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四十四譚 "道化"

 場面はホーレのある通り。

 椎奈は敵に気付きそこへと出ていた。現れるのは四天王を従える仮面の人間。

 赤く染まる薄いコートの隙間から出てくる生足が冷たい風に触れる。コートの中のミニスカートが小さく揺らめく。ついたフードを被り仮面をつけた彼女は懐から武器を取り出した。

 包帯で巻かれた取って部分。鋭くギザつく刃が黒雲の下で輝いていた。

「君達も出番がないとつまらないよね。だから、四天王の上に立つ存在が相手してあげる。死なないでね」

 ふざけた機械音。仮面に張り付いた機器が言葉を機械のものに変えていく。

「この先は通さない。ホーレは守る」

 投げられた錐は外れる。

 独特なステップで近づくが、敵もまた同じような動きで移動し懐へとは潜り込めない。正面からナイフを持って右の大振りを繰り出す。しかし、鏡の敵に向かって攻撃するかの如く攻撃は受け流される。その感覚に適応する前に刃は彼女を貫いた。

 椎奈の敗北。

 気を失っている彼女は敵によってホーレへと持ち運ばれる。喫茶店の床に転がされる。

「ライム……はやく回復させないと死んじゃうよ。黒崎黒、獅子神澪。君達は戦闘力が弱いから棄権でいいよね。そうだ、今からここで最終決戦が行われるから、裏山椎奈を安全な場所に移動させないといけないんじゃない。後、民間人の避難勧告した方がいいと思う」

 ライムは急いで彼女の傷に触れていく。少しずつ傷口は塞がれていくが、完全に治るのかは分からない状態だ。

「もうすぐ来るんじゃないかな。悪魔がここにさ──」

 澪と黒は戦うことはしなかった。言うことを聞いて、椎奈の移動と避難勧告に力を入れていった。

 ホーレは仮面の彼女のみを取り残す。

 その町は速やかな勧告によって避難がされていく。


 私は逃げる人々と逆行して進んでいく。そして、負傷した椎奈を抱えて走る澪の姿を見た。

「どうしたの。椎奈さんに何があったの?」

「負けた。仮面の人に負けた。今はホーレに立てこもってる」

「分かった。今から戦ってくる。椎奈さんの分まで頑張ってくるから」

 彼女からナイフが渡される。椎奈のナイフだった。

「椎奈ちゃんのナイフ……。お願い。絶対に死なないでね」

「もちろん」

 私はナイフを握りしめた。

 慌てふためく群衆の波を抜け静けさを残すホーレの前へとやってきた。その中には無音のBGMを背景に仮面の彼女が立ちはだかって待っていた。

「待ってたよ。鵜久森奈路」

「私が負けた椎奈さんの分も、アンタの仲間に殺された人達の分も、全てを背負って倒してやる」

 ナイフを強く握り相手に向ける。

 もう昔のような自分はいない。覚悟決めた瞳で敵を捉え、冷酷な気持ちに切り替えていく。戦わなければいけない。だからこそ、私は戦うんだ。

 ホーレの机に飛び乗った。

 彼女もまた机に飛び乗る。

「さあ、狂気的な遊び(ころしあい)を始めようか」

 暗殺者の中でも上位の存在である椎奈を倒した彼女の実力はダテではない。左利き(サウスポー)の攻撃が飛んでくる。対策をしないと防げない。しかし私は修行で何度も左利きと戦ってきた。右利きの相手よりも慣れている。

「ふふふ。どこまでついてこれるかな」

 足場を次々に移りながらナイフを振り回す。

 きっと椎奈は左利きに対処できずに負けたのだろう。しかし、私には左利きに対処できる。それ以上に──

「いつまでもついていってやる。もう弱い私じゃないから」

 毎日毎日ナイフを振り続けた日々。ことある事に左利きの修行仲間と模擬戦を繰り返してきた。その模擬戦の延長線。太刀筋、動き方、攻め方、この戦い方を私は知っている。この戦い方をする相手とだけ練習を繰り返してきた。私は仮面の彼女と難なく渡り合っていく。

