七譚 犬猿の仲
火炎の力で身体能力を高めていく。足から炎を繰り出し空高く跳ぶ。
敵が蔓延る拠点に一人降り立つ偉。
敵が彼を注目していく。
「『火魔・不知火』雑魚はここで退場して貰おうか」
熱気で蜃気楼が生まれる。
揺らめく熱が広がり、敵は次々に気絶していった。
倒れた彼らなど眼中に無く建物の中に入っていく。建物の一階では何名かの敵の中にリスタがいた。
「ちっ、邪魔が入ると言われてたが、そいつがてめぇだとはな。つくずく嫌らしい奴だ」
布マスクに描かれた牙が獲物を捉え唸っている。
「おい、硬岩組。俺様の獲物狩りに邪魔した奴は容赦しねぇ。てめぇの相手は俺だ、ヒーロー擬き」
「こっちは時間がない。速やかに倒されて貰おうか」
「それはこっちのセリフだろ。舐め腐った台詞を言ったことを後悔させてやるよ」
野獣の力を体に落とし込み凄まじい身体能力で真っ直ぐ進むリスタ。一方で、火炎の力で血の巡りをはやめ燃える炎を放ち人間を凌駕する動きをする偉。
二人は力強い攻撃をお互いに当てていく。
虎のような腕が強い衝撃を与える。炎を混じえた蹴りが強い衝撃を与える。二人は互いに飛ばされていった。
「一筋縄では行かないようだ」
火炎放射が放たれる。その炎が喰われる。
野獣が喰らいに行くが軽々と避けられる。
「うざってぇな」
「『火魔・御神火』こちらもイラつきを覚えてきたところだ」
マグマが四方へと襲っていく。
それから逃げるように走りゆく硬岩組。彼らは逃げ惑い、そして、この一階には偉とリスタのみとなった。
「もう強ぇ技使ってくるのか。バテねぇといいな。犬野郎」
地面を喰らう。
地面を喰らいながら進むことでマグマを避けながら、敵の懐に入ることができる。偉の真下から現れたが、偉は現れる瞬間に炎を下にうち空中に舞い上がることで噛み砕かれるのを避けた。
「喰らいやがれっ!」
落ちながら回し蹴りを当てようとする。そこを狙って野獣の腕が放たれる。
血反吐がマグマの中へと落ち、二つの赤い液体が混じり合った。そして、そのまま壁に向かって投げられた。
「俺様の勝ちでいいか」
「いや、勝負はついてない」
「しぶてぇなぁ。ま、因縁の相手としてはそれぐらい耐えてくれなきゃつまらねぇか」
リスタは鋭く睨んでいた。
過去を思い出しながら、偉への怒りを溜めていく。
──
───
────
宇垣リスタは壮絶な少年時代を過ごした。
家庭内暴力が絶えず、身体、精神ともに追い込まれてゆく日々。彼自身、喧嘩に手を染めていった。
荒れた日々を過ごしていく中で彼は小木という男と出会った。
彼は雅楼会の組長だった。
リスタは小木に拾われ、家庭には戻らずその組織で生活していった。もちろん、両親は何にも言わなかった。
日が経つにつれて増していく組織への愛着心と所属感。その気持ちは強く、中学を卒業後、組織に入った。組織での生活をしていく内に極道の極意を学んでいく。
リスタにとってその日々は幸せであった。
けれども、その幸せは長くは続かなかった。
ある日、現れる二人の警察。
幹部だった一人が違法な薬に手を出したため、その検挙に出たのだ。自業自得。リスタは吐き捨てるような目で見ていた。幹部だろうと一人失っただけではこの組織は強いままだ。
だが、その警察の上司と思われる男は正義とは似つかわしくない笑顔で組織を見ていた。
違法なことをしていないはずなのに組織の上層部、小木と彼の従える幹部全員が検挙されたのだ。
それが警察によるでっち上げ検挙だったことは後々知りゆくことになった。
一気に求心力を失った雅楼会は敵対する組織らに攻撃され、雅楼会は消滅した。
残された残党を嘲笑うように二人の警察が仲間を連れてやってきた。怒りに身を任せて殴りにいった奴らは容赦なく逮捕された。残党はさらに少なくなった。
リスタは部下の方の警察官の裾を掴み、でっち上げた検挙の訳を聞いた。しかし、簡単に手払い見下げた言葉で突き刺してきた。「やめて貰えるかな。君達に構う余裕はないんだ」
その警察官こそが偉だった。
リスタは偉の顔を覚えた。因縁をつけ、いつか復讐することを決めた。
極道の生き方しか知らないリスタにとって一般の生き方はとても困惑し辛いものであった。
雅楼会の復活を長く望んだ。
だが、検挙された小木らが娑婆に出たにも関わらず雅楼会は復活することはなかった。
「雅楼会は復活しない。諦めた方がいい。残念だったな、三下」
あの時の警察。偉はさらに偉くなってここへと現れた。
小木らは辛い牢生活を送っていたようだ。その生活を想像すると苛立ちが募り、リスタの堪忍袋の緒は軽々と切れた。
「おい。ふざけんなよ。警察だからって、なんでも許されると思ってんのか」
「警察だからじゃない。正義のことをしているからこそ許される。アンタらは悪だ。何も響いてこない」
リスタは思わず殴ってしまった。
偉も正当防衛をとる。
二人の喧嘩の強さは互角。
「ああ。俺は悪だ。だがな、悪には悪なりの人の道って奴がある。いつかてめぇに教えてやるよ。覚えてろよ、塩谷偉」
「宇垣リスタ。今日のところは捕まえないでおこう。しかし、次に悪事を行えば遠慮なく捕まえてやるからな」
その時から因縁の緑色の糸が二人を結んだ。
結局何も得られずにその場で立ち耽る。
その後、リスタは霊丸組に助けを求め、残党を集め牙狼会を立ち上げた。今度はもう警察にも敵にも屈しない強い組織とするため、リスタは全身全霊で組織の発展に身を投じた。
リスタは硬岩組に変わった組織に呼び出され、借りを返せと言い放たれた。そして、謎のマスクを手にしたのであった。
交渉も終わり、相手方がボチボチ帰っていった後、偉が現れる。
そうして、現在に至る。
「何してんだ?」
「お楽しみだ」
偉は炎の力で空高く跳んで反対側の壁へと移動した。
リスタはその場で構えるのみだった。
外から入ってくる風でマグマが消えていく。
「さて、決着をつけようか」
「はぁ、何言ってやがんだ。てめぇ」
マスクから飛び出る最大威力の火炎放射が真下にある穴に向かって放たれた。
リスタが掘った穴。そして、その穴はリスタのいる場所に繋がっている。
火炎放射がリスタを襲った。
マスクの力を体に注ぎ込み一時的に野獣の体にする。死ぬこと無く、最後の最後で意識を保っている。
リスタは最後の力を振り絞り、偉の懐へと入り強い一撃を放つ。
リスタはそのまま力尽きて倒れてしまった。
偉もその場に倒れてしまった。
「相打ちか。まだやるべき事が残っているというのにな」
二人の倒れた空間は虚しい音が響いていた。