四十六譚 九つの戦士
暗雲が空一面を覆う。
世界を滅ぼす力を持つ悪魔は雷、焔、氷、竜巻を操り、付近を瓦礫の山に変えていった。
瓦礫の山を踏みしめて九つの戦士がその悪魔に対峙する。
悪魔を喰らおうと炎が揺らめき。
悪魔を養分にしようと植物が蠢き。
悪魔を狙う野獣の唸る声が響き渡り。
悪魔を我がものにしようと雨がうねり。
悪魔を倒さんと、いくつかの能力が悪魔を穿つ。
それでも悪魔は殺られない。
真っ平らな地の上で天空の悪魔を睨んでいく。周りの建物は消えた。瓦礫の上に降り立つ悪魔は周りに毒を纏わせていた。
刺股が真っ直ぐ向かう。そして、銃弾が放たれ悪魔を襲った。
カコウの体に空く風穴。そこが悪魔の体に変わっていく。
「小童。小賢しい」
毒が放たれる。その毒に向かって彼は走り出した。歪んだ時空のサークルに入った毒は時空の狭間へと消えていった。
「正義は必ず勝つ」
刺股から鋭い槍が出た。その槍で悪魔を切り刻もうと振り回されるが、悪魔の爪による無数の乱撃によって防がれた。槍では捌ききれない程のカウンターが襲いかかり赤い血を出しながらその場に倒れた。
「あれ? ライム? 来てたの……」
スライムが傷を吸収していく。戦闘から離脱した櫛渕と彼を回復させていくライムが遠くから吸引され瞬間移動した。
人外のモンスターの中でもさらに強力な敵に私達は歯が立たない。それでも必死に食らいついていく。
悪魔の放つ竜巻が私達を飲み込もうとしていく。
足が浮き、飲み込まれかけていく。しかし、竜巻は消え今度は突風に変わった。宙にいた私達は吹き飛ばされ地面に叩きつけられる。傷痕をつけた私達は立ち上がる。
『零 : 罠』
地面に植物が敷き渡る。そこから蔓が飛び出して悪魔を捕縛した。しかし、悪魔から繰り出される黒い熱がそれらを燃やし消していく。
『十五 : 混沌完色彩』
瓦礫を掴んだ蔓がその瓦礫を叩きつける。無数の攻撃が悪魔を襲った。擦り切れる程に人間の体から悪魔の体へと変わっていく。
「痛くはないが痒いな」
悪魔に向かって黒雲から雷が落下し、周りには衝撃波が放たれ周りの蔓は破壊された。さらにその雷を吸収し、その雷を銃弾のようにして真横に向かって放った。その先には翔がいる。
『三十 : 巨壁直堅』
土の壁が攻撃を防いだ。
「まだまだ行くよ。もう僕の技の術中に嵌ってるからね」
一本の蔓が悪魔の足を掴む。
『四十 : 落下穴』
敵の真下の地面が崩れる。突如地面にできた落とし穴の中に悪魔は蔓に引っ張られ吸い寄せられた。
壁が崩れる。
全ての植物が落とし穴の周りを巡り巡っていく。
「ごめんね。僕はもう覚悟した。一撃必殺」
穴は植物によって埋め尽くされていく。
『終焉 : 永遠時空光陽樹』
落とし穴だった場所が高層ビルぐらいの大きさの大樹に変わり果てる。神秘なる大樹が悪魔を飲み込んでいた。
「この技は僕の技の中でも一番最大の技。これを受けたらもう外の光を浴びることはなく永遠にあの中に閉じ込められるんだよ」
だが、彼の欺瞞も虚しく大樹は黒い焔によって燃えていき、ミネが折れ、そこから悪魔が飛び出した。
「面倒。やんごとなき面倒」
無数の斬撃が繰り出され、それらが翔を襲った。
何とか軽傷で済んだものの、悪魔が次に繰り出した技衝撃波を受けて大きく吹き飛ばされ戦闘から離脱状態となった。
赤い炎と黒い炎が出される。
二つの炎が私達向かって放たれた。
「炎か。いちいちムカつくやろうだぜ」
軽々しく炎を喰らうリスタ。しかし、そこに向かって悪魔は技を放った。氷の細やかな粒が周りに漂う。
彼は瞬間移動でビビの元へと飛ばされたため当たらなかったが、彼がいた場所に黒い結晶が現れていた。
「速やかに負ければ楽だのに」
再び襲う黒の結晶。
彼は野生の勘で当たることはなかったが、ビビは足だけ結晶の中に閉じ込められてしまった。すぐに結晶は粉砕し、艶細やかな粒になる。結晶の中の足も微細粒に変わった。
片足の断片から赤い血がひっきりなしに流れ落ちていく。
彼女はその場に座り込んだ。
「裏切り者のせいで今頃になった。ようやく溜められた。喰らうと良い。儂の攻撃」
悪魔が空に飛び立つ。
手をあげる。手のひらから真っ黒なエネルギーが溢れ出していく。そのエネルギーは拡大し続け、地球程の大きさのエネルギー弾と成り果てた。この地は自転している。地球の自転に合わして地球に重なる惑星程の大きさのエネルギー弾も回っていく。
その攻撃が放たれたらきっと地球は崩壊する。
悪魔はそのエネルギー弾は収縮させていった。最終的にはサッカーボール程度の小さな弾になっていた。
「この攻撃はこの国を全て破壊する。儂は空からその様子を見守っておこう」
そのエネルギーは地面に向かって放たれた。
地面にぶつかるまでのたった数十秒。その時間が長く感じられた。地面にぶつかれば国丸ごとなくなる攻撃。その攻撃を前に私は何も為す術もなく見ていることしかできなかった。