 鏡のように攻撃に攻撃が当てられる。

 そして、次の攻撃について考える。さらに、場所の移動がさらに選択肢を増やしていく。

 何度も何度もナイフとナイフをぶつけていく。

 鋭く伸びるナイフと鋭い牙のつくナイフ。お互いにナイフはボロボロと成り果てていた。


「もう四天王戦は終わったみたいだね」

 ホーレの元へと現れた一つの人影。その気配を感じ私達は互いに距離を置いて威嚇しあった。

「間に合ったか。こいつが全ての元凶か。腕が鳴るな」

 続いて、

「間に合ったみたい。とりあえず、マスク持ってる人には連絡入れといたから」

 さらにその後に、

「おい、おかしいだろ。何で俺様の連絡先知ってんだよ」

「あの子に聞いたけど、あなた、GPSと盗聴器仕掛けられてるらしいよ」

「は? 犯罪じゃねぇか。何でそんなんが仕掛けられてんだよ」

 四人の仲間が応援に駆けつけた。


 しかし、敵側にも仲間が現れる。

 ホーレの天井は崩れ、壁は軽々と破壊され、周りの家々は粉々に消えていく。天空よりチート=ヲ=カコウ、もとい悪魔が降り立った。

「これでこちら側の役者は揃ったよ。後は君達の役者を待つだけだね」

 忌々しいオーラが周りに広がっていく。

 黒い雲、黒い旋風。

 その中に二つの影が駆けつける。

「正義のためにこいつは打つ。こいつを生かしておけば人が何人も死ぬ気配を感じるからな」

「私、助っ人、として、来た、けど、場違い、の、気が、する」

 私の後ろには六人の仲間。

 遅れて最後の一人がやってきた。

「みんな大丈夫? 僕も戦うよ」

 翔がそこへと降り立った。その様子を見た敵が、機械の声で話しかけていく。

「小森翔。小林ヤコの遺言は伝え終えたのかな……」

「ああ。もちろん、終えてきたよ。……あれ?」

 衝撃の事実を知ることになった。私の友達である小林が死んだのだ。その衝撃に驚きを隠せない。

「遺言……。死んだの?」

「それと、水地茉莉花と和名田ミエルも死んだよ。クラスメイトも先生もほとんど消えた。無様な死に方でね。けど、小林ヤコの死は違った。華々しい最後だったよ。彼女は翔を庇って死んでいったんだ。勝てっこない敵も道連れにしてね」

 大切な人を庇って死んでいく。彼女が翔のことを好きだということは知っていた。ヤコは好きな人のために命を捨てたのだ。

 彼女の生き様が輝かしく見える。

 彼女の戦う意志を心に宿すことにした。


「ちょっと待って。ごめん。何でそのことを知ってるの?」

「気になるかい。簡単だよ。とりま、役者は全員出揃ったみたいだし明かしてあげるよ、ウチの正体──」


 フードを外されていく。

 艶かなボブカットの髪が旋風になびいていく。

 仮面が外され、地面に転がっていく。

 愛溜は薄やかに笑っていた。


「君達は四天王に打ち勝ったみたいだね。おめでとう。晴れて愛溜のとっておきを発動することができるよ」

 ホーレ側に衝撃の雰囲気が渦巻いていった。

 私は何にも驚くことはなかった。ナイフをぶつけ合っていた時から気づいていた。


 仮面の正体は立花愛溜ということに。


「さあ、最後の一大最終決戦(イベント)を始めようか。これがウチからのプレゼントだよ。受け取ってね」


 指パッチンで音を響かせられる。それと同時にスマホの起動ボタンが押され何かが起動していく。

 次の瞬間、眩い光に包まれた。

 目を瞑り開く頃には。


 黒い血が雨のように降り頻っていった──

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