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四十九譚 Mask call hole

 悪魔との対立で(ひし)めいた空間。

 森羅万象の超常現象がぶつかり合い空間は強いダメージを受けていた。限界を迎えた空間は弾け飛び時空の裂け目ができていく。

 裂け目が広がり穴となる。

 そこに現れた時空の穴。ある程度まで広がっていきそこで止まった。

「この、穴、なんだ、これ」

 私と愛溜は手を止めた。思わぬ現象を前に目を凝らす。

 見たことも無い色彩に、そして見たことも無い様子に見とれてしまいそうだ。穴は徐々に閉じていくと同時に強い引力で吸い込んでいく。

「こいつは……。まさかな、パンドラの箱が開かれたっていうのか」

 偉は何かを思い耽っていた。

 その穴の正体にピンときたものがあったようだった。


──

───

────


「すみません。異文化喫茶HoLEのホーレとはどういう意味でつけたのでしょうか。気になっていて」

 まだ喫茶店がオープンする前の話。

 二人はほとんどまっさらな店内で駄弁っていた。

「適当につけたに過ぎないがな。ホーレはホール、つまり穴からとった。異能に関する与太話なんだが、こういう伝説がある」

 まだ浅い匂いが染み渡る。

「伝説……なんですか?」

「マスクによる能力者が出てきているだろ。その能力の元はどこからだと思う」

「異界ですよね?」

「ああ。異界のオーラが溢れたことによってマスクが出てきた。では、その異界はどこにあるのか……。どうしたら行くことができるのか」

「どういうことですか?」

 朝日が窓を通り越して射していき、ホーレは優しい光で溢れていった。

「我々の常識を外れた災害級の能力が衝突し合うと地球はそれに耐えきれず異界の門が開くという伝説があるんだ」

「なるほど。それとホーレとはどういう関係が?」

「その門っていうのが穴という噂なんだよ」


 噂に過ぎない伝説が実は本当だったのならば。

 偉はその時の記憶を蘇らせ、最悪の展開を想像していた。この向こう側は現状よりもさらに最悪な世界が広がっている。



 時空の裂け目が引き寄せていく。

 満身創痍で戦い動けなくなった戦士達。逃げるに虚しく引き寄せられていく。

「くっ。なんだ、敵の襲来か」

 縮んでいく穴の中に櫛渕が吸い込まれた。

 穴の付近で彼は時空の影響で歪み小さくなったように見えた。あの穴に入るのは大きさ関係ないようだ。

 ゼットが吸い込まれた。

 凛も吸い込まれた。

 縮んでいく穴と吸い込まれ消えていく仲間達。もう少し粘ればあの穴は消失することは目に見えていた。

「まさかね。せっかく魔王になれる算段はついてたのに」

 愛溜も穴の向こうへと消えてしまった。

 あの穴の周りでは能力は無効化されるようで、地面に敷き渡る蔓が消えていく。

「奈路。僕は──」

 翔も穴の向こう側へと吸い込まれてしまった。

 私もジリジリと吸い込まれていく。

 後一分、もしかしたらそれ以下。それだけさえ待てばきっと穴は閉じて消失するだろう。ほんの僅かになった狭間はさらに縮んでいく。

 偉と私が吸い込まれかけていく。このままだとお互いに穴の中へと。しかし、もし一人が捨て身を取ればきっと一人は助かる。それだけ穴はもうそこまで縮んでいるのだ。


 どこからか声が聞こえる。「小林ヤコの死は違った。華々しい最後だったよ。彼女は翔を庇って死んでいったんだ。勝てっこない敵も道連れにしてね」これは愛溜の声だ。いや、これは私の記憶だった。

 友達の華々しい最後が想像されていく。

 彼女と同じ(わだち)を踏んで死ぬのも悪くなさそうだ。

 咄嗟に手が出ていた。

 思いっきり偉を突き飛ばす。

「おい。何のつもりだ」

「一緒に死ぬよりもいいと思って」

 私にはもう何も残されていない。思い残すことなど何も無い。

 大切な友達は死んだ。今の友達も死んだ。クラスメイトも先生も死んだ。両親だってもう死んでいる。大切な人は手から零れ落ちる水のようにすり抜ける。助けることなどできることなくいつの間にか死んでいた。

「私にはもう何も守るものはない。けど、偉さんは違う。大切な奥さんがいる。だから、まだ生きなきゃいけないんだよ」

 消えかけの穴の、時空の変化を受けていく。

 何か話すなら最後の一言になる。私はその最後をこの一言で締めくくった。


「フラれたけど。それでも私は……今も偉さんのことが好きです」


 さよなら──


 穴は私を吸い込んだ。それを最後に、穴はそこから閉じて消失した。狭間の中、私達は仲間を二人残して新たな未知へと飲み込まれていった。

 その場に残された二人。吸い込まれる前に助かったリスタと、私に助けられた偉。彼らは悲しくも静かなその場に取り残された。

 透き通った空。白雲が通り過ぎていく。

 爽やかな風が通り過ぎる。

 優しい太陽が温かい光を浴びさせる。

 それなのに(むな)しい雰囲気が二人を包み込んでいた。



 超常現象を繰り出す異能力の衝突が呼び覚ましたパンドラの箱。


 (M)(a)(s)(k)(c)(a)(l)(l)(h)(o)(l)(e)


 ある日、自由に雨を降らせるマスクを手にした。雨女となり、何日か過ごした後、愛溜の陰謀に巻き込まれた。その時に、出会ったのが偉だった。

 偉との対立を経て、私は罪滅ぼしのためにホーレで働くことになった。だけど、いつしかホーレがかけがえのない大切な居場所になっていた。

 愛溜の陰謀。硬岩組との対決。ショッピングモールでの対決。そして、黒奪還のための山荘での対決。

 いつしか仲間も増えていた。世間を賑わせる程の巨悪ラグナマフィアとの対立。それもまた愛溜が絡んでいた。

 愛溜との対決。しかし、彼女と一時休戦して悪魔と戦うことになった。圧倒的な力を持つ悪魔に苦戦を強いられるが、仲間達と力を合わせ悪魔に打ち勝った。

 だが、結末は──


 これは、ふとしたきっかけで異能力マスクを手にした一般人がマスク所持者の陰謀に巻き込まれ、異能バトルをしていくことになるバトル奇譚である。

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