけらも無いもんなぁとため息をついた。





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