その2
次の日の座学を突っ伏しながら聞いた後は稽古の時間だ。めんどい。
座ったまま戦っちゃだめなのかな~。
「おい、シアルカ。なにだらけてんだよ?鍛練場へ行くぞ」
「う~。あと五分」
「こらこら。突っ伏して寝ようとするな。
ちゃんと真面目にしないと卒業出来ないぞ」
「………それもそうか」
なんとか起き上がる。その間もセフティも来るので三人で並んで鍛練場へ。
セフティは、魔弓士。まあ、魔力を込めて矢を放つ感じ?
ロフトは戦士。力自慢。他に特徴なし。さて、私の職業はなんでしょう?
希望職業にだらけ師と書いたら先生に怒られたっけ。
三人で移動する。廊下のひんやりした空気と冷たさはこれから来る夏にはいいねと思う。
夏になったらごろりと転がって冷たさを堪能しつつ溶けてしまいたいです。
「うひひ」
「シアルカったらまた変なこと考えてるでしょ~、美人なのに」
「まあね」
「いや、ほめてないから!」
「はぁ。お前ホントに怠け者だよな……美人なのに」
ロフトは呆れたように言う。
「当たり前じゃないか。私がだらけるために生まれてなかったら退屈で死にそうだよ~」
「いや、自慢気に言われてもな」
「だらけることの方が退屈じゃないの?」
えへんと胸を張って答えたら二人に呆れられたよ。まあ、気にしないけどね。
でももし自分が貴族だったとしてもやることは一緒。
最低限の仕事をして。クエストで稼いで早めにごろごろ出来る生活を堪能するのだ。
やっぱりアレかなー。Sランクモンスターを仕留めるか、レアアイテムを手に入れて換金するしかないかな~。
鍛練の授業が始まる。ムキムキの元冒険者の先生が見てくれると言う。
「みんな~!鍛えてるか~?鍛えてるよな~?」
「「「は~い」」」
これはパワハラなのでないか?
自分か鍛えてるからか、生徒たちも鍛えてると思っているのだ。めんどうです。
そして今、鍛練場の真ん中で戦ってるのはロフトと槍使いの生徒。
その槍捌きの鋭さに動けない感じかと思いきや、ロフトは稽古用の盾で受け流し素早く踏み込むと木剣で肩を打つ。続けて槍を持つ手を打つと槍使いの生徒は槍を落として降参する。
「やるな、ロフトまた強くなってるじゃないか」
「まあな。また振られたからな」
どこか自虐的に言い放つロフト。ものすごく悲しいんだろうな~。
そのロフトの言葉に生徒たちが沸く。
振られれば振られるほど強くなるスキル『フラレマン』があるから。
女子に振られるほど強くなるみたい。
「またかー!今年に入って三人目か?」
「いやいや、五人目でしょ~」
ロフトは何人もに振られてる訳ではない。
一人の女子に振られているのだ。
ロフトの目線はちらりと見学している一人の女子に向けられる。
「マリアか~。無理だろうな~」
つい一人言を呟いてしまう。
誰もが振り向く美少女でスタイル抜群。性格も良くて、もう言うことなしのお嬢様。
ここにいる男子の大半はマリアのこと好きなのではないか?
貴族のランクも人としてのランクもこちらより上か~。
あ~。このまま寝ては駄目だろうか。
ここ、暖まる床とかにしてさ。疲れたらごろごろ出来るようにしてもいいよね。
その内にロフトが鋭い剣捌きで他の生徒を圧倒している。お~、さすが~!
パチパチと拍手していると私の番だ。
本気を出さないようにしないとね。
床の冷たさを味わいつつ寝てたら負けることも出来るけど、先生に怒られるだろう。
相手はマリアさんか。綺麗な所作で目の前まで来るとにこりと微笑まれる。
「よろしくお願いしますね、シアルカさん」
「は、はい。よろしくお願いします」
あ~。貴族だから人としての格が違うと言うか上品だね。
うちは貧乏平民だから、普通にバイトとかしてるし。
そうだよね。まあ、稽古はちゃんとしよ。
木剣と盾を構える私たち。うん、マリアさん上品と言うか気品溢れる~。
「始め!」
と同時に踏み込むマリアさんの剣を盾で受け流す。蹴りをバックステップで避けて更に踏み込まれてからの突きを半身ずらして避ける。
基本的に無駄な動きをしないように最小限の動きで避けて防いで、蹴りもガードする。
「いつ見ても素晴らしい守備です」
「あ~、ども~」
だらけたいし疲れたくないので、最小限の動きと攻撃の流れが見えてしまうので、最小限の動きで避けられるの。
しかし、バトルするマリアさんは楽しそうだな。生き生きしてるな~。
周りからも歓声が上がる。さて、そろそろ。
マリアさんも息が上がって来たので、剣速が落ちたとこを叩いて剣を弾く。
そして、喉元に突きつけるとマリアさんは笑顔になる。
「……私の負けです。相変わらずの不思議さですね」
「い、いえ。それほどでも~。
それにマリアさんも本気じゃなさそうだったな。
本気だったら倒せませんでしたよ~」
だらけるために生み出されたバトルスタイルとも言えない。
あ、でも目立ちたくないから負けた方がよかったかも。
「ふふ。ご謙遜を……あなたがお強いのは知っていますよ?」
小声でそんなことを言われた。え?バレ……てる?
考えるも分からない。となもかくにもごろ寝したい。
隣に猫がいたら嬉しい。
その後も動きが遅い生徒たちの戦闘を見学と睡魔と戦いながらその日は過ごした。
次の座学も終わり放課後の帰り際。
お菓子を買って家でごろごろするぞ~と考えていたら。
「あの、シアルカさん」
「あ、これはマリアさん。どうしましたか?」
相手の方が貴族だから様付けした方がよかったかな~?きんちょ~。
「今、お時間大丈夫ですか?」
「あ、はい。どのようなご用件でしょうか?」
あ~、ふつーに喋りたい。前世の記憶では普通のモブだったしな~。
縛られたくないのにどこの世界もそんなものかな。
縛られて喜ぶのは変態てなもんですよ。
つづく